睡眠障害の一つである「過眠症」とは
3月が近づくにつれて日中の最高気温も上がりだし、春の訪れを実感している人もいることだろう。「春眠暁を覚えず」という言葉があるように、春の暖かな日差しに包まれると何とも言えない眠気に誘われ、日中についウトウトしてしまうケースも出てきてしまう。
数分うたた寝をしてしまうぐらいならば問題ないが、一度眠り込むと1時間以上も起きなかったり、突発的に寝落ちしたりするようだと、その背景には睡眠障害が潜んでいる可能性がある。今回は精神保健指定医の髙木希奈医師に睡眠障害について解説してもらった。
非器質性過眠症とは
きちんと睡眠をとっているにも関わらず、昼間にどうしようもなく眠くなる症状として、睡眠障害の一つである「過眠症」を思い浮かべる人もいるのではないだろうか。実は過眠症とは過眠を生じる疾患の総称を指し、とても幅広い概念があるのだという。今回本稿では、過眠症の中でも症状や疾患が身体的な問題に起因していない「非器質性過眠症」について説明していく。
非器質性過眠症には、以下のような特徴がある。
■昼間の耐え難い眠気
■何度も起きる居眠り
■睡眠発作(強い眠気に襲われて、本人も気づかないうちにいつの間にか眠り込んでしまう)
■朝起きてから時間がたっても、いつまでも寝ぼけたような状態が続く
「過眠症はかなり稀な症例であり、発症の病態生理学的機序や疫学的事項も不明な点が多いため、その原因はまだはっきりとわかりません。ただ、これまでの報告事例から推測されるに、『急に発症する』というものではなく、必ず何らかの前兆があると思われます」
非器質性過眠症は以下の「特発性過眠症」と「反復性過眠症」に大別できるので、一つずつみていこう。
特発性過眠症
症状
特発性過眠症になると昼間の眠気と居眠りに悩まされるようになり、睡眠発作は少ないが、一度眠り込むと目覚めるまでに1時間以上かかるとされている。夜に眠る時間も長くなりがちで、9時間以上が大半。起床時もなかなか目が覚めずにかなりの困難を伴うという。10代~20代前半に発症がよく報告されている。
「昼間に居眠りをした後も目覚めが悪く、眠気がダラダラと続きます。ただ、特発性過眠症の人を無理に起こすと寝ぼけたような状態(錯乱性覚醒)になりますし、自律神経症状(頭痛や起立性低血圧など)も伴うため、非常に厄介です」
治療法
特発性過眠症の治療法は多岐にわたる。精神刺激薬の内服のほか、「睡眠日誌をつける」「規則正しい生活習慣を送る」「十分な睡眠をとる」「環境調整(学業や仕事などの調整、昼寝の時間を設けるなど)」がある。
反復性過眠症
症状
強く耐え難い眠気のため、傾眠(意識がなくなっていく第1段階で、うとうとしていて睡眠に陥りやすい状態)が生じる過眠期(傾眠期)が3日から2~3週間程度持続し、その後自然に回復して全く症状がない時期(間欠期)を不定期に繰り返す。女性よりも男性の発症率が2~3倍ほど高く、ほとんどが10代で発症しているという。
心身のストレスや疲労、不眠、飲酒、風邪などへの感染、月経などが誘因となって過眠期が出現するケースが多い。過眠期の前兆として見られる症状には頭痛(過眠期の2~3日前に発症)や頭重感、倦怠感、集中力や思考の低下、離人感(自分の生活を外から観察しているように感じること)などがあるとされている。
「過眠期は一日中床についているため、食事・トイレ以外の日常生活や社会生活が行えなくなります。この過眠期に『不機嫌』『自傷行為』『攻撃性の増大』『不安焦燥』『抑うつ気分』『幼い子どもが使うような退行した言動』『過食』『性欲亢進』が確認されるケースは、Kleine-Levin症候群と呼ばれます。また、傾眠期から次第に午後に目覚めている時間が増えたり、一時的に不眠が生じたりする場合もあります」
治療法
この反復性過眠症は残念ながら治療法が確立されていない。そのため、「規則正しい生活を送る」「疲れをためない」「睡眠不足や飲酒を避ける」「風邪を予防する」「環境調整(学業や仕事などの調整)」などの対策で症状の緩和を狙っていくことになる。
