『ウルトラマン』シリーズをはじめとする円谷プロの映像作品の魅力を、これまで以上に幅広い世代へ伝えようとするプロジェクト『ULTRAMAN ARCHIVES』の一環となる「ULTRAMAN ARCHIVES Premium Theaterスペシャルトーク&上映会」の第2弾が、2月16日にイオンシネマ板橋にて開催された。今回上映された作品は『ウルトラQ』(1966年)の第16話「ガラモンの逆襲」。放送当時から現在まで、長い人気を誇る"ウルトラ怪獣"の代表格といえる「隕石怪獣ガラモン」が大暴れする怪獣巨編である。トークイベントでは、特撮監督の尾上克郎氏、特撮美術・特技監督の三池敏夫氏がステージに上り、映像クリエイター、演出家の視点から「ガラモンの逆襲」を語った。
「ULTRAMAN ARCHIVES」とは、『ウルトラマン』シリーズをはじめとする円谷プロがこれまで製作してきた特撮テレビ作品の魅力を、まだ作品そのものを観たことのない若い世代など、より多くの人々に伝えるために発足した"温故知新"の一大プロジェクトである。本プロジェクトの特色としては、連続テレビ作品から個別のエピソードをひとつピックアップし、単体の映画作品として多方面から深く掘り下げていくところにある。まず第1弾として、円谷プロの第一回製作作品『ウルトラQ』(1966年)より、第19話「2020年の挑戦」が取り上げられており、製作に携わった方々の証言や識者の分析などを収めたビデオグラム(Blu-ray&DVD)がまもなく(2月20日)発売される。これに続く第2弾として、今回上映&トークイベントが開催されたのが、『ウルトラQ』第16話「ガラモンの逆襲」である。
「ガラモンの逆襲」は、第13話「ガラダマ」の姉妹編にあたり、前作で撃退に成功したと思われていた隕石怪獣ガラモンが、文字通り"逆襲"を行うエピソードとなっている。「ガラダマ」とは、弓ヶ丘地方で呼ばれる"隕石"の通称で、ガラダマの中から出現したモンスターという意味で「ガラモン」という呼称が用いられている。
ガラモンは遠い宇宙に住む遊星人が地球に送りこんだ侵略兵器=ロボットである。小型のガラダマに偽装した電子頭脳から送られる指令電波を受けて、地球上のいかなる攻撃をも受け付けず、動き回ることができる。ガラモンの襲撃を防ぐには電子頭脳からの電波を遮断するしかなく、ガラモンや電子頭脳を完全に破壊することは不可能であった。
「ガラモンの逆襲」は、厳重に保管されていた電子頭脳が、妖しい雰囲気をたたえた青年によって盗み出される場面から始まる。ふたたび電子頭脳から電波が発生し、こんどは単体ではなく、複数のガラダマが地球めがけて降り注ぐことになった。東京をはじめ、あらゆる場所で破壊の限りを尽くすガラモンを食い止めるべく、万城目淳(演:佐原健二)や電波研究所の花沢主任(演:平田昭彦)は謎の青年の行方を追う……。
イベント冒頭では、「ガラモンの逆襲」で妖しい存在感を漂わせた「謎の青年」が登場し、会場に集まった人たちを『ウルトラQ』の世界にいざなう案内人を務めた。
司会進行を行う映画評論家・クリエイティブディレクターの清水節氏の呼び込みにより、今回のトークゲストである三池敏夫氏がステージに現れた。1961年生まれの三池氏は、子どものころ『ウルトラQ』および『ウルトラマン』やウルトラマンシリーズに心奪われたことがきっかけとなり、自分も将来「特撮」作品を作る人間になりたいと夢を描くようになったそうだ。
