ソフトバンクグループ(SBG)が2019年3月期第3四半期の決算説明会を開いた。通信子会社の「ソフトバンク」(同社内ではソフトバンクKKと呼称)を切り離し、純粋な投資会社になったSBGとしては初の会見だ。

ソフトバンクグループの決算会見に登壇した代表取締役会長兼社長の孫正義氏

この会見では孫正義社長がビジョンファンドを中心とした投資戦略について熱弁を振るい、大規模な自社株買いも発表した。会見の翌日、2月7日の東京株式市場ではSBGの株価はストップ高となった。果たして孫社長は次の20年をどのように描いて見せたのだろうか。

6,000億円の自社株買いを実施へ、翌日はストップ高に

企業の決算会見では、売上高や営業利益といった数字に関心が集まりがち。SBGの業績を見ると、第1〜第3四半期累計で売上高が5%増、営業利益が62%増となっている。ソフトバンク創業以来、最大となる営業利益を達成している点など、十分な内容の決算だ。しかし、孫社長は「細かい数字は重要ではない」と言い切る。

2018年度第1〜第3四半期の連結業績

孫社長が数字を重視しないと言い切るのはなぜか。その理由として、通信子会社のソフトバンクKKが上場したことにより、SBGの立ち位置が変わったことを指摘したい。この件によりSBGは、複数の事業会社を傘下に保有する純粋持ち株会社としての性格を強めたのだ。

純粋持ち株会社のSBGと、保有する株式

ここで孫社長が改めて示したのが、SBGの純有利子負債だ。ソフトバンクは17兆円の借金を抱えているように見えるが、約6兆円の現預金と子会社の負債約7兆円を差し引くとSBGの負債は約4兆円(3.6兆円)に過ぎないと主張する。一方で、SBGが保有する株式は約25兆円なのに対し、時価総額は約9兆円にとどまる。

SBGの純有利子負債は約4兆円と主張

孫社長は「SBGの株価は安すぎる」と再び主張し、自社株買いを発表。ソフトバンクKKのIPOで調達した資金の3分の1にあたる6,000億円をSBG株の購入に充てるという。ソフトバンクKKの株価は公募価格の1,500円を割り込んでいる状態が続いていることから、こうした手法には会見でも疑問の声が上がった。

これに対して孫社長はソフトバンクKKの潤沢なキャッシュフローや今後の増配を挙げ、「利回りは上場会社で最も高い水準だ」と反論した。これを受けた翌2月7日にSBGの株価は急騰し、その日のストップ高を付けた。株式市場からの賛同は得られた形となった。

NVIDIA株は全売却、続く「AI群戦略」

こうして純粋な投資会社になったSBGが、次の20年のビジョンとして描くのが「AI群戦略」だ。「AI」をインターネットに続くパラダイムシフトとして位置付け、世界中のベンチャーに出資。過半数を取るのではなく20〜40%の出資により筆頭株主になることで、強い群れを作る戦略だ。

有望なAIベンチャーの群れを作る「AI群戦略」

孫社長は、たとえば自動車では、かつてニューヨーク5番街を通る馬車がT型フォードに置き換わったように、2035年にはAIによる自動運転車が主流になると予想する。高価な自動運転車を真っ先に買うのはタクシーやライドシェア事業者になると見て、UberやDiDiなどに出資している。すでにSBGの出資先は世界のライドシェア客の90%をカバーしているという。

AI自動運転時代を見据え、ライドシェア企業に出資

出資後はアリババのように長期保有する株式がある一方で、手仕舞いする一面も見せた。

その例として挙げたのが2018年末に281ドルから134ドルまで株価を下げた「NVIDIA株」だ。SBGにも多大な損失が予想されたが、実際にはオプションを組み合わせたデリバティブ取引で株価下落リスクをヘッジし、218ドルで決済している。差し引きでほとんど影響はなかったという。

下落したNVIDIA株はデリバティブ取引でヘッジしていた

69歳まで社長、その後は「うるさい会長」に?

こうした取引の詳細にも踏み込みながら、孫社長は90分にわたって熱弁を振るい、司会者の制止も振り切って質疑応答の時間を延長。都合の悪い質問はうまくかわしつつも、数字を交えて即答していくスタイルは健在だった。果たしていつまで社長を続けられるのか、今回の会見でも孫社長の健康問題に話題が及んだ。

現在61歳の孫社長は至って健康で、60代で引退するとの公約通り「69歳までは社長を続ける」と語った。純粋な投資会社になったことで忙しさは減る傾向にあり、引退後も「うるさい会長になるかもしれない。医療も発達しており、まだまだ元気一杯、夢一杯」と院政を示唆するなど、衰えを見せない様子だった。

(山口健太)