米ZDNetのWindows 10に関する記事が波紋を呼んでいる。Microsoftウォッチャーとして著名なMary Jo Foley氏は記事で、Windows 10 Insider Preview 20H1をインサイダーに公開している理由は、Windows開発チームの大規模な再編成が影響していると指摘した。
Microsoftは2018年春に組織改正を行ったが、Windows開発チームの一部がAzure開発チームに異動したという。その結果としてWindows&Device部門をExperiences&DevicesとCloud&AI(人工知能)に分割し、当時のトップだったTerry MyersonはMicrosoftを去っている。Windows開発チームの縮小は筆者も関係者から聞いていたが、その行く先までは話題に上らなかった。
MicrosoftがMicrosoft Azureに注力するのは極めて自然な流れだ。身の回りを見渡すとAIはバズワード化し、ビジネスシーンでもAI導入は当然として企業が取り組み始めている。
日本マイクロソフトが2019年3月1日に開催した記者説明会では、AI導入で2021年までに創造される革新的なサービスの割合は2.4倍、従業員の生産性向上も2.3倍と国内ビジネスリーダーの期待値は大きい。AIの活用を開始している割合も33%と出足は遅いながらも積極的だ(いずれもIDC Japanの調査結果)。
Microsoftによれば「売り上げの8割は企業法人」だという(Microsoft EVP and President, Microsoft Global Sales, Marketing and Operations, Jean-Philippe Courtois氏)。AIはもちろんAzureに注力する理由も理解できるだろう。
Microsoftは「20H1は長いリードタイムを必要とする」と説明してきたが、つまりは開発スタイルが大きく変わると見るのが自然だろう。前述したFoley氏の説明を踏まえると、Azure開発チームはWindowsクライアントやWindows Server、Xboxなど各開発チームの要望に応じて、WindowsコアプラットフォームとなるWindows Core OSを開発・提供するが、そのサイクルは6月と12月。Windows 10の機能更新プログラムリリースサイクルである4月と10月と合致しないのだ。
そのため、Windows Core OS 1906はキャンセルし、同1912となる予定のVanadium(開発コード名)に注力する。間もなく登場するであろうWindows 10 バージョン1903は2018年12月時点のWindows Core OSを基盤とし、続くWindows 10 バージョン1909も同様の基盤を用いた機能拡張に落ち着くだろう。これがWindows Insider Programにおいて19H1と20H1が登場した理由だとすれば十分納得できる。
さらにWindows 10 バージョン1809や同バージョン1903において、大規模な機能拡張が盛り込まれなかった背景も大きく影響したのではないだろうか。
繰り返しになるが、Microsoft Azureに注力するのは至極当然である。1人のユーザーとしてはWindows 10に対して、生産性向上やユーザー体験を向上させる機能を能動的に取り込んでほしいと考えている。他方でビジネスパーソンを取材していると、"変わらないWindows"を望む声が多いのも事実だ。
売り上げの8割が法人を占めるMicrosoftがどのような選択肢を選ぶのかは不明確だが、ITの世界は社会背景や企業・個人の需要変化に応じて消えてしまうソリューションも少なくない。Windowsが使われなくなる世界はまだ想像できないものの、Windowsも世の中の変化と無縁でいられない。テクノロジーの進化はWindowsを取りまく環境も変化させている。
阿久津良和(Cactus)