2019年2月15日~17日の3日間、福岡でeスポーツイベント「EVO Japan 2019」が行われた。採用タイトルは『ストリートファイターV(ストV)』『鉄拳7』『ソウルキャリバー』『ザ・キング・オブ・ファイターズXIV』『ギルティギア』『ブレイブルー』という6つだ。

『ストV』の部門では、プロゲーマーの「ももち選手」が「コーリン」や「是空」といったキャラクターを駆使してみごと優勝を決めたが、その優勝賞金について「150万円のうち、10万円しかもらえないのではないか」と、SNSを中心に議論されている。

いったい、それはなぜなのだろう。

賞金のポイントは、「仕事の報酬」と「プロライセンス」

今回の件で問題になってくるのが「景品表示法(景表法)」と「プロライセンス」だ。

景表法とは、「商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限することなどにより、消費者がより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守る」ための法律である。

そこでは、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」として、偶然性を利用した方法や特定の行為による優劣または正誤によって定める方法で、懸賞にかかる取引の価格の20倍ないし10万円を超える金額の景品を提供してはいけないと定めている。

簡単に言うと、練習不要で誰でも平等に勝負できる5000円の「じゃんけんゲーム」を販売した企業が、そのゲームを用いて賞金30万円の大会を開催するのは不当である、ということだ。

ただし、消費者庁では景品表示法上、「仕事の報酬」として認められる金品の提供は、景品類の提供に当たらないと定めている。例えば、企業が商品の購入者の中から選んだモニターに対して支払う、その仕事に相応する報酬などが該当する。仮に1000円のコスメを半年間モニタリングしてもらった際に、半年間という時間や労力を鑑みて5万円の報酬を用意するといった場合が考えられるだろう。

eスポーツにおいても、自らのスキルを磨き、ステージ上で観客を楽しませるようなパフォーマンスを披露するような興行であれば、「仕事の報酬」として賞金を受け取ることができるというのが消費者庁の見解だ。

eスポーツの大会で優勝するには、よほどの練習を積まなければ難しい。「EVO Japan」クラスの大会で優勝するほどのレベルであれば、仕事の報酬として認められることに問題はないだろう。

しかし、「仕事の報酬」として認められればすべてよし、というわけではない。2018年から「日本eスポーツ連合(JeSU)」が発行している「プロライセンス」は、JeSU公認のゲームタイトルをプレイし、「JeSU が別途公認する大会において当該大会規約に基づき好成績を収め、競技性、興行性ある大会等へ出場するゲームプレイヤーとしてプロフェッショナルであるという自覚を持ち、スポーツマンシップに則り、国内eスポーツの発展に寄与し、ゲームプレイの技術の向上に日々精進することを誓約する者」に付与されるのだが、JeSUの規約では、プロライセンス保持者は「プロとして出場したJeSU公認の大会において、プロとしての特典(賞金(報酬)などを含むがこれに限らない)を獲得できるものとする」と規定された。

つまり、JeSU公認の大会では、「仕事の報酬」を受け取れる人の基準を明確にし、訓練すればだれでも仕事を受けられる状態から、ある種“免許制”の職業のような形になったのだ。

まとめると、仕事の報酬としてであればeスポーツの大会賞金を受け取れるが、プロライセンス保持者でなければJeSU公認大会では賞金を獲得することができないということである。

JeSU公認大会以外でもライセンスが適用される?

さて、前提の説明が長くなってしまったが、ここからなぜももち選手が賞金を受け取れないという憶測がSNS上で飛び交っているか考えよう。

まず、ももち選手は、JeSU発行のプロライセンス保持者ではない。Victrixからスポンサードされているプロゲーマーであり、自身もゲーム関連の事業を手がける企業「忍ism」を経営しているが、ライセンスの受け取りを辞退したという経緯がある。

そして、もう1つ、ももち選手の夫人で、プロゲーマーのチョコブランカ選手が同大会中に放送した自身のライブ配信だ。チョコブランカ選手は「EVO Japan」で会場の様子をライブ配信していたのだが、そこで昨年行われた「カプコンカップ2018」の賞金額について明かした。カプコンカップ7位という成績を収めたももち選手は、本来ならば5000ドルの賞金を受け取れるはずだったが、実際は10万円程度だったのだという。

上記で説明したように、JeSU公認の大会でなければプロライセンスの有無は賞金額には関係ないはず。また、カプコンカップはCAPCOM U.S.A.が主催する海外の大会である。にもかかわらず賞金額が少なかったことに対して、カプコンが日本のライセンス環境やJeSUの規定に則て賞金額を決めたという可能性もあるだろう。

そこで、「EVO Japan」はJeSU公認の大会ではないうえに、第3者がスポンサーとなって運営されている大会であり、「仕事の報酬」としてももち選手が満額の賞金を手にできるはずなのだが、今回も「EVO Japan」がJeSUのルールに則って賞金を支払うという可能性が浮上し、冒頭で述べたように10万円の賞金しか得られないのではないかという憶測が、SNSで飛び交うようになったのだ。

ただし、注意すべきなのは、実際に「EVO Japan」の賞金150万円のうち、10万円しかもらえないとももち選手が発言したわけではないことだ。あくまでSNSで流れた憶測にすぎない。

とはいえ、今回の件で多くの人が「ライセンス」と「賞金」についての問題を考えたのではないだろうか。EVO Japanのグランドファイナルにおいて、対戦相手であるふ~ど選手の強力な「バーディータイム」を我慢に我慢してしのぎ切り、一瞬のスキを見逃さずに攻撃を繰り出したももち選手の見事な立ち回りが、「ライセンスがないから10万円」と切り捨てられてしまうのであれば、納得いかない人も多いだろう。

そもそも格闘ゲームの祭典「EVO」日本版の優勝賞金が150万円では、やや夢がない。eスポーツというエンターテインメントが持続発展していくためにも、興行の在り方を早々に見つけなければならないような気がする。

(安川幸利)