Appleの利益警告については、前回のコラム「Appleの利益警告と5G時代への展望」で触れた通りだ。さらに、Nikkei Asian ReviewはiPhoneの生産が1~3月期に10%減少することを報じた。Appleが生産計画を縮小させるのは、この2カ月の間に2度目となるという。
もともと、2019年1~3月期に予測されていたiPhoneの製造台数は4700~4800万台だったが、これを4000~4300万台に引き下げる計画だという。ちなみに、2018年1~3月を含む2018年第2四半期決算でのiPhoneの販売台数は、およそ5222万台だった。
残念ながら、Appleは2019年の決算発表以降、個別の製品の販売台数を明らかにしないことを発表している。そのため、2019年第1四半期(2018年10~12月)が前四半期、そして前年同期と比べてどうだったのかを正確に検証する手段は失われたことになる。
現状では、Appleが今後も公表を続ける粗利益率と、平均販売価格を750ドル(約8万2000円)程度と見積もった場合の売上高から推測する程度しかできない。ちなみに、750ドルというのはちょうどiPhone XRのエントリー価格であり、平均販売価格はこれより上振れすると個人的に予測している。
買い替えサイクルの長期化
AppleのiPhone販売台数の減速については、中国の景気低迷に加え、ユーザーの買い替え周期の長期化も指摘していた。これまで、2年の買い替えサイクルを作ってきたAppleだったが、SIMフリーデバイスの強化やキャリアによる販売奨励金廃止の動き、デバイスの成熟などの要素から、サイクルが2.5~3年へと長期化している。
もちろん、買い替えサイクルの長期化はApple自身も織り込み済みだった。
2017年末に指摘されたiOSのパフォーマンス制御の問題は、そもそも長期利用によってバッテリーが劣化しているiPhoneの頻繁な再起動を防ぐことが目的であった。この問題への消費者対策から、Appleは通常よりも安い割引価格でのバッテリー交換に応じた。
米国で29ドル、日本では3200円に値引きされたバッテリー交換を行った人の数は、実に1100万人にも上ると、Daring FireballがAppleの社内ミーティングの話として伝えている 。それだけの台数のiPhoneが、バッテリーだけの話ではあるが、新品同様の電池の持ちとパフォーマンスに復活したということだ。
2018年9月にiPhone XS/XRシリーズを発表した際、環境問題に関するプレゼンテーションの時間を用意し、資源の再利用とともにiPhoneの「長持ち」性能について説明した。この時点では、Appleが今後販売台数を発表しない方針であることは明らかにされていなかったが、販売台数にこだわらない方向性を示した点で注目すべきポイントだった。
長持ち性能の根源とは?
「長持ち」するというのは非常にポジティブなとらえ方だが、ネガティブに見れば「新製品にアップグレードするだけの魅力がない」「現状で満足していて不便なことはない」といった意味合いになる。消費者が「長持ちするiPhone」を乗り換えるきっかけとするのは、おそらく次世代モバイル通信の「5G」が自分の街で使えるようになるタイミングだろう。
しかし、日々進歩してきた製品に「長持ち」という価値を与えるためには、そもそもの処理性能が実用十分なレベルに達していることや、毎年アップデートされるiOSやアプリなどのソフトウェアが十分に高速に動くパフォーマンスを確保していることが重要となる。
iOS 12は新機能を盛りこむことをやめ、iOS 11を高速化するとともにセキュリティを高めたり、ARのライブラリを増やす小幅なアップグレードにとどめた経緯があった。しかし、2013年に発売されたiPhone 5sですら、iOS 11よりiOS 12のほうが高速に動作するとアピールした点には驚かされた。
AppleはWWDC 2018で、自社開発のプロセッサの処理能力の立ち上がりをよりクイックに調整することで、同じプロセッサでもキビキビと動作させるソフトウェアを実現した、と説明している。アプリ起動の高速化、起動したアプリの高速な動作、さまざまなメディア処理、カメラなどのセンサー処理などに社内のエンジニアを結集させ、今も徹底的なチューニングを続けているのだ。
製造業としての限界
発売から5年以上が過ぎた製品でもキビキビ動くようにチューニングし続けている――これによって実現しているのが、AppleがうたうiPhoneの長持ち性能だ。
スマートフォンのイノベーションを信奉しているなら、Appleのこの取り組みはエンジニアリング的な挑戦ではあるが、イノベーションに対するブレーキにも見える。しかし、別の現実的な問題も近づきつつある。それが資源問題だ。
Appleが10月30日にニューヨークで開催したイベントでは、MacBook AirとMac miniという2つのMac新製品が登場した。最も驚かされたのは、これらのアルミニウムのボディーは、iPadを削った残りを回収して再資源化した100%再生アルミニウムを活用しているということだった。
もっとも価格が安いMac製品に、もっともコストがかかる再生アルミニウム素材を採用することは、Appleのこの問題への取り組みの本気度が伝わるエピソードといえる。今後、これがiPhoneやApple Watchへと広がっていく可能性もある。
これまで、Appleは年間2億台のiPhoneを製造してきた。1台あたりの質量は200g前後だが、これが2億台ともなると、完成した製品だけで4000トンにもなる。単純に考えれば、最終製品以上の質量の資源を掘るような負荷が毎年地球にかかっている。
これだけ地球環境問題に熱心なAppleが、地球に穴を開けながらiPhoneを作っている状態を放置するはずがないだろう。先述のように、長持ち性能の追求や使わなくなった製品の回収という形ですでに対策は始まっているし、iPhoneの販売台数のビジネスからの脱却も効果的な転換となる。
同時に、物理的なデバイスが毎年数億台もの規模で販売される現在のスマホと並ぶような「次」の存在が登場する可能性は非常に低いのではないか……との予測もできるのだ。