平成仮面ライダーシリーズをふりかえる企画の第19弾は、映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』でも活躍した『仮面ライダービルド』(2017年)をとりあげる。
『仮面ライダービルド』とは、2017(平成29)年9月3日から2018(平成30)年8月26日まで、テレビ朝日系で全49話を放送した連続テレビドラマである。ビルドという名前には「創る、形成する」という意味が込められており、さまざまな有機物、無機物の「成分」が入った「フルボトル」を2種類混ぜ合わせることによって、ラビットタンクやホークガトリングなど多彩な「フォームチェンジ」を行うのが大きな特徴である。
10年前、火星で発見され地球へと持ち帰られた「パンドラボックス」から謎の光が放出され、巨大な壁「スカイウォール」が出現して多大な犠牲者を出した。この「スカイウォールの惨劇」以来、日本は東都、北都、西都の3つに分断され、混沌を極めていた。そんな中、東都で未確認生命体「スマッシュ」から人々を守って戦っていた仮面ライダービルド/桐生戦兎(演:犬飼貴丈)は、冤罪によって服役中の刑務所から脱走を図った元格闘家・万丈龍我(演:赤楚衛二)と出会う。記憶喪失の戦兎は、失われた自らの記憶を取り戻す手がかりを万丈にあると見出し、彼を信じて逃亡を手助けする。果たして、戦兎と龍我を待ち受ける運命とはいかなるものなのだろうか……?
前作『仮面ライダーエグゼイド』(2016年)の登場キャラクターが、一般的な仮面ライダーのイメージから大幅な脱却を図ったものだったことの反動からか、仮面ライダービルド ラビットタンクフォームは、そのモチーフこそ"ウサギ"と"戦車"とトリッキーなものの「昆虫を思わせる大きな眼」「シンプルなシルエット」といった、オーソドックスな仮面ライダー像が示されている。設定面においても「IQ(知能指数)の極めて高い主人公」「人体実験を施されて誕生」と、第1作『仮面ライダー』(1971年)の仮面ライダー1号/本郷猛(演:藤岡弘、)を彷彿とさせる要素が盛り込まれ、本作がいま一度仮面ライダーの"原点"的なイメージを目指そうとしていることがうかがえる。
仮面ライダービルドの大きな特徴は、2種類のフルボトルを混ぜ合わせてさまざまな形態にフォームチェンジする部分にある。基本形態のラビットタンクフォーム(ウサギ+戦車)や、ゴリラモンドフォーム(ゴリラ+ダイヤモンド)、ホークガトリングフォーム(鷹+ガトリング)、ニンニンコミックフォーム(忍者+コミック)など、相性のよい組み合わせは「ベストマッチ」と呼ばれ、能力を最大限に発揮することができる。
"物理学者であること""人体実験を受けたこと"以外の記憶を失っていた戦兎は、1年前に喫茶店「nascita(ナシタ)」のマスター・石動惣一(演:前川泰之)に助けられ「桐生戦兎」という名を与えられた。nascitaの冷蔵庫は地下秘密基地への出入り口となっていて、そこで戦兎は自慢の頭脳を用いて数々の発明品を作り上げていた。惣一の娘・石動美空(演:高田夏帆)はスマッシュの成分を浄化してフルボトルにするという不思議な能力を持っているが、浄化には多大なエネルギーを消耗して疲れるので本人的にはあまりやりたくない作業だという。また美空は、ネットアイドル「みーたん」という一面を持っており、WEB上ではふだんと違ってハイテンションな言動で多くの熱烈なファンの声援に応えている。そして、パンドラボックスやスマッシュの謎を追うフリージャーナリスト・滝川紗羽(演:滝裕可里)も戦兎と出会ったことがきっかけで仲間に加わり、独自のルートで情報を収集し、戦兎に提供することになる。
東都政府首相補佐官・氷室幻徳(演:水上剣星)が所長を兼任する東都先端物質学研究所の研究員・葛城巧(演:木山廉彬)を殺害した容疑をかけられ、刑務所に服役していた万丈龍我は"人体実験"を強要されたことがきっかけで脱走を図り、戦兎に助けられた。以来、万丈はnascitaの地下秘密基地に潜伏しながら、自らの無実を証明する手がかりを探るため、変装して戦兎と行動を共にするようになった。元格闘家だけあって腕っぷしに自信のある万丈は、フルボトルを手にすることでパンチ力を強化し、単身スマッシュに立ち向かうこともあった。後に、ドラゴンフルボトルとクローズドラゴンを使って「仮面ライダークローズ」へと変身し、ビルドのよき相棒として共に戦うことになる。
天才を自認し、何事にも冷静な対応に努める戦兎と、難しい理屈が苦手で、ストレートに感情を表す熱血系の万丈は、実に好対照なキャラクターシフトとなった。ボケ(万丈)とツッコミ(戦兎)を思わせる軽妙なやりとりが目立ち、いつもお互いをけなし合っていながらも熱き信頼関係で結ばれている、このコンビに注目が集まった。
以上のようなキャラクター布陣で始まった本作だが、ストーリーが進むにつれてさまざまな"謎"や"秘密"が解き明かされ、彼らの"立ち位置"が目まぐるしく変化していく。ロックバンド「ツナ義ーズ」の佐藤太郎という"戦兎の過去(?)"が明かされたり、戦兎や万丈に人体実験を施したとされるファウストの怪人「ナイトローグ」と「ブラッドスターク(声:金尾哲夫)」それぞれの"もうひとつの姿"が判明したり、紗羽と巨大企業「難波重工」会長・難波重三郎(演:浜田晃)との"人間関係"が明らかとなったり、エピソードの中でひとつ謎が解明されると、また別な謎が出てくるというスリリングかつミステリアスな展開が視聴者の興奮と興味を誘った。味方かと思っていた人物が実は敵側についていた、というように、キャラクターの動きの急激な変化によって、当初のイメージとはガラリと印象が違ってくるケースも多く、1話たりとも油断ならない筋運びが話題を集めていた。
