ホンダは同社独自の2モーターハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-MMD」(以下、i-MMD)に関するワークショップを開催した。場所は同社創業の地である静岡県・浜松市。このワークショップには、2019年4月1日付けで本田技術研究所の社長に就任する三部敏宏(みべ・としひろ)氏が出席し、ホンダの電動化戦略についてプレゼンテーションを行った。

「i-MMD」は駆動用と発電用の2つのモーターを持つハイブリッドシステムで、走行シーンによってモーター走行とエンジン走行を切り替えられるのが特徴。発進から街中のクルーズまでをモーター駆動でこなすので、ほとんどの場面でEVのようにトルクが強く、レスポンスのよい走りが味わえる

電動化の進展は「想定以上」に早かった

「ここ数年、電動化の動きは全世界で想定以上に進んでいる」。ホンダの電動化戦略を説明するにあたり、まずは急激に変わりつつある自動車業界の状況に言及した三部氏。ホンダでは当初、「内燃機関(エンジン)の効率を上げつつ、2020年頃まではハイブリッド車(HV)を徐々に増やしていき、プラグインハイブリッド車(PHV)とゼロエミッション車(ZEV、電気自動車や燃料電池自動車などの走行中にCO2を排出しない車両のこと)については、2020年以降に展開しよう」と考えていたそうだが、「現実として(CO2排出量の)規制は強まり続けており、内燃機関の熱効率を改善するだけでは届かないレベルになってきている」という。

本田技術研究所 取締役副社長の三部敏宏氏。2019年4月1日付けで同社社長に就任する

ホンダはクルマのサイズに応じて3種類のハイブリッドシステムを使い分けている。具体的には小型クラス用の軽量・コンパクトな1モーターシステム「i-DCD」、中型クラスに搭載する2モーターの「i-MMD」、大型クラスに搭載する3モーターの「SH-AWD」の3つだ。今後はi-MMDを主力に据え、PHVとZEVも同時に展開していくというのがホンダの戦略だが、「電動車両も、それなりに台数を出していく必要がある。これまでのように技術を開発するだけでなく、事業性との両立を実現したい」というのが三部氏の考えだ。

「i-MMD」を搭載するクルマは現状で6車種。左から「アコード」「クラリティ PHEV」「インサイト」「CR-V」「ステップワゴン」「オデッセイ」

自動車販売の3分の2を「電動車両」に

2030年までに、販売する自動車の3分の2を電動車両にするというのが同社の目標。ちなみに、ホンダが2017年度に販売したクルマの台数は約520万台だ。目標達成時の内訳は、HVとPHVで50%、ZEVで15%を想定する。

ホンダの自動車販売を年間520万台とすると、2030年にはHVおよびPHVで260万台、ZEVで78万台を売らなければ目標は達成できない

EVを普及させる上で、ホンダが注目しているのは「発電段階でのCO2排出量」だ。走行中にCO2を排出しないEVを普及させても、EVの動力源である電力を作る過程で化石燃料に依存しているのでは、トータルで見た場合、CO2削減効果は薄れてしまう。国ごとに発電所の構成比率は異なるので、地域ごとに最適なクルマを投入していきたいというのがホンダの考えだ。

化石由来の燃料による発電量が赤く着色してある。化石燃料に依存する発電の比率は世界平均で約65%だ

例えば、CO2排出規制が急速に厳格化していく見通しの欧州では、i-MMDを搭載するHVを拡販し、欧州で販売するホンダ車全体の環境性能を底上げしつつ、「Honda e」(ホンダイー)などのZEVを投入することで規制に対応していく。「Honda e」を世界初公開したジュネーブモーターショー(会期は2019年3月17日まで)でホンダは、「2025年までに、欧州で販売する四輪商品の全てを電動車両に置き換える」と宣言。「3分の2」よりも踏み込んだ目標を掲げ、クルマの電動化に注力する姿勢を改めて明確にした。欧州向けi-MMD搭載商品としては、2018年にSUVの「CR-V」を市場投入している。

2019年夏に欧州の一部の国でホンダが発売する新型EV「Honda e」

中国では昨年、同国専用EVの「理念」を発表。2018年12月には量産を開始しており、2019年は順次、販売を拡大していくという。中国では現地のリソースを有効に活用し、競争力のあるEVを展開していく考えだ。

ホンダの中国専用EV「理念」

「i-MMD」シフトへの準備は整った

地域によって戦略は異なるものの、ホンダの電動車両開発にとって「i-MMD」が核となるのは間違いない。モーターによる走行領域が広いi-MMDは、PHVやEVを開発する上でもベースとなる技術だからだ。三部氏は「モーター、バッテリー、IPU(バッテリーと制御装置が一体になったパーツ)といった各構成要素の技術革新により、i-MMDにシフトしていく準備は整った。今後はi-MMDをホンダHVの中核に据え、さらなる高効率化とバリエーション展開を図っていく」とする。

「i-MMD」で使うモーター

国内外でのi-MMDの本格展開に向けては、「協業を含め、生産規模の拡張に手を打ち始めた」と三部氏。「i-MMDの世界展開に向けては、浜松工場の生産能力を上げるとともに、モーターの現地調達が必要不可欠になってくる。そこで、日立オートモーティブと合弁会社を立ち上げた。ホンダの独自技術と日立オートモーティブの生産技術を組み合わせることで、高性能かつ低廉なモーターの提供を目指したい。今は日本と中国で生産準備を進めているところだ」と話していた。

今回のワークショップでは、ホンダのトランスミッション製造部 浜松工場を見学した。この工場では自動車用の多段変速機(AT)、無段変速機(CVT)に加え、i-MMDの重要な構成要素であるモーターも生産している(画像はモーターの生産ライン)。現在は5本目のモーター生産ラインを増設しているところだ

i-MMDを核とする電動化戦略の推進に向けて、準備は整ったとした三部氏だが、電動車両販売の数値目標については、「ホンダが勝手に数字を決めても、最終的にはお客様に買ってもらわないと達成できない」と指摘。i-MMDを搭載するクルマに商品としての魅力がなければ、目標達成は難しいとの認識を示した。

「ハイブリッドだからといって、燃費がいいだけではつまらない。i-MMDでは走りにも強くこだわった」。三部氏はi-MMDについて、燃費と走りを両立したホンダらしい技術だと強調する。この技術を市場がどう評価するかが、ホンダの今後の電動化戦略を左右しそうだ。

(藤田真吾)