日本人にとって、日本語を入力するためのIME(インプット メソッド エディター)は欠かせない存在です。でも、Windows 10でのサポートを公式に表明しているのは、MS-IME、ATOK、Japanistくらいなのが現実。
Google日本語入力も使えるのですが、公式ページを見てもWindows 10に関する記述はありません。対応環境としては、「Windows 7 SP1 以降」と明記されています。ひょっとすると、Windows 7からWindows 8.x、Windows 10と、IME周りの仕様変更に追従していない可能性もあります。さらに、毎年のようにバージョンアップを重ねているのは、MS-IMEを除外すればATOKだけです。
そのATOKが今年も「一太郎2019」のリリースに合わせてバージョンアップしています。ただし、一太郎2019に含まれる「ATOK for Windows 一太郎2019 Limited」と「ATOK Passportの最新クライアント」は、本稿の執筆時点ではほぼ同等の機能を備えていますが、前者は「ATOKマンスリーレポート」に対応しないなど、いくつかの違いがあります。今回のレビューは、ATOK Passport最新版(2月1日版、Tech Ver.31.1.5)を用いています。
まずは新機能から確認しましょう。人名や熟語に含まれる特定の漢字一文字を変換する場合、これまでは延々と変換候補を表示させるか、その漢字を含む名詞などを変換して不要な文字を削除するのが一般的でした。この点に注目してジャストシステムが実装したのが、「漢字絞り込み変換」機能です。
この機能は、人名や部首にも対応しています。一見すると人名変換したほうがすばやく入力できるようにも思えますが、部首や旧字体の入力といった場面で重宝するのは確かです。
たとえば「戀」を呼び出す場合は「きゅうじたいのこい」を変換すればよく、筆者の環境では34番目の変換候補となった「戀」を、ワンアクションで入力できるのは便利。なおこの機能を使うには、プロパティダイアログの「入力・変換」タブ→「推測変換」→「追加する候補」の「特定フレーズにあてはまる漢字を表示する」を有効にする必要があります。
一方、日本の地名は変わった読み方も多く、地元の人でないと読み間違えてしまうことも。たとえば大阪府の枚方市を「まいかた」と誤読した政治家がいました。それはそれとして、最新のATOKは変換用辞書の語彙を増強することで、不確実な読みで変換しても注意をうながす機能が加わりました。
間違った読みを入力して変換すると、正確な読みを提示してくれるのです。この機能とともに強化された辞書では、祭事用語の「御焚上」や各種の四文字熟語、現在に即したビジネス用語などを収録しています(標準辞書)。今回のATOKバージョンアップは地味な印象ですが、この変換辞書強化は利用者として確実にうれしい点です。なお、こちらもプロパティダイアログの「入力・変換」タブ→「入力支援」→「入力誤りの自動修復」の「あいまいな読みの固有名詞を修正する」を無効にすると使えません。
そのほかの強化ポイントとしては、日付入力支援に西暦と和暦を並べて変換する形式を追加し、文字パレットからIVS(漢字異体字シーケンス)の入力が可能になりました。ただし、ISV機能使用時は一太郎2019に付属する「IPAmj明朝フォント」など対応するフォントが必要です。
また、主なバグフィックスは以下の通り。
■Windows 10 Version 1809環境で「テキストサービスを使用しない」設定のバグ
上記設定のとき、以下の現象が発生(上記の設定はATOKの推奨ではなく、デフォルト設定では以下の現象は発生しません)。
・Windows 10環境の一部のアプリ上で単語登録しても、登録単語が反映されないバグ
・ATOK Syncツールが利用できないバグ
・ATOK連携電子辞典がインストールができないバグ
・ATOKダイレクトプラグインがインストールできないバグ
・Office連携ツールが使用できない現象
ジャストシステムは2018年2月1日から、ATOK単体としての提供方法を「ATOK Passport」に統一しています。売り切りのパッケージから定額制のサブスクリプションモデルに移行し、2017年12月の発表会では「現時点で年に数回程度のバージョンアップを計画している」と述べていました。ですが、「サポートサイト」や「こちらのサポートページ」を見る限り、それほど更新されているとはいえません。
今回の新機能は確かに有益ではあるものの、サブスクリプションモデルを採用したソフトウェアの宿命として、「迅速にバグを修正し、定期的な機能向上」が大切。ここをしっかりしないと、ユーザーの気持ちが離れかねません。
筆者が1人のユーザーとしてATOKの優位性を挙げるなら、充実した辞書と電子辞典の存在が大きいといえます。少し厳しい言い方ですが、ATOKから特に「電子辞典」の魅力と優位性が失われると、MS-IMEで十分かもと考える自分がいます。これからもATOKには、快適な日本語入力を追求してほしいですし、それを実感させてくれることを期待しています。
阿久津良和(Cactus)