労働需給がひっ迫が、企業買収の世界でも課題になることが増えている。企業を買収しようとしても、その企業を運営していく人材を確保できずに買収を断念するというケースが目立つのだ。

そこで新たな取り組みとして、M&A(合併・買収)仲介サービスのストライクと人材サービスのビズリーチが連携し、買い手企業に対して、買収した会社の経営者や経営幹部の採用を支援するサービスを開始した。両社はM&Aと人材サービスの相乗効果により、より円滑な企業買収を促す。

ストライクは後継者不在に悩み引き取り手を探す企業経営者と、規模の拡大を目指し事業を獲得したい企業をマッチングするM&A仲介サービスを展開している。ビズリーチは経営幹部などハイクラス層に特化した人材サービスを手掛ける。両社の連携により、買い手企業は、その獲得事業の運営に必要な経営幹部を効率的に採用できる。

中小企業で深刻化する後継者不足問題に一石

両社の取り組みの背景には、中小企業の後継者不足問題がある。

経営者が親族に事業を引き継いでもらいたくても、子供は都会で会社勤めをしており、実家に戻って家業を継ぐ気がないといったケースは多い。今後本格化する、第一次ベビーブームの時期に生まれた「団塊世代」の大量退職も問題に拍車をかける。複数の要因が重なってしまう結果、中小企業では事業をどう次世代に伝えていくかが喫緊の課題となってしまっている。

経済産業省・中小企業庁らによれば、中小企業の経営者の年齢分布で最も多い層は2015年時のデータで66歳だ。これは20年前の47歳から大幅に上昇した。今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人が後継者未定とされている。

日本の企業数は約400万社といわれるので、127万人というのは実に全体の3分の1相当の企業が後継者問題を抱えることになるという計算だ。ある調査によれば、仮に現状を放置すると、2025年頃までの10年間の累計で約650万人の雇用、約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性があるともいわれる。

なお、ストライクが中小企業経営者の妻100人に「将来残されて困る資産」を調査したところ、最も多かった解答は「経営する会社の自社株」で、その解答割合は38%にものぼったという。近年はM&Aが中小企業の後継者不在問題の解決に向けた選択肢の1つになりつつあり、同市場は毎年2~3割拡大している。

(田中省伍)