NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(毎週日曜20:00~)で、裕福でイケメン、かつスポーツ万能という絵に描いたようなモテ男・三島弥彦役を好演している生田斗真を直撃! 1912年開催のストックホルム五輪大会に日本人として初参加することになった金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)。3月3日に放送される第9回「さらばシベリア鉄道」では、金栗たち一行がストックホルムへ電車移動する際の様々なエピソードが展開される。
第8回では、金栗を思う春野スヤ(綾瀬はるか)が嫁入りすることを、金栗の兄・実次(中村獅童)から知らされたり、弥彦と母・三島和歌子(白石加代子)のわだかまりが溶けたりと、エモーショナルなシーンが目立ったが、第9回の舞台は電車の中ということで、宮藤官九郎お得意の愉快な会話劇が際立つコミカルな回になりそうだ。
この回を演出するのは、大河ドラマでは珍しくNHKの局外から招聘された『モテキ』(11)、『バクマン。』(15)の大根仁監督。しっかりした人間ドラマとテンポの良いコメディ演出に定評がある大根監督だけに、第9回への期待が高まる。大根監督との若き日の思い出をはじめ、中村勘九郎や嘉納治五郎役の役所広司とのエピソード、そしてオリンピックに対する思いを生田に聞いた。
■大根仁監督との若き日の思い出
――生田さんは大根仁監督と以前に何度かご一緒されているそうですね。
実は、僕がこの世界に入ってまもない中学生のころ、大根さんとは何度も一緒にお仕事をさせていただきました。当時、大根さんは、予算の少ない深夜ドラマを演出されていて、冷たいお弁当を食べていました(笑)。まさか今回、大河ドラマでご一緒することになるとは、夢にも思わなかったです。
――大根監督と、シベリア鉄道でのシーンを撮られてみていかがでしたか?
ご一緒した深夜ドラマは、セットも組めないような狭いところで撮影をしていました。今回の第9回も、シベリア鉄道の車内での撮影ということで、大根さんが深夜ドラマで培った経験値がすごく生かされる回になっていると思います(笑)
■世界に挑む金栗と三島の熱い魂と挫折
――第9回の見どころを教えてください。
いまは飛行機で世界中、どこへでも行けるし、携帯電話で海外の情報を仕入れることもできます。でも、金栗さんたちは、何もない時代に、たった2人の選手と3人のスタッフで海外の地に戦いを挑みに行ったんです。彼らの熱い魂がのったシベリア鉄道の話になっています。
――ストックホルムで初めてオリンピックに参加した2人は衝撃を受けるそうですね。
三島さんや金栗さんは、まだ、スポーツという概念自体がない時代にオリンピックに出ました。だから、どうしてただ走るために海外まで行くのだろう? そこに何があるんだろう? という思いが大きかったと思います。
三島さんの場合は自分の力を試したいと、軽めの気持ちで参加したと思いますが、いざストックホルムの会場に着くと、「これは尋常じゃない」と思うわけです。周りには自分よりも遥かに体の大きい外国人がいて、自分よりもっと足の速い人がいる。そこで挫折を味わっていくのが、三島さんの今後の見どころになっていくのではないかと。
――ストックホルムでそのシーンを撮影してみて、どんなことを感じましたか?
現地で外国人の俳優さんと一緒に仕事をさせてもらいましたが、彼らはかなり身長も高いし、体も大きいし、足も速い。もちろん、そういう方をキャスティングされているわけですから。
僕たち現代人は、外国人の方々と触れ合ったこともあるし、見慣れていますが、100年前の金栗さんや三島さんからすると「とんでもないところへ来てしまった!」と思ったのではないかと。きっと、尋常じゃないほどの敗北感や屈辱をたくさん味わったんじゃないかと思いました。それはドラマでも描いていきますので、楽しみにしてほしいです。
■オフの日の思い出と役所広司への尊敬
――ストックホルムのロケを通じて中村勘九郎さんとの絆が深まったとおっしゃっていましたが、オフの日の思い出も聞かせてください。
ロケがお昼すぎに終わった日に、町中にあった遊園地へ行こうという話になり、勘九郎さんと、竹野内豊さんを誘って行きました。
遊園地に垂直に落下する乗り物があったので、3人で乗ることにしたんですが、カツカツとタワーを上がっていく時、勘九郎さんは「怖い怖い!どうしよう」と言っていたけど、竹野内さんはあのいい声で「ハッハッハ」と笑っていました。その2人に挟まれていたのが印象的でした(笑)
――嘉納治五郎役の役所広司さんとは本作が初共演となったそうですね。ご一緒してみていかがでしたか?
