アニメーション業界関係者同士の情報交換および人材交流を目的とした「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACFT)2019」が、2月2日に都内で開催された。そのなかでアニメ制作ソフト開発企業のToon Boom Animation社によるセミナー「Toon Boomで制作する作品の費用対効果について」が行われた。
Toon Boom製品は、ディズニーやフォックスなどのメジャースタジオでも採用されており、世界のデジタルアニメ市場ではかなりのシェアを占めている。日本でも2014年の再上陸以降、同社製品に大きな注目が集まっており、採用する制作会社や個人アニメーターが増えつつある。アニメ『ポケットモンスター』などを手掛ける制作会社オー・エル・エム(OLM)もその一つだ。
会場ではOLMのアニメーションプロデューサー、加藤浩幸氏が登壇し、Toon Boom製品を使ったアニメ制作への取り組みや、そのメリット、導入後の費用対効果などを語った。
デジタル絵コンテ作成ツールのメリットは?
OLMがToon Boom社のアニメ制作ソフト「Harmony」とプリプロ作業用ソフト「Storyboard Pro」を導入したのは2015年のこと。当初はそれぞれ数台のPCに採用してテスト的に運用していたが、しばらく後に本格的な導入を決めてワークフローのデジタル化を進めてきた。その過程で、アニメ『ポケットモンスターXY&Z』内のミニコーナーや『ピカイア!!』第2期を、HarmonyとStoryboard Proで制作するなどの取り組みも行ってきたという。
加藤氏によるとHarmonyはビットマップだけでなくベクターの描画ツールも搭載しているため、1万ピクセルを超えるような画像であっても綺麗に作画しやすい点がメリットとのこと。またStoryboard Proとあわせて使うことで、絵コンテから撮影までを完結できる点なども利点として挙げられるそうだ。
音声をインポートすることもできるため、音楽をタイムラインに配置してキャラクターの動きと合わせることなども容易。OLMでは2018年韓流アイドルのTWICEのPV『Candy Pop』を担当した際に、アニメーションパートをToon Boomで作成しているが、そのような作画には非常に向いていると感じたと言う。
また、ソフトウェアのアップデートのたびに日本のアニメ制作の現状やワークフローに即した改善もされており、「導入した頃に比べて使いやすさが向上している」とのこと。たとえばタイムシートに近い感覚でセルを管理できるような機能も追加され、タイムラインでの編集が苦手なアニメーターでも直感的に作業しやすくなってきているそうで、日本市場を意識した手厚いサポートや対応の早さも評価できるポイントだと言う。
アニメの制作現場は予算も人材も不足
現在、アニメ制作の現場では慢性的な人材不足が続いている。とくに作画希望者の不足は深刻で、求人に対する応募人数も年々減る一方。同時に、制作予算もよくて据え置き、悪ければ減少しているのが実状。そうした悪条件の中で現在のクオリティーを維持していくには、紙ベースのワークフローでは難しくなってきていると加藤氏は語る。
それを解決するために必要なのが、デジタル作画によって効率を上げていく仕組みを作ることだ。しかしデジタル化を進めるにもいくつか問題点が存在する。
その一つが、作業者の生産力。新人を育成するにしても、ベテランが紙からデジタルに移行するにしても、新しいツールを覚える際に生産力は確実に低下する。また、制作ソフトが複数あって選択肢が多すぎるのも問題となる。導入コストも、ハードとソフトを合わせると1台50万程度とバカにならない。もちろん、導入後にもランニングコストが必要となる。
それを解決するためには、制作の一元化により原画、動画、仕上げの垣根をなくし、少人数でクオリティの高いアニメーションを制作できる体制を敷くことが重要になる。そこでOLMが注目したのがToon Boom製品だ。他のソフトに比べると導入時のコストは高く大きな投資が必要になるものの、ソフト内でほとんどの工程が完結するため中長期的に見れば採算がとれる。130カ国以上のアニメーションスタジオで採用実績があるため、仕事のやりとりが海外に広がっていく可能性もあるという。
実際、加藤氏によれば「先日仕事でマレーシアを訪れた際、多くの会社がFlashからToon Boomに乗り換えていた」とのこと。また、他の東南アジアの国で北米から受けている仕事が受けきれなくなって、マレーシアやインドネシアのようなアニメーションの新興国に流れ込んできているという話もあったそうだ。そのような状況の中、「ビジネス的に新たな可能性や利益に結びつく製品として、もっとも有力な一つにToon Boomが挙げられる」と加藤氏は指摘した。
講演後のQ&Aで加藤氏は、Toon BoomがMayaなど他のツールとの連携が非常に取りやすい点などをあげ、今後CGとのコラボレーションが不可欠になったときでもToon Boomなら対応しやすい、また作品のクオリティを上げやすいと、その魅力を語っていた。