『ULTRAMAN ARCHIVES』におけるコンテンツのひとつ"ビデオグラム"の第1弾『ウルトラQ』Episode19「2020年の挑戦」のBlu-ray&DVDが、2月20日より発売開始されている。ビデオグラム発売を記念した「完成披露試写会」イベントがさる2月1日に催され、映像製作を志している"未来のクリエイター"たちが、半世紀も前に先人が創造した"空想特撮映像"のすばらしき世界を体験する機会に恵まれた。
『ULTRAMAN ARCHIVES』とは、円谷プロがこれまで製作してきた連続テレビドラマ作品から"1つのエピソード"を選出し、これを単体の映画作品と捉えて、これまで以上に内容面の掘り下げを行うというプロジェクトである。これには、以前からのコアなファン層に加えて、今まで円谷プロ作品を観たことのない若い世代にも作品を楽しんでもらいたいという、送り手からの強い思いが込められている。
具体的には、作品作りに関わってきたスタッフ、キャストの貴重な証言を集め、さらには識者による分析や評論などを記録した「ビデオグラム」の発売、そしてトークゲストを迎えての上映イベント開催、さらにはフォトブック、関連フィギュア商品といった、さまざまなジャンルでの展開が進められている。
『ULTRAMAN ARCHIVES』の第1弾に選ばれた「2020年の挑戦」とは、1966年に円谷プロが初めて手がけた連続テレビドラマ『ウルトラQ』の第19話として放送された。医療技術の発達により驚異的な長寿を成し遂げた「ケムール人」が、地球人の若く健康な肉体を求めて暗躍するという、『ウルトラQ』屈指のスリルとサスペンスに満ち溢れた娯楽作品である。「千束北男」のペンネームで脚本を金城哲夫氏と共に務め、本作の演出を手がけた飯島敏宏監督の談話によれば、ケムール人は放送当時からはるかな未来(54年後)となる2020年からやってきた"人間"の姿をイメージしたという。飯島監督のアイデアをもとに、映画美術監督・彫刻家の成田亨氏がデザインを手がけ、そして高山良策氏による造形で誕生したケムール人は視聴者に強烈なインパクトを与え、『ウルトラQ』屈指の人気キャラクターとしてその後も存在感を保ち続けている。
ビデオグラム「2020年の挑戦」に収録された「プレミアムトーク」には本作の製作に携わった栫井巍(プロデューサー)、飯島敏宏(脚本・監督)、円谷粲(助監督)、飯塚定雄(光学作画)、中野稔(光学合成)、満田かずほ(助監督)、田中敦子(記録)、桜井浩子(出演:江戸川由利子役)、古谷敏(出演:ケムール人役)各氏による貴重な証言集と、中島かずき(劇作家・脚本家)、泉麻人(コラムニスト)、品田冬樹(造形家)、福岡伸一(生物学者)各氏による作品評価、分析コメントを盛り込んだ充実の内容で、さまざまな角度からのアプローチによって「2020年の挑戦」が浮き彫りにされている。
「2020年の挑戦」上映後のトークイベントでは、現在円谷プロ造形部門LSSに属し、これまでにも多くのキャラクターを作り上げてきた"怪獣マエストロ"の異名を持つ造形家の品田冬樹氏が登壇し、映画評論家・クリエイティブディレクターの清水節氏と共に、会場に集まった映像クリエイターを目指す若者たちからの質問に答えた。
まずは、1966年当時のケムール人スーツの頭部に目玉を動かすモーターや電飾などを仕込むため、相当な重量(頭部だけで8kg)になり、中に入って演技をする古谷敏氏が非常に苦労をしていたという証言を踏まえた「現在の技術で当時と同じケムール人を作るなら、どのくらいの重さになりますか?」という質問が読まれた。品田氏は「当時、ほんとうに8kgだったのかは厳密には不明なのですが、今はモーターも小型化しているので、2kgくらいで出来るのではないかと思います。それでも重いですけれどね」と、50年の時を経て機材の小型化、軽量化が進んでいるため、当時ほど重くはならないと答えた。
続いての質問は「『ウルトラQ』は当時の時代背景や製作スタッフの熱量が大きく反映されているが、今の時代ではこのような作品が生まれるだろうか?」というもの。清水氏はこれについて「『ウルトラQ』のような、ひとつのテーマに沿って毎回異なる物語を描く"アンソロジー"ドラマは、今でも海外のネット配信作品などで健在。アメリカでは『ウルトラQ』の元になったSFアンソロジーの名作『トワイライトゾーン(ミステリーゾーン、未知の世界)』のリブートが進められている。社会が不穏な時代にふさわしいジャンルだし、日本でも『ウルトラQ』のような作品はぜんぜんアリではないか」と、新しい時代の空気や社会背景を持ったSFアンソロジー作品の登場は大いに期待できると語った。
