毎年1月に米ラスベガスで開催される「CES」は、2年前(2017年)の50周年を機に、国際家電見本市からイノベーティブなテクノロジーを発表するエレクトロニクスショーへと転身。自動車メーカーをはじめとしたオートモーティブ関連の出展が年々増えています。
EV化が進む自動車は多くが電子部品で構成されるようになり、自動運転では最新のコンピューティング技術やシステム開発が求められています。ネットワークと連携したコネクテッドはもはや不可欠になっていて、テクノロジー業界との関係はますます密接になっています。これまでモーターショーで行われていたコンセプトカーの披露をCESに移すメーカーもあり、未来のモビリティをイメージさせる新しいアイデアやテクノロジーが数多く発表されています。
モーターショーに並ぶコンセプトカー発表の場に
毎回斬新なデザインのコンセプトカーを発表するメルセデスベンツは、車体の上の部分を取り換えて乗用車やバス、トラックに変えられる自律型の自動運転車「Vision URBANETIC」を出展していました。展示はオーソドックスな乗用車モデルで、丸みのある卵形をしたシンプルながら未来感あふれるデザインに仕上がっています。
EVに特化した新ブランド「EQ」からは、1930年代のグランプリカーをベースにまったく新しいレーシングカーへと進化させた「Vision EQ Silver Arrow」を出展しています。最も美しいEVと賞賛されるデザインはコクピットも未来的で、レースファンをうならせる仕上がりになっています。550kwで750馬力があり、フル充電で450km以上航続できる高性能さも備え、電気自動車ではもの足りないというドライバーを呼び込もうとしています。
カリフォルニアを拠点にするトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)で自動運転車の開発を進めるトヨタは、レクサスベースの実験用自動車「TRI-P4」をメディア向けに発表しました。
高度安全運転支援システム「ガーディアン(Guardian)」もあわせて発表しましたが、ブース出展は行わず関係者向けだけに公開したそうです。CESでは、自動車関連は以前からクローズド出展するメーカーは多く、それだけ最先端の情報が発表される場になっているともいえます。
前二輪自転車やキモカワロボットも登場
ボッシュやヤマハなど自動車メーカー以外の企業が、コンセプトカーやプロトタイプを出展するのもCESの特徴です。2019年のCESはスマートシティが注目カテゴリの一つだったこともあり、AIで自動運転ができるLSEV(低速電気自動車)や、「ラストワンマイルモビリティ」市場をカバーする電動スクーター、電動自転車の出展も目立ちました。
自動車や電子部品の開発メーカーであるボッシュは、都市部のシェアライドを促進する自動運転シャトルやタクシーを開発する技術をすでに持っていて、展示ブースではシャトルのコンセプト車両を世界初出展していました。4人乗りの車両は単なる移動だけでなく、オフィスやパーティルームなどのパーソナル空間としても利用できる機能を搭載。パーフェクトリーキーレスというスマホを使った独自の電子キーシステムによって、オンデマンド予約から解錠を一括して行うことができます。
ヤマハは、AIを搭載したLSEVによる移動サービスシステム「PPM(Public Personal Mobility)」や、フロント2輪の小型電動立ち乗りモビリティ「TRITOWN」などを出展していました。ゴルフカートをベースにしたPPMは顔認識やジェスチャーコントロール機能があり、やはりスマホを使ってオンデマンドでどこでも呼び出せます。TRITOWNは2017年に東京モーターショーで出展されたプロトタイプの最新版で、安定性と機動性が大幅にアップしています。
オートモーティブ系で最も驚きの展示をしていたのが、ドイツの自動車部品メーカーのコンチネンタルです。ベンツやボッシュと同じく自動運転シャトルを開発していますが、今回、無人配達用シャトルと荷物を届ける四つ足歩行の犬型ロボットを組み合わせるアイデアを発表し、そのプロトタイプも公開していました。ボストンダイナミックが開発するBigDogをベースにしたキモカワなロボットは大人気で、数年後には街中を歩き回る姿が見られるようになるかもしれません。
AIのドライバーサポートはもう当たり前
自動運転車はデザインやアイデアが柔軟になり、会場ではメルセデスベンツのVision URBANETIC以外にも、車両部分とコクピットを組み換えられる自動運転車がいくつも出展されていました。
オーストラリアの自動運転車スタートアップ、AEV ROBOTICSもその一つ。PODと呼ぶコクピット部分のバリエーションが豊富で、生鮮食品販売や移動病院といった様々な用途にあわせて提供できるのが特徴です。すでに実証実験も行っており、2021年の販売を目指しているということです。
ドライバーをサポートする技術も進化しています。車内カメラを使って、顔や目の動きを分析して居眠りやわき見運転を警告する機能は以前からありますが、もう一歩進みました。ドライバーの表情から感情を読み取り、それにあわせて音楽を流したり、快適なルートを提供するインフォテインメントシステムを現代(ヒュンダイ)自動車をはじめ、複数のメーカーが発表していました。
背景としては、カメラやセンサーの機能・性能がアップし、コンピューティングパワーやネットワーク速度も向上、AI連携が当たり前になってきたことがあります。今後は5Gの実用化によって、さらに面白い機能が実現されそうです。
空のオンデマンド移動も実現間近?
CES 2019のオートモーティブ関連で、もう一つ注目を集めていたのが「空の移動」です。
Bell Helicopterがパッセンジャードローンの実物大プロトタイプ「Bell Nexus」を出展し、実際にローター部分を動かすデモンストレーションを披露して大きな話題になっていました。パイロットを含む5人乗りの空飛ぶタクシーは、人間が運転する必要がないため、搭乗者がパイロット席に座って空の移動を楽しめるとのこと。
CESが開催されるラスベガスではヘリコプターで夜景を楽しむツアーがありますが、そう遠くないうちにパッセンジャードローンが使われるようになるかもしれません。
実用化では、昨年末にドバイ警察に採用されて話題になったHOVERSURFの「S3 2019 HOVERBIKE(ホバーバイク)」も、会場に実機が出展されていました。大型スクーターの周りに大きな4つのローターが付いたデザインは、SF映画に登場しそうなほど未来的で、5メートルの高さを最高時速96kmで移動することができます。現時点で連続飛行時間は10~30分ということですが、例えば自動運転トラックやシャトルに積んで、いざというときに出動という使い方であれば活躍できそうです。
2019年のCESで実感したのは、自動運転車も空飛ぶタクシーも実用化のフェーズに入り、数年後には実体験できるようになっているかもしれないということです。2018年に、タクシーサービスのLyftがCES会場周辺でテスト運行していた自動運転タクシーが、2019年は普通にアプリで呼び出して乗れるようになるなど、地域限定での実用化がアメリカでは進んでいます。
本格的な実現に向けては、法規制や道路環境の整備なども必要ですが、Maas(Mobility as a Service)の実現に向けて、様々なメーカーが研究開発を加速しています。それにあわせて進化するオートモーティブの姿は、これからのCESでも見ることができそうです。