プロからBtoB、そしてBtoCへ
そんなこだわった技術で生み出された∞ミックスですが、内部の構成は意外とシンプルで、主なものは、制御用の基板、蒸気を作るための沸騰用ボイラー、そしてブレンダーを回転させるためのモーターといった組み合わせでできているそう。
ただ、それを元AppleのiPhoneのデザインなどに携わったプロダクトデザインエンジニアの手によるドリンクの作りやすさにこだわったデザイン性の高い意匠の中に、機構を含めて、基板やモーターへの熱対策や安全性の確保、メンテナンスの容易さ、といった目に見えないが、ものづくりにおいて必要とされるものまで盛り込んで実現するのは、非常に苦労の連続で、2018年11月に開催されたパナソニックの100周年記念イベントで初めて披露される直前まで、無事に動くか分からない、といった状況だったとのことでした。
メンテナンスの容易さについては、食べ物(飲み物)を扱うため、かなり気をつかっていて、1号機では、1日1回ノズル(ブレンダー部分)を外して洗浄することを推奨しているほか、130℃まで急速に昇温可能なボイラー部分は、月に1回のクエン酸洗浄の推奨により、スケール(水垢)が溜まることを防止できるようになっています。また、1号機にはボイラー部分の水位センサがないため、溜まっている水が中途半端な状態の場合、一度、排水するための機構があり、外部にホースがでているのですが、2号機では、それを内部で循環利用できるようにし、排水機構をなくすことで、さらなるデザイン性の向上につなげたいともしています。
また、ブレンダーは現在、チョコのタブレットを攪拌して対流を起こす程度の強さしかないとのことですが、 ビジネスが軌道に乗った数世代先には、搭載されている刃を素材に応じて交換できるように取り揃えることで、さまざまな用途、それこそパティシエやショコラティエによるホットチョコレートだけでなく、BtoCの個人での利用まで、幅広い用途に応じることを可能にしたいとのことで、この数年でブレンダーについてのノウハウを確立させていきたいともしていました。
「プロのパティシエやショコラティエだけでなく、働き方改革の一環として、ウォーターサーバーのようにオフィスに∞ミックスを置いてもらったりといったことも考えられます。カカオポリフェノールの健康効果などの研究も進んできていますし、飲んだときに幸せな気分になれる、そんな飲み物はほかにないと思っています」と浦さんはBtoBの分野での活用なども視野に入れています。
そんなBtoCやBtoBの分野での活用に向けては、レシピを頭に叩き込んでいるプロのパティシエやショコラティエではない人も扱うということで、そうした細かい作業や感覚の部分を補えるように半自動化も可能にしていきたいと浦さんは語っています。2019年中にはその実現に向けて動きはじめたいと考えているそうですし、単にホットチョコレートマシンを売るのではなく、将来的には月定額によるチョコレートの提供などといったサブスクリプションのサービスとも組み合わせたビジネスやリース提供などへも発展させていきたいともしています。
1号機は3月より発売、その前に実際に体験できるイベントも
∞ミックスの製品1号機は2019年3月より50台限定で発売される予定とのことです。価格は25万円前後を予定しており、「まずはホットチョコレートを広めてくれる仲間を増やすことだと思っていて、1号機はそうした役目を持ったマシンになっています。すでに飲み物にもこだわられているショコラティエの方などからも声をかけていただいています」とのことですが、本格的な営業活動はこれから、ということで、この発売をきっかけに、将来は海外での販売なども視野に入れていきたいとのことです。
ちなみに、すでに2019年2月9日および10日の2日間にかけて、長崎のハウステンボスにあるショコラ伯爵の館にて、来場者に好きなチョコレートを選んでもらってドリンクの提供を実施する予定(テーマパーク初の試みだそうです)や、チーズティー専門店で知られる東京・原宿のフォーチュナー ティーボックスにて、実機を用いた実演が2月11日に予定されているそうです(取材させていただいた時点では、どういったものを提供するかの詳細はまだ未定とのことでした)。また、チョコレート大手の明治も∞ミックスに興味を持っているとのことで、単に飲み物としてチョコレートを楽しむだけではない新しい価値も生み出されていくことも期待できるようになってきました。
本格的な市場展開はこれからですが、日本におけるチョコレートの新たな市場を切り開く技術を生み出すミツバチプロダクツの活動は、今後も注目する必要がありそうです。
参考文献
日本チョコレート・ココア協会 - 世界の歴史
GODIVA - チョコレート文化&歴史
ホットチョコレート - 明治デイリーズレシピ
上野聡 著 「チョコレートはなぜ美味しいのか」(集英社新書)