1月18日、挑戦者決定リーグ入りが懸かる第60期王位戦予選決勝の谷川浩司九段―都成竜馬五段戦が行われます。
タイトルにつながる1戦が師弟戦。結果はいかに?
谷川九段は56歳。史上2人目の中学生棋士として1976年にプロデビューし、21歳で史上最年少名人となった、エリートという言葉がふさわしい「超」のつく一流棋士。通算タイトル獲得数27期、棋戦優勝22回を誇ります。
都成五段は28歳。2016年、26歳の年齢制限ギリギリで四段プロ入りを果たした苦労人ですが、三段時代に奨励会員も参加できる新人王戦でプロを次々と倒し優勝した経験があります。プロ入り後も高勝率を保ち、順位戦でC級2組からC級1組へ昇級するなどの活躍を見せている関西期待の若手です。
今回、「中学生棋士・最年少名人」と「年齢制限ギリギリの苦労人」の対局を取り上げたのには理由があります。
実はこの2人、谷川九段が師匠、都成五段が弟子の師弟関係。この一戦は「師弟戦」なのです。
将棋界では、各棋戦トーナメントなどの組み合わせは抽選で決められますが、一次予選1回戦では当てないなどの決まりがあり、また弟子がプロ入りした時には師匠は引退していた、といったケースも多いため、師弟戦はあまり見られないのです。
同時期に活躍を見せなければ実現しない師弟戦を、タイトルに直結する重要な場面で実現させた両者の心情はどのようなものでしょうか。
「師弟戦」といえば、昨年は印象に残る対局が2局行われました。
ひとつは3月、第68期王将戦一次予選2回戦の杉本昌隆七段―藤井聡太六段(当時)戦。
注目の集まった1局は、「少しでも永く盤を挟んでいたい」と両者が思い、それが将棋の神様に通じたかのように千日手(=引き分け)となり、先手後手を入れ替えて指し直しに。その「指し直し局」を藤井六段が制しました。
もうひとつは9月、第77期順位戦B級1組6回戦の畠山鎮七段―斎藤慎太郎七段(当時)戦。
リーグ戦形式で行われる順位戦は一番下のC級2組から、C級1組、B級2組、B級1組、最高クラスのA級まで5つのクラスに分けられていますが、師弟戦が組まれるのは総当たりで行われるB級1組とA級のみ。抽選で相手が決まるB級2組以下のクラスでは規定により師弟戦は行われないのです。
原則的にA級は定員10人、B級1組は13人。順位戦参加棋士が全体で約140人であることを考えれば、師匠と弟子が極めて高いレベルを保っていなければ実現しないことになります。事実、これまで順位戦で師弟戦を実現させたペアは畠山―斎藤ペアを含めて6組しか出現していません。トーナメントでの師弟戦よりレア度は格段に高いのです。
この対局は師匠の畠山七段が意地を見せる結果となりました。斎藤七段は手痛い黒星を喫しましたが、直後に念願の初タイトル「王座」を獲得、また順位戦も現在のところ7勝3敗でリーグ中2位、上位2人がA級へ昇級しますので「昇級圏内」です。
18日に行われる谷川九段―都成五段戦は、スマホアプリで毎日公式戦の注目局が観戦できる「将棋連盟ライブ中継」の中継対象局となっています。両者の心の内を読み取りながら観戦すれば、より一層お楽しみいただけるかと思います。
将棋界では公式戦で弟子が師匠に勝つことを「お陰様を持ちましてこれだけ強くなれました」という意味合いから「恩返し」と言いますが、今回の王位戦予選決勝、王位獲得6期を誇る師匠・谷川浩司九段としては「そんな恩返しはいらない!」という心情かも知れません。
結果はどうなりますでしょうか。