役所さんは本当にお芝居に対して真摯に向き合っている方だなと。ちょっとした空き時間にも台詞の練習をしたり、段取りを確認されたりしています。そういう姿を見て(役者という仕事に対して)すごく夢を見せてもらっています。
役所さんほどの実力をもってしても、まだ、俳優という仕事は、極まることのない道なんだなと。そう思わせてくれる、かっこいい先輩です。きっと金栗さんや三島さんも、嘉納治五郎先生が、日本のスポーツ発展のために尽力する姿を見て、心が動かされる部分があったのではないかと思いました。
■オリンピックに対する思いが変化
――いろいろな新しいことに試みた大河ドラマとなりましたが、出演してみてどんな感想を持ちましたか?
もう少し時間が経たないとわからないことかもしれないですが、とてもすばらしいドラマに出演できて、本当にうれしいです。2020年の東京オリンピックに向けて、少しでも手助けというか、ちょっとしたガソリンみたいなものになればいいなとも思っています。
でも、三島さんや金栗さんが「とにかく自分が楽しむんだ」と思っていたのと同じように、僕自身も今、『いだてん』の世界にいることを楽しめればいいなあと。きっと、その結果とか、そこに何の意味があったのかというのは、後々知ることになると思っています。
――まもなく2020年の東京オリンピックを迎えますが、『いだてん』に出演したことで、オリンピックに対する思いに変化はありましたか?
今となっては日本人がメダルを獲るのが当たり前になっていて、僕たち観ている側は「今回は何個のメダルをもって帰ってきてくれるんだろうか?」と期待してしまいます。でも、金栗さんたちの時代はそうではなくて、実際に2人はストックホルム・オリンピックでボコボコにされてしまいます。
そこからたくさんの努力や想いが積み重なり、日本がここまで強くなったってことは、僕は恥ずかしながら、今回『いだてん』に関わらせてもらって初めて知りました。きっと、これからオリンピックの見方が変わってくるだろうと思います。そこには計り知れないくらいの血と汗と努力があったと思うので、メダルをもって帰ってきた選手たちのことは心から尊敬したいです。また、陸上をずっと練習してきたので、東京オリンピックでも、陸上競技に注目して観たいなと思います。
生田斗真(いくたとうま)
1984年10月7日生まれ、北海道出身。1996年からジャニーズJr.として活動し、NHK連続テレビ小説『あぐり』で俳優デビュー。ドラマ『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(07)、『魔女裁判』(09)、TBS『ウロボロス~この愛こそ、正義。』(15)など多数のドラマに出演。映画は『人間失格』(10)、『ハナミズキ』(10)、『源氏物語 千年の謎』(11)、『土竜の唄』シリーズ(14、16)、『彼らが本気で編むときは、』(17)、『友罪』(18)などで主演を務めた。3月から主演舞台の劇団☆新感線『偽義経冥界歌』がスタート。
山崎伸子
フリーライター、時々編集者、毎日呑兵衛。エリア情報誌、映画雑誌、映画サイトの編集者を経てフリーに。映画やドラマのインタビューやコラムを中心に執筆。好きな映画と座右の銘は『ライフ・イズ・ビューティフル』、好きな俳優はブラッド・ピット。好きな監督は、クリストファー・ノーラン、ウディ・アレン、岩井俊二、宮崎駿、黒沢清、中村義洋。ドラマは朝ドラと大河をマスト視聴。
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