仮想マシン(VM)上のWindowsとMacの最新ハードウェア環境の統合を目指すParallels社が発表した「Parallels Desktop 14 for Mac」。今バージョンでも盛り込まれた様々な機能に関して、米Parallels社のアジア・太平洋地域 ジェネラルマネージャーのケビン・グリーリー氏と同社のシニア・プロダクトマネージャーであるカート・シュマッカー氏、そして日本のパラレルス株式会社の代表取締役 下村慶一氏にお話を伺った。

  • 左から米パラレルス社 シニア・プロダクトマネージャー カート・シューマッカー氏 米パラレルス社 アジア・太平洋地域 ジェネラルマネージャー ケビン・グリーリー氏 パラレルス株式会社 代表取締役 下村慶一氏

    左から米パラレルス社 シニア・プロダクトマネージャー カート・シューマッカー氏 米パラレルス社 アジア・太平洋地域 ジェネラルマネージャー ケビン・グリーリー氏 パラレルス株式会社 代表取締役 下村慶一氏

-- 「常に最新のOSに対応することを保証する」とお約束いただきましたが、2018もMacの最新OS「Mojave」発売前に会わせたリリース、ありがとうございます。

シュマッカー お約束したことが果たせました。

-- macOS Mojaveのアップデートは地味なものになりましたが、Parallels Desktopの方はWindowsの新しい機能をしっかり盛り込んできたなという印象です。常に次期Windowsの機能を盛り込むのはバージョンアップのポイントの一つでしょうか。

シュマッカー その通りです。私たちはMicrosoftがやっていること、その開発内容に関して非常に注視しています。Microsoftから出てくる「クール」な機能に関して、それをMacに持ってこようとしています。かつてはMacの機能をWindowsに持ってくることにフォーカスしていましたが、最近ではMicrosoftの方でも非常にクールな機能を出しているので、そちらをMacに持ってくるとことにも注力しています。

私たちは常にMicrosoftとAppleの最先端技術に対応しようとしていますが、時にはそれが実を結ばないこともあります。例を挙げると、Windows 10のインサイダープレビューでは「セット」という機能が出てくると言われていました。私たちはその機能をParallels Desktop 14に盛り込みましたが、その後Microsoftからはその「セット」機能を2019年以降に先延ばしにするという発表があり、今回開発した機能は日の目を見なくなってしまいました。

グリーリー Mountain LionやSierraといったMac OSのリリースにおいて、例えばMountain Lionのディクテーション機能などですが、そのような新しい機能に対応するため、私たちの開発者はこれまで非常に多くの時間を割いて、Parallels Desktopで実現するための作業に取り組みました。しかし今回Mojaveに関しては、これまでほどあまり大きな機能の追加がなく、macOSの機能に対応することに多くの時間を割く必要がありませんでした。そのおかげで、ユーザーから上がってきている要望に対応できました。プレゼンのスライドの中にありましたが、小さな機能の追加や機能の強化を行うことができました。

-- Parallels Desktop 14の一番のポイントはどこになるでしょうか?

シュマッカー それは人によると思います。既存の12、13のバージョンを使っているユーザーであれば、ストレージの最適化による容量削減というのは一番の訴求点だと思います。また、例えばユーザーがアーティストであれば、タブレットで筆圧感知機能を使うことができるといったことが一番のメリットかもしれません。

グリーリー パフォーマンスの向上、特にアプリケーションの起動にかかる時間が削減されるということ、あたかも部屋の電気をつけるくらいのスピードでアプリケーションを起動できるということが一番のメリットだと思います。あとはOpen GLのサポートによるグラフィック機能の向上や、これまでアクセスできなかったアプリケーションにアクセスできるようになるということ。これらは一般ユーザーにとってはポイントではないかもしれませんが、Parallels Desktopを使いたいと思っていたけれど、これまで使えないアプリがあったというユーザーの方に対して、それらを提供できるというのは大きいと思います。

シュマッカー Appleは毎年、WWDCなどで新しいOSの機能に関して資料を出します。それはいいやり方だと思いますので、今回それを真似てこのようにフィーチャーズということで一覧を作りました(画像参照)。今後もこれはやって行きたいと思っています。

  • 今回のプレゼンで提示された機能一覧。追加機能や強化された機能などを確認できる

-- 日本では店頭でパッケージを購入されるユーザーが多いということですが……

下村 確かに日本では店頭で買われるお客様が多いのですが、店頭で販売されているのは、新規ユーザー向けの製品ばかりで、アップグレードは必ず弊社のオンラインストアからとなります。そのため、店頭でパッケージを買われるお客様は、新規ユーザーとして新バージョンをお買い求めいただいているケースが多いということになります。

-- Mojaveの地味なアップデートを見て、他のアプリもバージョンアップを見送ってしまう方もおられるのでは?