非器質性過眠症と似た症状を呈する疾患をチェック
ナルコレプシー
この特発性過眠症や反復性過眠症と似たような症状を呈するものとして覚えておきたいのがナルコレプシーだ。逝去から20年以上たった今なお根強いファンがいる俳優のリバー・フェニックス氏が、映画「マイ・プライベート・アイダホ」内で演じていた役がこのナルコレプシーを患っていたため、その名称を聞いたことがある人もいるかもしれない。
症状
ナルコレプシーになると激しい眠気に襲われ、10~20分程度の居眠りを日に何度も繰り返す。また、「情動脱力発作(カタレプシー)」と呼ばれる発作に伴い、全身もしくは体の一部の筋肉の脱力によってろれつが回らなくなったり、膝がガクンと落ちたり、手足に力が入らなくなったりする。カタレプシーは喜怒哀楽が生じたときに起こりやすく、数秒~数分以内に収まるのが一般的と考えられている。有病率0.16~0.59%で10代に多く確認されている。
「ナルコレプシーに出現する症状には『睡眠麻痺』、いわゆる『金縛り』もあります。入眠時に脳が半覚醒しているにも関わらず、全身の筋肉が弛緩して脱力してしまうため、体を動かしたり声を出したりできなくなるのです。そのほか、入眠時に幻覚を見るケースもあります。自覚的には起きている状態で生々しい現実感を伴った鮮明な夢をみるのですが、その内容も『怪しい人間や動物、得体の知れない怪物や化け物が部屋に入ってきて危害を加える』といった恐ろしいものが大半だそうです」
治療法
ナルコレプシーは、中枢神経刺激薬や抗うつ薬、睡眠薬などによる薬物療法によって治療する。また、「規則正しい生活を送る」「十分な睡眠」「環境調整(学業や仕事などの調整)」も治療の一助となりうる。
睡眠呼吸障害
日中の過度の眠気を招くものには「睡眠呼吸障害」もある。睡眠に関連して呼吸障害が起こる疾患の総称が睡眠呼吸障害で、一般的にもよく知られている「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」も睡眠呼吸障害の一つだ。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、脂肪がお腹周りについた肥満体形の中年期男性に多い。「短い首」「狭い上気道」「小さいあご」などの身体的特徴を持つ人も、注意する必要がある。
症状
主な症状として「日中の過度の眠気」「睡眠中の頻回の呼吸停止」「睡眠中の大きないびきやあえぎ呼吸」「睡眠中の窒息感」「熟眠感の欠如や頻回の中途覚醒」「朝の頭痛や口渇」「日中の倦怠感や集中力の欠如」などがある。
「これらの症状が出現した結果、交通事故や労働災害、作業や学業効率の低下、高血圧、不整脈、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)、認知機能障害、脳血管障害などをきたしやすくなります」
治療法
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因は複数あるが、主な原因として肥満があげられる。過度の体重によって首まわりやあご、気道の内側などに脂肪がつき、上気道が狭くなってしまう。
そのため、治療にあたっては減量が効果的と考えられている。そのほか、「横向きで寝る」「飲酒や睡眠薬を使用しない」「マウスピース」「CPAP(持続陽圧呼吸療法)」などの選択肢もある。
過眠症かどうかをセルフチェック
過眠症かどうかを自身でチェックする際の判断目安はいくつかあり、「昼間の耐え難い眠気」「食事中や危険な作業中など、普通は寝ないであろう状況での睡眠」「頻回の居眠り」などがある。気になる人は一度心療内科や精神科で受診するのが賢明と言えそうだ。
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