「二地域居住」というと、なんとなく魅惑的な言葉に感じませんか? 私もそうした一人でした。少し前のアンケートデータですが、国土交通省の『二地域居住に対する都市住民アンケート調査結果』(平成16年)によると、ほぼ半数が将来行いたいと回答していて、年齢による差は大きくありません。
現在二地域居住を実践している比率は、働き盛りの30代と40代が1.8~1.9%、リタイア年齢層が3.6%で2倍の開きがあるとは言え、将来の希望はリタイア組よりも40代・50代の方がわずかに上回っています。
潜在ニーズが多い二地域居住をリタイア世代や若い世代が実践するには、どのような問題があり、どのようなメリットがあるか考えてみましょう。
「二地域居住」とは?
国土交通省が平成30年3月に「二地域居住推進の取組事例集」を発表しました。そこには冒頭、二地域居住の定義が書かれていて、「二地域居住とは、都市部と地方部に2つの拠点を持ち、定期的に地方部でのんびり過ごしたり、仕事をしたりする新しいライフスタイルのことです。例えば、平日は都市部で暮らし、仕事をして、週末などの休みを活用して趣味などのゆとりある生活を過ごすことが考えられます」とあります。
人によって違うでしょうが、別荘生活とは少し異なる、より能動的なイメージではないでしょうか。
若い世代の二地域居住
現実は二地域居住というと、リタイアした世代か、お金にゆとりのある自由業、どこでも仕事ができる文筆業などの特別なケースが中心になっているかもしれません。しかし、若い世代も関心が高く、そうした世代こそ二地域居住を有意義に活用できる側面もあるのです。
設計事務所を経営していた私の後輩は、20代のころから夫婦で年末年始を将来移住したい地域(東南アジア)で過ごし、その地域の人脈形成に努めて、老後は物価の安いその地で暮らす計画を綿密に立てていました。彼らにとっては年末年始のその地での暮らしが二地域居住であったと思います。
外国でなくても、気に入った地域があれば、若い時から休みを利用して同じ地域で過ごすメリットは大いにあります。子供にとっては田舎での暮らしは心身の成長に大いに寄与すると思いますし、度々訪れれば、地物の住民とのコミュニケーションも増えていって、ますます楽しくなるはずです。万一うまくいかなくなっても、別の地域を探せばよいだけです。高齢者がいきなり移住して快適に過ごすには相当なエネルギーが必要ですし、うまくいかないリスクも少なくないのです。
二地域居住=地方の活性化の間違い
主体となるのは都市部の人間です。そのために、まずは第一に考えるのは地方のメリットではなく、都市部の人間のニーズのはずです。しかし、受け入れ自治体のホームページを見ると、実態は都市住民のニーズにはあまり触れられていません。地方の活性化は都市部住民のニーズを受け入れた結果であるはずです。
そのために、地域の選択や住まいの確保はかなり困難が伴います。基本的に住民票を移さないので、地方の自治体のメリットも少なくなります。地方の自治体は、いろいろ定住政策を考え、アピールしていますので、二地域居住のメインが都市部でなく地方であるのであれば、定住支援を受けて、仕事の斡旋や住まいの支援を調べるとよいでしょう。かなり手厚く支援している自治体も少なくありません。仕事が確保でき、住まいが格安で提供されれば、移住のハードルも低くなります。
地方をメインにしない場合は、空き家の場所などを積極的に問い合わせてみると良いでしょう。原則地方自治体や住民の目線は内向きですので、二地域居住を目指す方にとっては、表向きの情報はほとんど役に立ちません。自分で情報を手に入れていかないと、なかなか居住先は見つかりません。
二地域居住のメリット・デメリットと費用負担
二地域居住は、若い時から準備した方が成功する確率が高くなります。どんなことにもメリットとデメリットがありますが、自分たちに最適な地域を見つけるには、実際に少しずつ取り組んでみることが一番です。メリットをより実感し、デメリットを回避する方法も見つかっていくと思います。ではどのようなメリット・デメリットが考えられるでしょうか。
非日常を満喫できる
