広瀬章人竜王への挑戦権を争う第32期竜王戦のランキング戦1組~6組が進行中です。1月24日には注目のランキング戦4組、藤井聡太七段―村田智弘六段戦のほか、2組、3組、6組の対局が各1局ずつ行われました。ところで、「ランキング戦」とは、何なのでしょう。
第30期、羽生善治九段が永世称号「永世竜王」を獲得し「永世七冠」になった竜王戦。同じ期に藤井聡太四段が決勝トーナメントに進出、増田康宏四段に勝って29連勝を達成しました。今回は、知っているようで知らない竜王戦のしくみについて紹介したいと思います。
予選とランク分け 2つの意味を持つ「ランキング戦」
ランキング戦は他棋戦で言えば、いわば予選に当たる部分です。竜王戦は全棋士と、規定により選ばれた女流棋士、奨励会三段、アマチュアが参加しますが、全参加者は最高クラスの1組から6組までに分けられます。各組の定員は1組から3組までが16人、4、5組が32人、6組は1~5組以外のプロと、女流棋士、奨励会員、アマチュア(今期第32期は62人)です。
ランキング戦を勝ち抜くと挑戦者を決める決勝トーナメントに進出できるのですが、上のクラスはトーナメント出場者の数が多く設定されています。1組は5人、2組が2人出場できるのに対し、3組から6組は優勝者1人しか出場できません。
一方で、ランキング戦は予選のほかに「ランク分け」の意味も持っていて、原則的に成績の良かった4人はひとつ上の来期クラスに昇級、逆に悪かった4人はひとつ下のクラスに降級となります。
上のクラスに行けば決勝トーナメントに進出しやすくなり、金額は公表されていませんが対局料もアップしていきます。タイトル「竜王」を保持している棋士以外の棋士たちは毎期、優勝、昇級を目指して所属するランキング戦を1局1局戦うのです。六段以下の棋士にとっては、2期連続昇級を達成すると昇段できるというのも魅力です。藤井聡太七段が前期第31期ランキング戦5組で優勝・昇級し、この規定で史上最年少七段になったのは記憶に新しいところです。
決勝トーナメントも上位クラスが有利
ランキング戦が終わると、いよいよ挑戦者を決定する決勝トーナメントが始まりますが、こちらもランキング戦同様、上位クラスに有利なしくみとなっています(下の画像参照)。
5組、6組からの出場者はヤマの一番下からのスタート、逆に1組からの出場者は高いところからのスタートとなります。特に1組優勝者は1勝すれば挑戦者決定戦に進出できるスーパーシード! 前期第31期は広瀬章人八段(当時)がその利を生かして挑戦権を獲得、羽生善治竜王を下してタイトルを獲得しました。
先に説明しました通り、ランキング戦6組は大所帯の上に決勝トーナメントに進出できるのはたった1人。その上、決勝トーナメントも一番不利な枠からとなれば、挑戦権獲得への道のりが何だか長過ぎるような気もしますが、それでも確率的にゼロでないところが竜王戦の面白さでもあります。
棋界のもうひとつのビッグタイトル「名人」を獲得するには、まず順位戦を昇級していき、10人しか所属できない最高クラスのA級に到達し、そこで優勝して名人への挑戦権を獲得し、名人を倒すというプロセスを踏んでゆかなければいけませんので、新人が名人を獲得するには最低で5年ほど掛かるのです。
そこへいきますと竜王は、新人にもタイトル獲得の夢があります。
ただ、やはりそれは長い道のり。過去31期で6組から挑戦権を獲得した棋士は1人もいません。さらに5組で獲得した棋士もおらず、4組でようやく3棋士が獲得と、トーナメント表の見た目通りに、下位クラスの棋士は苦戦しています。
「竜王ドリーム」は現れるか
下位クラスのの棋士が厳しい現実を突きつけられている現状ですが、それでもやはり、ファンは4組、5組、6組からシンデレラボーイが生まれる「竜王戦ドリーム」に期待するもの。
今回藤井七段は、参加しているランキング戦4組からの挑戦者、その4例目になれるでしょうか。いや、もしかしたら5組、6組の逸材が大爆発ということも?
そんなミラクルに期待しつつこの棋戦の進行を追えば、観戦がさらに楽しくなるかも知れませんね。