今年で4回目となるビジネス書の年間アワード「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019」の授賞式が2月19日、東京都・千代田区にて行われた。ビジネス書籍の要約サイト・アプリを運営するITベンチャーのフライヤーらが主催し、読者目線で選ばれた受賞作6作品が表彰された。
世界的ベストセラーなど6作品が受賞
選考の対象は、2017年12月から2018年11月に日本国内で刊行された書籍で、1社につき5冊までエントリー可能となる出版社からのエントリー作品、さらにグロービス経営大学院とフライヤーからの推薦作品の計71冊。投票はビジネス書籍の要約サービス「フライヤー」の会員約30万人を中心とした読者によって行われた。
近年では出版不況が叫ばれるようになって久しいが、書籍の年間刊行数は平成元年の1.89倍となっており、ビジネス書に関しては年間6,000冊もの新刊が刊行されているという。アワードは「イノベーション部門」「マネジメント部門」「政治経済部門」「自己啓発部門」「リベラルアーツ部門」「ビジネス実務部門」の6部門で各1冊が受賞し、その中からグランプリ1冊が選ばれた。
栄えあるグランプリに輝いたのは世界的にもベストセラーとなっている書籍、政治経済部門のスコット・ギャロウェイ著『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社)。ビジネス構造を一変させた「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」の4社がさらなる未来図を描こうとする中で、GAFAから離れられなくなった今こそ知っておかなければならないことが書かれており、そこが多くの支持を得られたのではないかと分析されていた。
その他、各部門で今年選ばれた6作品は以下の通り。
●イノベーション部門 『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』田中修治(幻冬舎)
誰しもが倒産すると言ったメガネチェーン「オンデーズ」を買収し、30歳で社長になった田中修治氏が企業を再生させるまでの紆余曲折を描いた、実話を基にしたビジネス小説。
●マネジメント部門 『ティール組織』フレデリック・ラルー(英治出版)
目覚ましい成果を上げている組織の事例研究から、これまでのマネジメントとは一線を画す新しい組織運営の手法を明らかにしている世界的ベストセラー本。
●政治経済部門 ※グランプリ受賞 『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』スコット・ギャロウェイ(東洋経済新報社)
Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字を取った4社「GAFA」が創り変えた世界とはどのようなものか。そしてGAFAの持つ別の側面、世界が今後どのように変貌を遂げていくのかを明らかにしていく。
●自己啓発部門 『前祝いの法則』ひすいこたろう、大嶋啓介(フォレスト出版)
今後の未来に起こってほしいことを前もって祝ってしまうことで、実際にそのことを現実にしてしまう「予祝」。古来より日本で行われていたという予祝について、成功事例などを交えながら紹介する。
●リベラルアーツ部門 『ホモ・デウス(上) テクノロジーとサイエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ(河出書房新社)
前作『サピエンス全史』(同)で人類の過去について著したユヴァル・ノア・ハラリが、バイオテクノロジーやAIなどの大いなる技術を手にし、“ホモ・デウス(神の人)"に進化しつつある人類の行く末を描く。
●ビジネス実務部門 『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』伊藤羊一(SBクリエイティブ)
プレゼンの達人とも呼ばれている伊藤羊一氏が、わずか1分間で"伝えて""その気になってもらって""動いてもらう"ためのノウハウを、わかりやすくまとめた1冊。
名言も飛び出したトークセッション
授賞式の後には、受賞作に関連してトークセッションが行われた。
まずは、プロゴルファーでラジオパーソナリティーでもあるタケ小山氏が、イノベーション部門受賞作『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』の著者・田中修治氏へインタビューした。
同作は実話を基にしたフィクションという体裁で、企業名なども実在のものなども登場する。「実際のところ、どのくらいが本当の話なの?」と小山氏に聞かれた田中氏は、「フィクションということになっていますが、ほとんど実際にあったことだけ。いや、実際はもっとひどかった(笑)」と答え、かなりノンフィクションに近いことを告白した。
田中氏は出版後、破天荒さを求められることが多くなったそうだが、「実際のところ、僕はまったく破天荒じゃない。酒も飲まないし、たばこもやめたし。食べ物はオーガニック」と話し、意外な私生活も明らかになった。
続いてのステージでは、ジャーナリスト・評論家として活躍する佐々木俊尚氏が、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の編集者・桑原哲也氏と、『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』の編集者・多根由希絵氏にインタビューを行った。
まず佐々木氏は、2人に編集者として、作品のどんなところに魅力を感じていたかを尋ねた。
桑原氏は「僕はIT業界に詳しかったわけではなく、GAFAについても何となく知っている程度でしたが、原稿を見た時に、大げさでなく世界の見方が変わった。確かに支配されていると感じられるようになったし、そこが一番ほれ込んだところ」と話し、価値観を大きく変える文章に強く惹かれたことを明かした。
多根氏は「伊藤さんにお会いした時に、話すということについてものすごく研究されていると感じた。『話す』というテーマの本はものすごくあるが、私が聞いた中でも一番わかりやすく、これなら誰でもできると思った」と語った。
そして、佐々木氏に「編集者として今後どんな本を作りたいか」と尋ねられると、桑原氏は「僕らは企画を出す時に『書店でどの棚に置きたいか』と聞かれる。でも、願わくば、その本をきっかけに新しい棚を作りたい」と答え、既存のジャンルではなく、その本が刊行されることで新たなジャンルを生み出すようなものを作りたいとの夢を語った。
多根氏は「一度頭をリセットして新しい企画に臨みたいと思っていますが……。『学問のすゝめ』のような、いつまでも読み継がれるような本を作っていきたい」と話し、いつの時代にも求められる本に携わりたいとの野望を口にしていた。
佐々木氏は「名言出ましたね。やっぱり新しいジャンルを作るほうが面白いし、今の時代はロングセラーが難しいですから」と、受賞作を生み出す編集者ならではの考えに大きくうなずいていた。