国民的人気アイドルグループ「嵐」活動休止のニュースには驚きました! ネットでは「嵐ロス」のワードが話題となりましたが、「○○ロス」といえば大河ドラマ『あまちゃん』終了時に注目され、福山雅治さん結婚やSMAP解散などの際にも叫ばれていました。

  • 自身や同僚が「ロス」になっていませんか?(写真:マイナビニュース)

    自身や同僚が「ロス」になっていませんか?

自身だけでなく、職場の部下や同僚が深刻なロスに陥らない方法はあるのでしょうか。精神科医の髙木希奈(たかぎ・きな)さんに聞いてきました。

○○ロスの具体的な症状

――そもそも「ロス」とはどのような心の状態なのでしょうか?

髙木さん「『ロス』は、直訳すると喪失。『○○ロス』という病名は精神医学的には存在しませんが、喪失体験の衝撃から情動不安定となり、精神科の病名をつけるならば『うつ状態』、『適応障害』となりそうです。

具体的な症状としては、『不眠』『食欲減退』『意欲低下』『興味関心の低下』『虚脱感』などが挙げられます。うつ状態が持続したり悪化したりすると、うつ病に移行する可能性も高くなります。

2週間以上、このような症状が続く場合は心療内科や精神科を受診するといいでしょう。日常生活や仕事に支障が出るようであれば治療が必要となります」。

  • 精神科医の髙木希奈(たかぎ・きな)さん

    精神科医の髙木希奈(たかぎ・きな)さん

――「ロス」になりやすい性格はありますか?

髙木さん「健康な人でもなりますが、なりやすい人の性格傾向はあります。他者への依存性が高い人、1つのことに執着しやすい人はなりやすいです。

それから、○○ロスというのは、『燃え尽き症候群』(何かに熱心に打ち込んだ後、意欲を失い無気力になる状態)に似ているともいえます。自らの寵愛する対象の理想化が激しいと、少しでもそこから外れると納得がいかないのでしょう。アイドルなどはその代表的なものです」。

周囲の協力でロスを未然に防ごう

――本人の自覚以上に、周囲の気づきも大切ですね

髙木さん「ケアレスミスが増える、集中力がない、疲れた様子だなど、周囲の人が異変に気づいてあげることが大事です。対策としては、仕事量を調整する、休みを取らせるなどです。サインとしては、いつもきちんとした身なりの人がだらしなくなった、頭髪が乱れる、女性ならばメイクをしなくなったなど。酷くなると入浴や洗顔、歯磨きもできなくなります」。

――そうなる手前で予防はできますか?

髙木さん「定年退職後に何もやることがなくてアルコール依存になるといったケースは少なくありません。普段から、打ち込めることや大好きな対象以外に、心のよりどころや趣味をいくつか持ってほしいですね。

身近なところでいえば散歩。お金もかかりませんし、日光を浴びて身体を動かすことは重要です。日光はメラトニンやセロトニンといったホルモンに影響します。それぞれ睡眠や精神安定に作用するホルモンです。

『冬季うつ病』(日照量不足に起因する季節性うつ病)の治療法の1つとして光療法があるぐらいなので、日光は心身の健康維持に欠かせないものです。夕方や夜に強い光を浴びると睡眠覚醒リズムが乱れるので、散歩するなら午前中がいいでしょう。通勤のために1駅歩くなどは理想的ですね。

食事は、1日3食をバランスよく取るのが基本です。セロトニンやメラトニンの原料となるトリプトファンが多く含まれる食品は積極的に摂りましょう。レバーやチーズ、青魚や大豆食品などです。それから香り。嗅覚は五感の中でも、感情を司る中枢である大脳辺縁系に直接届きます。リラックス効果があるといわれるラベンダーなどいかがでしょうか」。

治療・回復には家族のサポートが必須

――病気に気づいた場合、治療はどうやって進めていきますか?

髙木さん「うつ症状が酷くなり、2週間~1カ月以上続いていて、日常生活や仕事に支障が出るような場合は病気と診断されます。離婚や家族との死別などにより、重度のうつ病となる人もいます。起き上がれないほど重度になる場合もあるので、そういう場合は入院が必要です。

職場の人が病気にいち早く気づき、早期発見、早期受診が大切です。もし入院となる場合、本人が『入院します』と言えば良いのですが、本人の了承だけでなく、やはり家族の了承も必要です。

職場の判断だけではどうにもできないところがあり、会社側ですべての責任を負えないので、入院施設には家族も一緒に来ていただきます。もし仮に、上司に連れてこられて入院が必要だとなった場合にも、家族の同意が必要です」。

取材協力

髙木希奈(たかぎ・きな)
長野県出身。聖マリアンナ医科大学卒業。
現在は精神科単科の病院に勤務する傍ら、産業医、美容医療の施術クーポンとコスメを扱う通販サイト「キレナビ」を運営する株式会社メディアド代表、一般社団法人 予防医療研究協会の理事等を務める。近著に『あなたの周りの身近な狂気(セブン&アイ出版)』など。