東京・世田谷のテレビスタジオ・東京メディアシティ(TMC)内にあるカフェ「今昔庵(こんじゃくあん)」が、多くの芸能人や業界関係者に惜しまれながら閉店し、約27年の歴史に幕を下ろした。今昔庵を愛してきた脚本家の三谷幸喜氏は、最後の営業日と思って8日朝に駆けつけたが、実際には告知された前日の7日で閉店したため、名物マスターの福田起弘さんに会うことができなかった。
連ドラの脚本家デビュー作『振り返れば奴がいる』(93年、フジテレビ)や、『古畑任三郎』(94~06年、同)など、TMCで撮影された多くの作品を手がけてきた三谷氏に話を聞くと、「(今昔庵には)駆け出しの頃からずっとお世話になってました」と回想。
「マスターは、いつもいろいろお話してくださったり、タレントさんの入りとか(収録の)何分押しとか教えてくださって(笑)。あんまりドラマ書かなくなってからたまに仕事で来ると、2~3年ぶりにお会いするんですけど、昨日会ったかのように『あぁどうも!』みたいな感じで接してくださいました」と、気軽に話しかけてきてくれたそうだ。
それだけに、閉店を聞いて「ビックリしましたね。ずっとあるものだと思ってました」「渋谷からハチ公の銅像がなくなるのと同じくらいの衝撃が走りますね」と、驚きを表現。最後の営業日に、マスターへ「手土産と、似顔絵を描いて持ってきたんです」というが、残念ながら会えなかったため、「来ることがあったらお渡ししてくださると言うので」と、TMCの警備室に預けていた。
そんな長年の仲のマスターだったが、「名前は福田さんでしたっけ? 今回の(閉店の)記事で知ったくらいなんで、ずっとそういう距離で何十年も接してたんです。ご家族もいらっしゃのか分からない」という関係性。「誰も人となりを知らないっていうマイナーの極致みたいな方が、こんなメジャーな場所の入口にいらっしゃるというのが本当に面白いなと思います」と不思議な存在感を評し、「マスターをモデルにした役はどうでしょうか?」と聞いてみると、「いいですね」とニヤついた。
この日は、閉店の強制執行を行う関係者が店を囲んでおり、三谷氏は「来ると(マスターは)いつもおひとりでいらしゃって、『お疲れさまでした』みたいな感じだったので、いい雰囲気でお別れできるのかなと思ったんですけど、物々しい雰囲気で…」と困惑。「ここに来る人は、マスターのことみんな大好きですから。本当に残念です」と、あらためて閉店を惜しんだ。