これまでにもバルタン星人やダダ、ガラモン、快獣ブースカなど、円谷プロ作品の名作怪獣を"リメイク"して送り出してきた品田氏に「過去の怪獣を作る際には、オリジナルの忠実な再現を目指すのですか、それとも自分独自の要素を入れますか」という質問が寄せられた。品田氏は「過去の怪獣スターのイメージを壊さないように、現代へ甦らせようという思いで取り組んでいます。できるだけ、過去の映像やメイキング写真などの資料でいろいろな角度をリサーチして、さらにはデザイン画にまでさかのぼってデザインの意図するところを把握して、造形しています」と、自身のオリジナリティではなく、過去に活躍していた"あの頃のウルトラ怪獣"の忠実再現を目指して、緻密なまでに資料を集めて作業を行っていると答えた。さらに「2体、3体と同じ怪獣を作っていると、自分の味を活かしたオリジナルの怪獣を作ってみたい……デザイン画をもとにして、自分なりのアイデアを盛り込んでみたいという思いもある」と、永遠に尽きないウルトラ怪獣造形に寄せる情熱をも語っていた。
ここで清水氏による「高山良策氏による造形テクニックも初期ウルトラ怪獣の大きな魅力だが、あの独特な"寝ぼけまなこ"のような目を"再現"するのは難しいのではないか」という質問が品田氏に寄せられた。品田氏は「なんともいえない眠たげな目から、カッ!と見開いて冷凍光線を吐くペギラは、高山さんの造形ならではの魅力がありますね。同じく高山さんの作られたベムラーも、左右の目がぜんぜん違う方向を向いていて、そこに"狂気"を感じます。私たちがベムラーを新しく作ったとき、目の方向を左右対称にすると精悍な顔つきになってしまって、ぜんぜんベムラーらしくない。試しに片目の方向をズラしたら、ああ、ベムラーの顔になった!ということがありました」と、目のちょっとした角度の違いによって、元の怪獣スターの雰囲気が違ってくるという専門的な話が飛び出した。
「怪獣が今なお人々から愛され続けるポイントとは?」という質問では、清水氏が「初期のウルトラ怪獣では、成田亨さんのデザインの力が強い。"成田以前"の怪獣は、実在の生物が巨大化したものが多かったが、成田氏はこれを打破しようと考えて、"おもしろい形"を創造しようと努めていた。ケムール人を例に出すと、まず成田氏はシナリオを読んで"高速で走るためには、前を見ながら同時に後ろを見ることができる(3つの目)""地球人から見れば悪かもしれないが、彼らの星からすれば正義である"などの特徴を見出し、その多面性を表現するために三十三間堂の阿修羅像を参考にした。阿修羅像の"多面性"をどのようにデザイン上に落とし込めばいいか考え、そこで行きついたのがエジプト絵画のシンクロナイゼーション(一枚の絵の中にさまざまな角度から見た像が入っている)だった。ものすごい造形理念をもって作られ、愛すべき形を目指していた。これが成田デザインの怪獣・宇宙人が長く愛される秘密だと考えられます」と、成田氏が怪獣デザインに取り組む際に打ち立てたポリシーを伝え、ウルトラ怪獣の普遍的な魅力について解説した。
品田氏もまた「生物を巨大化させた怪物や、複数の生物をくっつけた"キメラ"的な怪物はリアルなんですけれど、成田さんの怪獣はリアルを起点にしているのではなく"メタリアル"というか、哲学的ともいえる美感から生まれる形なんですね。もっともらしく見えれば"本物"っぽく見えるのであって、決して自然の生物からの単純な模倣ではない、というところがすばらしい」と、成田氏のデザインポリシーと独自の感覚を称えた。
「『ウルトラQ』当時から、現在まで受け継がれてきた造形技術はあるか?」という質問に品田氏は「たくさんあります。基本として、ウレタンやゴム、接着剤を使う造形テクニックは昔も今も変わっていません。ただ、『ウルトラQ』ではキバやツメ、ツノなどをFRPで作っていたけれど、『ウルトラマン』以降の作品ではヒーローの顔やスーツに傷をつけてしまうので、尖っている部分は堅そうだけど柔らかい素材で作るなどの工夫をしています」と、技術的なものではなく、撮影環境や状況においてさまざまな素材を用いて怪獣を作っていることが明かされた。
最後に品田氏は「『ウルトラQ』放送から53年もの歳月がすぎ、当時観ていた人はもう60歳近い年齢。いま会場に来られている若い方たちからすればおじいさんにあたる世代になるが、『ウルトラQ』および『ウルトラマン』『ウルトラセブン』は親、子、孫と3世代にわたって楽しまれている。テレビ番組でこれほどの長きにわたって愛される作品は稀な存在なのではないか。本日は映像を志す若い方から、自分と同じくらいのシニアまで、同じ映像作品を体感することができてうれしかったです」と挨拶し、半世紀以上の時を超えて人々に特撮・怪獣の面白さを与え続けている『ウルトラQ』およびウルトラマンシリーズのすばらしさを改めて噛みしめていた。
(C)円谷プロ