東京メトロは6日終電後、銀座線渋谷駅での新駅舎屋根のスライド工事を報道関係者らに公開した。新駅舎屋根はM型アーチ状で、工事では約40分かけて7.5mスライドさせた。屋根全体の最終完成は今年8月中旬を予定している。
銀座線渋谷駅は渋谷駅街区基盤整備と連携し、2009(平成21)年から移設工事に着手。2016年・2018年の2回にわたって線路切替工事を行い、新ホームを築造するスペースを確保した後、昨年8月から屋根の工事を開始した。銀座線の線路の真上に作業構台を設置し、作業構台の上で屋根の鉄骨を組み立て、外装材の取付けを行う。でき上がった屋根はスライド工法により所定の位置へ移動させ、設置される。昨年11月に1回目、今年1月に2回目のスライド工事を行い、この日が3回目のスライド工事となった。
新駅舎屋根はM型アーチ状の特徴的なデザインとなっている。東京メトロのシンボルマークにもなった、メトロの「M」にちなんだものかと思いきや、構造上の理由もあってこのデザインが採用されたという。
工事概要を説明した東京メトロ工務部の三丸力氏によれば、計画当初、屋根はボックス形状(門型ラーメン構造)となる予定だったが、「四角い形状だと、渋谷において圧迫感がある」とのことで、楕円状の「アーチ案」が考案された。しかし、屋根上に渋谷ヒカリエへつながるスカイデッキ(連絡通路)を設置する計画があり、アーチ構造だと屋根とスカイデッキの接触部分が小さく、構造が不安定になるという弱点があった。
そこでM型アーチ状のデザインが考案され、「M型の屋根としたほうが構造的にもデザイン的にも優れているということになり、M型アーチ状で設計されて現在に至っています」と三丸氏。アーチ構造の頂部を削ぎ落とし、M型アーチ状とすることで、スカイデッキを支持しやすい構造となり、構造上の強度とデザインの双方の課題を解決したという。
新駅舎屋根の工事に関して、「鉄骨は夜間に搬入し、1晩で4本程度組み立てていきます。昨年11月には、組立てが完了した屋根をヒカリエ側へ約20mスライドさせました。いまはJR線側の屋根を組み立てていて、これも順次スライドさせていきます。スライドは合計9回行う予定で、屋根全体の長さは約110m、総重量は約1,500トンとなります」と三丸氏は言う。計45本あるM型アーチ状の屋根はひとつひとつサイズが異なり、高さが最大9m、幅が最大28mになるものもあるとのことだった。
この日の工事では、高さ7.7m、幅25.2m、横22.5m、重さ約290トンもある屋根の一部をJR線側へスライドさせた。屋根の両側に油圧ウインチを2基ずつ設置し、あらかじめセットしたワイヤーを巻き取ることで、スライドレール上を滑るように屋根が移動していく。その速度は1分間に約15~20cm。軌道上ではわかりにくかったが、軌道脇から見ると、屋根がゆっくりと少しずつ動いている様子を確認できた。
屋根を7.5m移動させるスライド工事は40分ほどで終了。その後、スライド工事を終えた渋谷ヒカリエ側の屋根が公開され、作業構台上から屋根に近接しての撮影も行われた。
「約1年間かけての工事で、非常に苦労する点もある中、スライド工事はひとつの区切りとなり、次のステップに進めるイベントのようにとらえています。あと6回スライド工事がありますので、安全優先で、関係者と一体となって工事を進めたい」と三丸氏。M型アーチ状の屋根に関して、「特殊な形状がお客様の目にとまり、外から見ても銀座線の位置が明確にわかるようになれば良いと思っています」と話していた。
銀座線渋谷駅の新駅舎は2019年度中の供用開始をめざし、工事が進められている。現在の駅の位置から表参道方面へ約130m移設され、明治通り上空に駅を新設。ホームは1面2線(うち1線は行き止まり式)の構造となり、ホーム幅は現在の約1.7倍という約12mに拡幅される。ホームドア設置などで安全性向上も図られる。JR線の改札とは同一階で乗換えコンコースに直結するほか、新たに整備するエレベーター・エスカレーターで渋谷ヒカリエとも直結し、東京メトロ副都心線・東急東横線との乗換え利便性も向上する。