第16話からは、北都から来た仮面ライダー「仮面ライダーグリス/猿渡一海(演:武田航平)」が登場。彼はハードスマッシュに姿を変える「北都三羽ガラス」こと赤羽(栄信)、青羽(演:芹澤興人)、黄羽(演:吉村卓也)から"カシラ"と呼ばれ慕われている男で、北都では「猿渡ファーム」なる農場を経営していた。グリスが初登場する第16話からは、北都首相の多治見喜子(演:魏涼子)が東都首相・氷室泰山(演:山田明郷)に"宣戦布告"し、両都市間の「戦争」が勃発。戦争はやがて、もともと軍事兵器として開発されていたという「仮面ライダー」同士の"代表戦"に発展し、東都、北都、そして漁夫の利を狙う御堂正邦(演:冨家規政)が首相を務める西都、それぞれの存亡をかけた戦いが戦兎たちにゆだねられた。
失脚により東都を追われ、かつての部下・内海成彰(演:越智友己)にもひれ伏すなどプライドをかなぐり捨てた幻徳は、西都の仮面ライダー「仮面ライダーローグ」に変身。ビルドの強敵として立ちふさがった。
後に、グリスとローグはそれぞれの劇的な"状況の変化"がきっかけとなり、戦兎や万丈の仲間として共に戦う道を歩むことになる。一海はもともと三羽ガラスと共にネットアイドル「みーたん」=美空の大ファンであり、美空にだけは他に見せないような"ドルオタ"の一面を見せていた。また幻徳は、戦兎たちの仲間になったことによって"私服のセンスが著しく悪い"という意外すぎる一面が発覚。この2人は戦闘時には頼りになる助っ人として、また日常では騒がしくケンカばかりしているコミカルな仲間として強烈な存在感を発揮し、ファンからの人気をいっそう高めていった。
やがて物語は、ブラッドスタークの真の姿である「地球外生命体エボルト/仮面ライダーエボル」による"地球滅亡"を阻止するべく、ビルド、クローズ、グリス、ローグが全力で対抗するという最終展開に突入。途中、内海がエボルトに忠誠を誓い「仮面ライダーマッドローグ」に変身したり、葛城巧の父・葛城忍(演:小久保丈二)がビルドドライバーで「もうひとりの仮面ライダービルド」に変身したりと、戦兎たちに次々と"強敵"が立ちふさがっていく。
本作では、戦兎、万丈を中心に多くのキャラクターが登場し、それぞれ数奇かつ過酷な運命に導かれ、さまざまな"試練"にぶつかりながらそれらを懸命に乗り越えていく姿が描かれた。人々の"愛"と"平和"のために悪と戦っていた戦兎だが、想像をはるかに超える邪悪な存在に翻弄され、あるいは残酷な現実を突きつけられて、無力感に心が何度も折れそうになってしまう。しかしそんな中でも、万丈をはじめとするかけがえのない仲間たちの言葉によって奮起したり、互いにいたわりあうことで明日への希望を見出したりしていく。
悲壮な戦いに巻き込まれながらも、明るさや元気を忘れず前を向いて進みだすという部分に、『仮面ライダービルド』のキャラクターたちの魅力があるといえるだろう。自分の存在する意味すらも揺さぶられ、何度も"挫折"を味わいながら、それらを乗り越えて"愛"と"平和"を守るために巨大な「敵」に立ち向かっていく戦兎の姿は、まさに"傷だらけのヒーロー"と呼ぶにふさわしい。第1作『仮面ライダー』の、特に初期エピソードに強く観られる「ヒーローの孤独(世界を守るヒーローである一方で、人々から称賛されることのない秘密の存在)」、そして「苦悩するヒーロー像」という要素を色濃く受け継ぎ、心に残るストーリーを築き上げたのが『仮面ライダービルド』という作品であった。
第19作『仮面ライダービルド』に続く平成仮面ライダーシリーズとして、第20作『仮面ライダージオウ』(2018年)が現在好評放送中である。「平成」という時代が終わりを告げるいま、仮面ライダージオウ/常磐ソウゴ(演:奥野壮)には平成仮面ライダーの「歴史」を見つめ直し、かつ「新しい時代」を切りひらいていく力強いヒーロー像が求められている。歴代平成仮面ライダーの力を受け継ぎ、過去、現在、未来をまたいで繰り広げられるジオウの"戦い"は、これからますます激しいものになっていくだろう。
『仮面ライダー』の"原点"に立ち返ると同時に"ヒーローの新生"に挑んだ『仮面ライダークウガ』(2000年)から始まった「平成仮面ライダー」シリーズは、常に「今までにないヒーローを!」という意欲のもと、世界観やヒーローの個性などがまったく被らない独創的な20もの作品を生み出していった。しかし20作品それぞれの根底には、「人間の自由と平和を守るため、自らの命を懸けて巨大な敵に挑む」という『仮面ライダー』の永遠のテーマが連綿と受け継がれている。そして新たなる時代が到来しても、そのテーマは変わることなく次代へと継承されていくのではないだろうか。
映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー 平成ジェネレーションズ FOREVER』は現在大ヒット公開中。なお、マイナビニュースでは平成仮面ライダー20作を記念した『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』大特集を展開している。
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