下村 今の市場動向に関して申しますと、2018年のmacOSに左右されて見送りがあるかというとおそらくそうとは限らないでしょう。これまでも実際に新バージョンを見送る方はいました。1年おきくらいに売り上げのピークに違いが見られるのは、そうした数バージョン前を見送ったお客様も「新規」として購入しているのだろうと考えています。

グリーリー AdobeやMicrosoftなど多くの会社がサブスクリプション形態に移行しています。私たちは会社として半分その方向に向かっています。3年前に発売したPro版はサブスクリプション形式で、非常に成功しています。サブスクリプションだと様々な追加機能を使うこともできますし、リリースの間に出てくる新しい機能、新しいバージョンに関しても使えるというメリットがあります。

ただ、会社としてはパッケージで提供される永続ライセンスという形態をやめてしまうことに関しては、かなり敏感な方たちがいることも認識しています。特に日本の市場は、永続ライセンスを継続しないということに関して非常に敏感です。会社の戦略としては、サブスクリプション形態にすることによって、将来の売り上げを予測でき、事業の計画も立てやすくなります。さらに新しい機能を毎年リリースするのも可能になってくるわけです。

そしてユーザーからの機能に対するご要望リストがありますが、それを実現するために研究開発にさらなる投資を行っていきたいと考えています。これらを可能にするためには、会社としては100%サブスクリプションにしたいという気持ちはあるのですが、しかしながら日本の市場動向もありますので、永続ライセンスに関しても継続して提供していきたいと考えています。

-- MacユーザーがWindowsに依存する環境が減ってきているのではないかと思うのですが、シェア的なところはどうなのでしょうか

グリーリー シェアなどに関して数字を提供することはできませんが、売り上げに関して言えば日本の成長率は現在微増です。世界の市場を見てみると、売り上げはMacの売り上げに連動していて、世界的には横ばいといった感じ。今、もっとも成長している市場は中国と韓国です。この両方の市場で大きな成長を遂げています。

日本の消費者向けの市場に関していえば、先ほど申し上げた通り、現在横ばいもしくは微増となっていますが、企業向けのビジネスに関していえば大きく成長しています。Office for MacとOffice for Windowsに関していえば、その差は縮まってきていますが、それでもOffice for Windowsがスタンダードになっています。私もOutlook for Macを使っていても、Outlook for Windowsに戻ったりしますし、PowerPointについても同じです。他の多くの人たちも同じような体験を持っていると思います。

私たちはより多くのWindowsの商品、アプリに対応するように努力しています。例えばOpen GLの対応やグラフィックの加速化によって市場全体としては横ばいであっても、製品としては成長を遂げられるようにしています。

下村 MacとWindowsを一緒に使う必要性があまり感じられなくなってきているのではないかというのは、個人ユーザーの観点ですと、そのような傾向も見受けられます。ほとんどWindows、あるいはMacで完結できるシステムになってきています。

しかし企業の中でMacを使う方にとっては多くの場合、Windowsシステムがベースになっているので、Macを仕事で使わなければいけない人には、よりニーズが高まっています。特にInternet Explororが入り口になっている社内のシステムが必須のところは増えてきています。そのため、これからのターゲットは企業内のMacユーザーにシフトしていきます。

これは、ビジネスライセンスということだけではなく、例えばプロユース、Pro Editionを使うようなお客様になります。企業内のパワーユーザーの方が、サブスクリプション版のPro Editionを広く使っていらっしゃっていて、その数が増えているのを私たちは把握しています。

-- App Storeでダウンロードできる「Parallels Desktop Lite」のサブスクリプション版は14相当になるんでしょうか?

シュマッカー App Storeには非常に多くのルールがあります。Parallels Desktopの中でも人気のある機能であっても、それはApp Storeで売れないものがあります。なのでApp Storeで売れるように、そういった部分を除外した形でLite版として販売しています。

-- 違うバージョンなんですね

下村 そもそも製品仕様が違います。

シュマッカー Parallels Desktop Liteに関しても今後改修を行っていきますが、まだそのスケジュールは決まっていません。ただこのLite版に関して想定しているユーザーは、Windowsアプリケーションをそれほど多く使わない、使ったとしても1つか2つしか使わないという方々になっています。定期的にWindowsアプリケーションを使わなくてはいけない、もしくは複数のアプリケーションを使わないといけない方には、スタンダードのParallels DesktopまたはPro Editionをおすすめします。

-- App Storeで「Parallels Desktop 14」そのものを出すのは難しいと?

シュマッカー そもそも不可能です。

-- 最後に、今回のバージョンに対する読者の皆さんへのメッセージがあれば

シュマッカー 読者がどのような関心を持っているかにもよると思いますが、私が思うに今回のアップグレードでもっとも大事なのはストレージの容量を削減できるという点だと思います。またVMのサイズを縮小できることもポイントだと思います。

ケビンはスピードの向上がもっとも重要だと考えています。やはりユーザーがどのような観点、価値観を持っているかに依存すると思います。例えばMacBook Airのユーザーであれば、限られたSSDしかありませんので、ストレージの容量を削減できるのが一番のメリットだと思いますし、反対にハイエンドのグラフィックスのユーザーであれば、スピード、パフォーマンスの方が重要だと思います。

グリーリー カート(・シュマッカー)はピザの中でもっとも重視するのはクリスピーな生地ですが、私にとって重要なのはソースです。両者が間違っているわけではなく、両者とも正しいのです。