日々の日常の生活をリフレッシュするためには「非日常」をどのように取り込むかは大切な問題です。趣味に没頭したり、旅行やキャンプに出かけたり、観劇や友人との食事、カラオケで発散というケースもあるでしょう。あちこちに旅行する楽しみもよいでしょうが、同一地域で、より能動的な非日常を味わえる楽しさは格別なものがあります。
距離が遠いほど非日常感は高まりますが、現役世代が取り組む場合は都市部から2~3時間程度で行ける場所がお勧めです。千葉県の銚子市や南房総市は東京に近い立地をアピールして二地域居住を推進しています。
住環境は期待できない
都市部のマンションなどの断熱機密性能が高い建物と比較して、田舎の古い木造家屋は「暑い」「寒い」など、決して快適ではありません。蚊にさされるなどの被害は日常で、朝は鳥の声で早くから起こされます。それをどう工夫して楽しむかが、二地域居住の醍醐味のように思います。
余裕があれば、冷暖房費などのコストが抑えられ快適な高気密・高断熱の住まいを建てる方向で考えてもよいでしょう。非日常の住まいですので、無駄を削ってシンプルに建てれば建築コストも少なくてすみます。
維持管理が大変
久しく使っていないのであれば、別荘と同じで、到着すると布団の乾燥やら掃除からスタートしなければなれません。食材も運び込むか、早々に現地で整えなければなりません。住宅メーカーにいた時は、旦那様は別荘を欲しがる方は多かったのですが、奥様で賛成される方は全くいらっしゃいませんでした。移動前に現地で必要なものを考え用意しておく、到着したらまず掃除をするなど、それらのほとんどの部分は奥様が担わなくては鳴らないことが明白だからです。移動に対する負担も意外とあるものです。
また、管理費を支払って定期的に清掃してくれる別荘地域と違って、落ち葉の清掃なども大変です。枝や隣地に張りだしたり、落ち葉が落ちたりすると苦情が出ます。境界付近はいつもきれいにしておかなくてはなりません。敷地が広ければ重労働です。
住まいと暮らしの費用負担
もちろん、生活拠点が2つになりますので、余分にかかります。家賃または住まいの建設費・維持費・固定資産税、光熱費の基本料金、往復の交通費などは最低限かかります。建物の維持管理も大変で、週末だけ補修工事というわけにはゆきません。ある程度メンテナンス工事の間は現地に張り付く必要があります。食料を自作すればその分は多少負担減になるかもしれませんが、当面金額的にはあまり期待はできないでしょう。
最大の費用は住まいの調達です。地方のほとんどは過疎に悩み、空き家が多くあるはずです。価格も都市部に比べれば格安でしょう。それらは家財も残っていることが少なくありません。居住となると家電製品一式は必要ですので、それらを借りられたり、譲り受けたりできるメリットは大きいと思います。問題は自分たちに良い条件の住まいをどう探し出せるかです。
老後のお金の負担
将来田舎に定住する予定であれば、食料を自作する量や生活スタイルに応じて、多少なりとも生活費は削減できる可能性はあります。都市部の住まいを売却や賃貸にすれば、金銭的余裕も生まれます。
江戸時代に諸国を行脚した山伏の日記をそのまま現代文に直した『大江戸泉光院旅日記』(石川英輔著)の中で、江戸でも働いたことがある農民が、「江戸ではお金がないと暮らしていけないが。田舎ではお金がなくてもなんとかなる」というような話を山伏にしている部分があります。その関係は現代も変わらない気がします。まだエネルギーがある若い間に、お金がなくてもやっていける程度まで環境を整えると老後は楽になるでしょう。
田舎暮らしの費用は工夫次第です。何を期待するか、どこまでの暮らしを望むかで全く異なります。またメリット・デメリットも千差万別で、人によってはメリットの部分も他の人にはデメリットになるかもしれません。期待するものが人様々なので、自分たちにフィットするものを見つけ出すか、作り出すしかありません。またそれが一つの醍醐味で非日常ともなるのではないかと思います。
■著者プロフィール: 佐藤章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。