やがて、三池氏は地元・熊本から東京に出てきて、東映の変身ヒーロー作品などで特撮監督を務める矢島信男氏の「特撮研究所」に加わり、美術スタッフとして腕を磨いていくことになるが、その一方で東宝の『ゴジラ』シリーズなどにも参加している。三池氏はこれについて「特撮の業界は狭いですから、他の会社にも手伝いに行ってこいと言われることが多かった」と語り、東宝では円谷英二特技監督(円谷プロの創設者)の下で美術デザインを手がけていた井上泰幸氏に師事していたと説明した。三池氏は『ウルトラQ』でも特撮の美術を担当していた井上氏をふりかえって、「広大なステージにミニチュアセットを組む東宝の怪獣映画と比べ、テレビ作品の『ウルトラQ』では撮影する場所も狭く、それでもクオリティを高めるため苦労していたそうです」と、時間や予算が制限されているテレビ作品の中で、映画に匹敵するクオリティの特撮映像を作り上げる特撮スタッフの苦労を語った。
怪獣が破壊する"都市"を、実物と見間違うような精密さのミニチュアセットで再現するのが、特撮における「美術」の役割のひとつ。三池氏は2017年12月から2018年3月にかけて、故郷の熊本で開催された「熊本城×特撮美術 天守再現プロジェクト展」というイベントで「特撮美術監修」を務め、多くの人々に「特撮」の魅力を伝える仕事を行った。三池氏はこのプロジェクトについて「2016年に起きた巨大地震で熊本城が大きなダメージを受け、修復のため入場禁止となってしまった。そこで、熊本の復興を応援するための企画として、無事だったころの熊本城をミニチュアで再現しようという案が持ち上がった」と、企画の経緯を説明。イベント用として、来場者にじっくりと見てもらう関係上、映像作品で使用する以上の精密なクオリティで熊本城と、城下の街並みが作られたという。
「ガラモンの逆襲」の見どころは?という清水氏の問いに対して、三池氏は「強遠近法」というキーワードを挙げた。これは、ステージを少しでも広く見せるため、ミニチュアセットの手前を大きく、奥行きを小さく作るというテクニックで、劇中では「埠頭に落下するガラダマ」のシーンで確認することができる。
続いて、東宝の『シン・ゴジラ』(2016年)で庵野秀明総監督、樋口真嗣監督と共に「准監督」として作品作りに貢献した尾上克郎氏が登壇した。
80年代から映画の世界に入り、操演スタッフ、特撮監督、SFXスーパーバイザーとしてこれまで膨大な作品に携わってきた尾上氏だが、意外にも「ウルトラマン」との関わりはほとんどなく、唯一オリジナルビデオ作品『ウルトラマンVS仮面ライダー』(1993年)ドラマパートで「ストーリー構成」を手がけたことが清水氏より語られた。尾上氏は、実験的な撮影技術が多く用いられた『ウルトラマンVS仮面ライダー』を振り返り、「オープン(屋外)でミニチュアセットを組んで、うまく巨大感が出るかどうか試しながら撮影していた。この手法が後に平成『ガメラ』シリーズに取り入れられた」と話し、樋口氏が特技監督を務めた大映の『ガメラ 大怪獣空中決戦』と『ウルトラマンVS仮面ライダー』に"つながり"があることを明らかにした。
尾上氏は現在放送中のNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』で「VFXスーパーバイザー」を務めており、ここでは福島県の須賀川に巨大なミニチュアセットを作って、東京・日本橋の街並みを再現したという。尾上氏によると「実際の日本橋がものすごく大きくて、それを再現しようとなるとどうしても大きな作り物になる。ディテールも複雑で、あれはCGでやってもミニチュアでやってもすごくたいへん」と、デジタル(CG)とアナログ(ミニチュア)両方の特性を検討した上で、ミニチュアによる表現方法を選択したと語った。
須賀川といえば円谷英二特技監督の出身地として知られ、「ウルトラマン」シリーズのヒーローや人気怪獣の像が各所に置かれており、特撮ファンが観光に訪れることも多い場所である。この地で2019年1月11日にオープンした『円谷英二ミュージアム』の「総合監修」を務めている尾上氏は「今まで、円谷英二監督を検証する施設が、世界じゅうのどこにもなかったこともあり、須賀川市さんが新たな市民交流センターを作るにあたって、円谷英二さんのミュージアムを作りたいと要望された」と、ミュージアム設立の経緯を語った。
