2019年は、再びAppleが存在感を示す形で幕を開けた。米国の営業日初日にあたる1月2日、AppleはTim Cook CEOの名前で株主向けに書簡を発表した。その内容は、1月末に発表される2019年第1四半期(2018年10~12月)の売上高を下方修正するものだった。

  • 新年早々の1月2日、株主に宛てた書簡を発表したAppleのティム・クックCEO(右端)

Appleショックの再来

Appleは、2018年11月1日に発表した2018年第4四半期決算(2018年7~9月)で示した見通し(ガイダンス)において、2019年第1四半期は売上高が890億~930億ドル、利益率が38~38.5%になると示した。実際、このガイダンスはウォール街の予測の中央値を上限とするもので、非常に弱気だとみられた。

結果、Appleは10月を終えた段階で235ドルまで上昇した株価が急落し、30%ほど下落して2018年を終えた。それまで堅調だったテクノロジー株も軒並み崩れて同様の下落となったが、とりわけApple株の下落は顕著となり、Appleが史上初の1兆ドルを達成した時価総額もMicrosoft、Amazon、そしてGoogleの親会社のAlphabetに追い抜かれてしまった。

新年1月2日の発表では、売上高は840億ドルに、利益率も38%にそれぞれ修正され、弱気だった見通しをさらに下方修正した。この発表によって、Appleの株価は140ドル近辺まで下落したが、原稿執筆時点ではいったん盛り返している。

  • 「ティム・クックからAppleの投資家への手紙」と題された株主向けの書簡

Appleは、スマートフォンで世界第3位のシェアを誇る企業であり、単一のモデルではもっとも販売台数が多い。同時に、もっとも付加価値の高い製品を市場に送り出している企業でもある。これまで築いてきたサプライチェーンも強固だ。Appleの売上高の下方修正は、Appleに部品を供給している企業の業績に直結する。こうして、しばしばAppleショックが作り出されてきた。

今回も、Appleに主要なパーツを供給しているジャパンディスプレイやTDK、村田製作所といった日本企業や、Face IDを実現するための要素技術となっている米Lumentum、Finisar、そしてiPhoneの組み立てを引き受けているFoxconnなどへの影響が指摘されている。

Apple自身は、2019年以降は販売台数の公表を取りやめるなど、台数をアピールして投資家を惹きつける戦略の転換を図った。それよりは購読ユーザー数が重要であり、App StoreやApple Payが活発に活用されることを重視し、サービス部門の売上高を最大化していくことにより注力するはずだ。

しかし、サプライヤーは引き続き台数のビジネスから脱却できない。サプライヤーにとって、Appleの方針転換は、はしごを外されたような印象すら受ける。結果として、Appleショックから立ち直るのがもっとも早いのはApple自身で、周辺ではその影響が長引くことが予測できる。

中国が予想以上に下落した

もともと、売上高が最大化するはずのホリデーシーズンの四半期に弱気の予測を出していたことから、2018年末は厳しくなることをAppleは予測していた。しかし、更に下方修正することになった点は、予想外の事態に見舞われたことを示している。

その原因としてAppleが挙げたのが、中国の減速と、iPhoneの買い換え周期の長期化だった。

中国については、これまでにない強い表現で経済の低迷を指摘。今回の書簡では、売上高の予測の下限を890億ドルから50億ドル下方修正しているが、この欠損分のほとんどが中国市場の低迷によるものだと説明した。

Appleにとって中国市場は、米国・欧州に次ぐ規模を誇っており、20%のシェアとなっている。例えば、883億ドルを売り上げた2018年第1四半期(2017年10~12月)は、中国市場での売上高はおよそ180億ドルだった。2019年第1四半期のガイダンスの下限890億ドルがほぼ前年同期比で横ばいだったことを考えると、中国市場の売上高が最大で50億ドル程度失われたと見てよいだろう。

Appleは米国籍の企業であると同時に、主要製品のほとんどを中国で製造している。また、中国での成功がAppleのiPhoneによる業績を引き上げたこともあり、中国でのビジネスを大切にしている。そのことは消費者との対話だけでなく、中国当局への気づかいも含まれる。

これまで、中国ユーザーのデータを中国に移管したり、ギャンブル性が指摘されるゲームやファイヤーウォールをかいくぐるアプリをApp Storeから削除するなど、中国の政策や移行に最大限の配慮を示してきた。それを考えると、株主に対する説明責任を果たす最大の目的はあるものの、Appleが今回の書簡で中国の景気低迷を客観的に説明する文言をはっきりと含めた点は意外だった。

5Gまでに決着はつくか?

2国間のつばぜり合いが続く米中貿易戦争では、通商とともに次世代技術の覇権にも注目が集まる。

米国が知財保護を争点にしているのは、第5世代モバイル通信(5G)や自動運転など、製造技術よりも知財がより重視される産業へと移行しているからだ。さらに言えば、Appleがそうしているように、そしてトランプ大統領が指摘するように、製造技術は既に中国が覇権を握っている状態で、米国にとっては知財と関税以上に戦える武器がない。

そうしたなかで、Appleの振る舞いは今後重要になる。踏み込んで言えば、トランプ大統領はAppleの振る舞いを変えさせることに躍起で、最近も製造拠点を米国に移すことを促していた。

2020年とも言われる5Gの本格的な普及を迎えるにあたり、AppleのiPhoneは引き続き重要なポジションを占めることになる。売上高を減少させているAppleにとっても、5Gは「次の売上高の山」を作る重要な材料となる。それまでに、なんらかの解決に動くことになるだろう。