アップルは3月8日、日本での雇用創出状況をまとめた特設ページを公開しました。2016年8月以来、およそ2年半ぶりの公表となります。前回と比べると、雇用を創出した人数や部品のサプライヤーの数、アプリのデベロッパーの収益は右肩上がりに伸びており、米国企業であるアップルが日本の産業や雇用に大きな貢献をしていることが分かりました。さらに、アプリ開発者を中心に働き方改革の浸透も後押ししている好ましい事実も明らかになりました。
日本において“アップル経済圏”がさらに拡大
今回アップルが発表したデータは、アップルと関係のある仕事をしている人や企業の数などをまとめたものです。日本では、iPhoneやiPadなどの機器で使われる電子部品のサプライヤーやアプリ開発者など、これまでに80万人を超える雇用を創出したり支援したことが明らかになりました。前回の発表では71万5000人だったので、2年半ほどで8万5000人も上積みしたことになります。
社外の協力会社だけでなく、アップル自身の日本における正規雇用の社員数も増加しています。現在の社員数は4,000人で、前回の2,900人から大幅に増加。特に注目したいのが、iPhoneをはじめとするデバイスの技術開発に携わる人もいること。アップルは、米カリフォルニア州クパチーノの本社や周辺にある拠点で製品の開発を行っていることがよく知られていますが、日本でもアップルの最新デバイスの研究開発が進められていたのです。
アプリ開発者の働き方改革にもつながっている
iOS用アプリを制作するデベロッパーについても、日本を拠点とするデベロッパーの数は70万2000、日本のデベロッパーがApp Storeであげた2008年以降の収益は実に240億ドル(約2兆6800億円)と、雇用や収益の数字が2年半前よりも増加したことをまとめています。しかし、アップルがそれらの数字以上にアピールしているのが、アプリ制作に携わることで働き方改革につながることや、開発者自身の人生を豊かにしていることです。
特設ページでは、「82歳のiPhoneアプリ開発者」として2017年のWWDCに参加した若宮正子さんを紹介。「iPhoneアプリの開発で交友が広がり、さまざまな世代の仲間と一緒に日々楽しさを見つけています」とのコメントを載せています。
2018年のWWDCにスカラシップ枠で参加した東大生の平井亨武さんは、初めて訪れたシリコンバレーで各国のデベロッパーと意見交換し、それまでの自分を完全に変えるほどの多様な視点に出会ったそう。「特に、スマホアプリを介するシェアリングエコノミーに未来があると感じました。問題を解消したモビリティサービスを発明して普及させたい」と夢を語ります。
アプリ開発は働き方改革にもつながるとしています。辞書や図鑑などで人気アプリを輩出する物書堂(ものかきどう)は、App Storeで年間2億5000万円超の収益を上げる会社でありながら、すべての社員が自宅など自分が働きやすい場所で仕事をしているため、オフィスを持っていないそう。同社の廣瀬則仁氏は「生産的なワークスタイルを実現できたのはApp Storeの存在のおかげ」と評価します。
小規模のデベロッパーだけでなく、パソコン用のポータルサイトとして絶大な認知度を誇るヤフー(Yahoo! JAPAN)もiPhoneアプリ重視の姿勢を見せています。ヤフーの各種サービスを続々とiOS版のアプリにしており、現在では46本ものアプリを擁するまでになりました。「Yahoo!防災速報」は、大雨や熱中症、地震発生などの警戒情報をプッシュ通知で知らせてくれ、アプリ化によりブラウザーにはないメリットをユーザーにもたらしています。
アップルも認める“ものづくり大国・日本”
2016年8月の前回発表から現在の間に米国で起こった大きな変化といえば、自国第一主義を掲げるトランプ大統領が2017年1月に就任したことです。大統領は米国企業に対し、事業の拠点を米国に置いて雇用を創出するように強く求めていることはよく知られています。アップルも名指しで圧力をかけられたといわれていますが、そのような状況でもアメリカ偏重に流されることなく、日本のものづくり産業の雇用創出に貢献し続けたわけです。
アップルも認める“ものづくり大国・日本” はまだ健在だと感じさせました。