会場には、円谷英二監督の人生を詳細にまとめ、貴重な資料と共に展示された「円谷英二クロニクルボックス」や、円谷英二監督が『ゴジラ』をはじめとする東宝特撮映画で手腕をふるっていた東宝撮影所を精密ジオラマで再現した「特撮スタジオ」などが常設されており、特撮ファン、怪獣ファンなら一日じゅう居ても飽きがこないボリューム感と充実内容のミュージアムであるという。
1960年生まれの尾上氏もまた、子ども時代に『ウルトラQ』を熱狂して観ていた1人だった。当時を振り返った尾上氏は「円谷英二監督の怪獣映画がテレビで毎週観られるという嬉しさと同時に、子どもだったのでとても怖い印象があった。怖いもの見たさで観ていた感じだった」と、『ウルトラQ』がいかに子ども心に衝撃を与えた作品だったかを語った。80年代に入り、レーザーディスクでふたたび『ウルトラQ』を観た尾上氏は、作品全体のクオリティの高さに改めて驚いたという。「ガラモンの逆襲」の見どころについては「ガラモンのキュートさ」を挙げ、自身がもっとも好きな怪獣であるガラモンの造形、カールされたまつげの愛らしさ、死に際に見せるなんとも言えない表情などの魅力に言及。また技術的な面では「合成」の見事さを挙げて、「週一回放送するテレビ作品でやってはいかんぞ、というくらいのハイレベルな仕事をされているのに感動する」と述べた。
「ガラモンの逆襲」上映後、三池氏と尾上氏がそろってステージに登場し、ふたたびトークが繰り広げられた。三池氏は「当時、ウルトラQを撮影していた"美セン"こと東京美術センターは、ゴジラなどを撮影した東宝撮影所のステージと比べて1/8くらいの大きさしかなかった。なので狭いステージで出来る限りの奥行きを出すため、強遠近法によるミニチュア作りを行っている」と撮影テクニックの秘密を解説した。
トークがガラモンの"デザイン・造形"についての話題になると同時に、かたわらにあった黒い幕の中から人間サイズのガラモンが出現。ガラモンをこよなく愛する尾上氏は「いいですねガラモン、まさかガラモンの隣に居られる日が来るなんて」と嬉しさを表すと共に、最新の素材で造形されたガラモンの完成度の高さを称えた。
ガラモンのデザインを行ったのは、これ以降も数々の人気「ウルトラ怪獣」を生み出すことになる彫刻家の成田亨氏。井上泰幸氏が手がけたペギラのリファインから円谷プロ作品に携わった成田氏は、「燃えろ栄光」でピーターをデザインし、その次に生み出したのがガラモンなのだという。三池氏は「ガラモンは地球侵略に来た怪獣なんですけれど、手が短くて破壊にあまり向いていない。ビルを壊すときはもっぱら体当たりだったりしますが、何よりこのデザインが秀逸でした。シルエットにしても、他に類似例がなかった。この世にふたつとないデザインを作り出したことに、成田さんの偉大さがうかがえる」と、成田デザインの類まれなる感覚を絶賛した。
尾上氏もまたガラモンの魅力を語り「ガラモンのベストショットは、ガラダマの中から背中を向けて姿を現し、身体をゆすって破片を落とす場面です。通常の怪獣にない、あのヒダヒダによって、破片がうまく飛び散っていく。あのショットをあの角度から撮るというセンスにしびれます」と、自身のベスト"ガラモン"ショットを挙げた。
さらに、ガラモンに指令を出す電子頭脳を盗み出し、美青年に化けて暗躍していたチルソニア遊星人(セミ人間)の頭部レプリカが登場。尾上氏はセミ人間について感想を求められ「ビニール製の透明なスーツを着ているんですよね。あのままでもいいのに、なんでスーツを着るのだろうと思いました。わりと好きです」と、笑顔で語った。三池氏は「後のバルタン星人につながっていく、昆虫系の怪人ですよね。人間とのコミュニケーションができない不気味なイメージを持たせようとしたのではないか」と、セミ人間に成田氏が託した思いを分析した。
