NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)の第9回「さらばシベリア鉄道」が3日に放送される。この回を演出したのは、映画『バクマン。』『モテキ』などの大根仁監督。これまで大河ドラマで扱わなかったテーマを取り上げるにあたり、初の試みとして外部の演出家を起用した。このたび大根監督にインタビュー。外部の視点から見た大河ドラマの魅力、『いだてん』の魅力、また、演出で心がけたポイントなどについて話を聞いた。
第9回では、1912年開催のストックホルム五輪大会に日本人として初参加することになった金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)が、ついに新橋駅を出てストックホルムに向け旅立つ。ウラジオストクやハルピンを経由してのシベリア鉄道17日間の旅が描かれる。
■無名の人物を描くことに魅力を感じた
大根監督は「小学生のときは父親と一緒に大河ドラマをずっと見ていて、一番印象に残っているのは『黄金の日日』と『獅子の時代』。どちらも有名な武将や歴史に名を残した人ではないという切り口がすごい良かったんだと思います」と、印象に残っている大河ドラマを明かし、「『大河ドラマをやらないか』と言われたときに、テーマが有名な武将や歴史に名を残した偉人だったら腰が引けていたように思う。『え? 誰?』っていう人を中心に描くことにすごく魅力を感じた」と語った。
今回、初めてNHKのドラマの演出を手掛けた大根監督。「NHKのドラマだからどうこうっていうことは思ったよりなかった。脚本があって役者が演じてそれを撮るという形は変わらない」と大きな違いは感じなかった言うが、「シンプルに美術すげーな! って思いますね。普通、スタッフのクレジットって“撮影”が最初にくるものなんですけど、NHKのドラマはまず“美術”。なんでだろうと思っていたんですけど、それがすごく象徴している。美術はNHKのドラマの歴史が詰まったセクションだと思います」と、美術に感動したようだ。
■自分らしい“ポップな要素”を大河に
本作ではさまざまなセクションに外部のスタッフが参加しており、「そういう形で新しい大河ドラマを作ろうとしているんだなと。そこで外部からの演出として何ができるみたいなことは話したり考えたりしました」と大根監督。そして、自分ならではの演出について「これまでテレビドラマや映画で僕がやってきたことはエンターテインメントだし、ポップなものだと思ったので、ポップな要素がこれまでの大河に見られなかった部分で加えられればなと思いました」と明かした。
また、『いだてん』を見ていて「ようこんなことやってるな」と驚いていると言い、「宮藤(官九郎)さんの脚本の仕掛けにも驚いているし、2人の主人公で2世代、3世代くらいの時代を描くのはとんでもないなと思いますし、近代ものということで、大河ドラマを作るメソッドがまるっきり通じない。一から新しいものを作ってるっていうのがビンビン画面から伝わってくる。毎回すごいことやっているなって」と興奮気味に語った。
■“見づらい”批判と視聴率低迷に言及
「時代が行ったり来たりしていて見づらい」「ビートたけしさん演じる古今亭志ん生に違和感がある」といった批判の声もあることについて聞かれると、「出ましたね~ネガティブな質問が」と返して笑いを誘い、「小中学生の話を聞くと子どものほうが理解が早い。余計な情報がない状況で見るとそんなことを考えない」と子供の反応を紹介。「大人は知っているからねえって思います。いろんな意見があって然るべき。その一方で、普通に理解できる世代もいるというのは、なるほどなと思いました」と語った。
また、視聴率低迷について「個人的には視聴率は何年も前から形骸化していると思っている。リアルタイムで見ることだけを計るのは。録画や配信で見ている人もいる。でも視聴率はわかりやすいので取り上げられるのは当たり前だとは思っていますけど」と考えを述べてから、自身が手掛けた第9回について「このキャラクターとこのキャラクターが時代を超えてつながるということを、編集や音の付け方に趣向を凝らした。あと、芝居のトーンも、時代が変わったときにこの人がこうなんだって、わかりやすくしてみたつもりです。すごくシンプルでわかりやすいと思います」と自信をのぞかせた。
大根仁
1968年12月28日生まれ。東京出身。 テレビ東京系ドラマ『モテキ』(10)、『まほろ駅前番外地』(13)など数々のドラマを手掛け、映画監督デビューとなった『モテキ』(11)で第35回日本アカデミー賞話題賞・作品部門を受賞、『バクマン。』(15)では第39回日本アカデミー賞優秀監督賞、話題賞・作品部門を受賞。そのほかの代表作に、『SCOOP!』(16)、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(17)、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(18)など。
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