三池氏は「ガラモンが最初に登場した『ガラダマ』では、特殊技術(特撮監督)の的場徹さんのアイデアでガラモンのスーツを小さくして、中に小柄な人を入れることによってダムのセットをより広く見せる工夫がなされている」と、的場徹監督のアイデアを解説した。このように、画面にリアリティと驚きを与えるための「特撮」のアイデアについて尾上氏は「円谷英二監督の金言のひとつに"特撮は貧乏から生まれたんだよ"というものがあります。貧乏で大がかりな撮影ができないからこそ、知恵を使っていかに迫力ある映像に見せるかを考えるんです」と、そもそもなぜ「特撮=トリック撮影」と呼ばれる手法が必要なのか、その存在理由を端的に説明していた。
やがてトークは、円谷英二監督がカメラマン時代からさまざまな撮影テクニックを駆使して、それまでにない技法を取り入れてチャレンジを試みていたという話題に移っていき、尾上氏は「誰もやっていないことをやると、保守的な人から叩かれるから、あまりできるものではない」と、英二監督の意欲的な映像を生み出したいという思いに共感を見せた。三池氏もまた「過去の価値観にとらわれず、失敗する前提でチャレンジする精神は大切だ」と、何も前例がなく、お手本が存在しない状況からコツコツと新しいアイデアを取り入れてきた円谷英二監督に敬意を表し、その精神を受け継いでいこうという思いを述べていた。
「今年の間にチャレンジしておきたいこと」を尋ねられた三池氏は、「最近はCGを使った表現が主流になっており、映像作品におけるミニチュアの出番が少なくなってきている。CGをはじめとするデジタル技術のことも大切にしつつも、ミニチュアの持つ独特の魅力を発揮できるような仕事を続けていきたい」と語り、デジタル技術では出すことのできない、ミニチュア(実写)ならではの映像効果の重要さを強調し、デジタルとアナログの両方の良さを備えた映像表現に挑む姿勢を見せた。
三池氏の発言を受け、尾上氏は「使い方の問題なんですよ。例えば『シン・ゴジラ』では精密なミニチュアを作ったけれども、撮影には使用されなかった。しかし、このとき作ったミニチュアは3Dデータ化されて、CG製作に活かされている。表現の仕方が変わっただけで、まだまだCGではできないことがあったり、ミニチュアでやったほうが効果的な場合もあったりする。このことは誤解のないようにしてもらいたい」と、特撮表現の手法として「CGか」「ミニチュアか」というような対立構造は無用であり、画面効果や予算、スケジュール面などさまざまな状況を鑑みて、最も適切な表現方法を選択することが大切なのだと説明した。
「ULTRAMAN ARCHIVES」プロジェクト ビデオグラム第2弾『ウルトラQ』EPISODE16「ガラモンの逆襲」Blu-ray&DVDセットは、2019年5月22日に発売が予定されている。本商品には「ガラモンの逆襲」のHDリマスターモノクロ版と、カラーライズされた"総天然色ウルトラQ"版という2種類の映像作品、および当時のスタッフ、キャストによる証言や記録、各界の識者による評論をまとめた「Premium Talk 」(出演者:栫井巍、宍倉徳子、佐川和夫、西條康彦、倉方茂雄、三池敏夫、石井岳龍、椹木野衣ほか)が収録される。
そして「ULTRAMAN ARCHIVES Premium Theaterスペシャルトーク&上映会」の第3弾が6月15日に開催されることも、本日発表された。上映作品は『ウルトラQ』第14話「東京氷河期」。『ウルトラQ』の中でも、ガラモンやケムール人と並んで高い人気を誇る冷凍怪獣ペギラが、東京を氷漬けにして大暴れを見せる娯楽編である。
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