トヨタ自動車は16年ぶりの復活となるスポーツカー「スープラ」を北米国際自動車ショー(デトロイトモーターショー)で発表した。BMWと共同開発した新型は、歴代でもっとも短くて幅広いボディを持つ。エンジンは伝統の直列6気筒に加え、新たに4気筒が登場するとのことだ。プロトタイプに乗った印象を含めて概要をお伝えしよう。
強烈に張り出したリアフェンダー
プロトタイプの試乗会が行われたサーキット「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」のピットに置かれていた新型スープラを見て最初に感じたのは、大柄ではないのに迫力があるということだ。
日本でもスープラを名乗り始めた3代目以降、このクルマの全長が次第に短くなっていったことは、先日掲載となった記事でも触れておいた。新型も、その路線を受け継いでいる。なにしろ、ホイールベースは2,470mmと、車格では下の「86」より100mmも短い。前後のオーバーハングも抑えてあって、4,380mmという全長は歴代スープラで最短だ。一方、1,865mmに達する全幅は歴代でもっともワイドである。
トレッド(左右タイヤ間の距離)はフロント/リアともに1,600mm前後。ホイールベースとの比率は1.6以下で、ライバル車のひとつとなる日産自動車「フェアレディZ」や、リアエンジンであるためホイールベースを短くできるポルシェ「911」などを下回っている。
一般的に、ホイールベースが短いほど身のこなしは俊敏になり、トレッドが広いほどコーナーでの踏ん張りが増す。新型スープラが「曲がりやすさ」にこだわったスポーツカーであることは、そのサイズからも分かる。
ワイドなボディを強調するかのように、スタイリングではとにかくリアフェンダーの盛り上がりと張り出しが目立つ。試乗会では2002年まで販売していた旧型と見比べることができたのだが、当時はボリューム感があふれていると感じた旧型のフェンダーラインも、新型と並ぶと平板に思えてしまったほどだ。
新型スープラがBMWとの共同開発であることは、先述の記事にも書いた通り。具体的には、BMWの新型「Z4」とプラットフォームやパワートレインなどの基本を共用している。基本と書いたのは、細部のチューニングを各社が独自に行っているためだが、2,470mmのホイールベースに加え、エンジンやサスペンションの形式などはほぼ共通だ。
しかし、デザインはまるで違う。日本では2019年春に発表予定の新型Z4はオープンカーであり、ドアの前の「エアブリーザー」と呼ばれるスリットからリアに向けてせり上がるラインで後輪を強調している。一方、伝統のクーペスタイルを引き継ぐ新型スープラは、はるかに大胆で存在感抜群の後輪まわりを特徴とする。
もちろん、フロント/リアまわりも違う。新型スープラは複数のレンズを内蔵した大きめのヘッドランプと長めのノーズ、リアゲート一体のスポイラー、横長のリアコンビランプなど、旧型に近いディテールを各所に配してあり、伝統を継承したいというトヨタの気持ちが伝わってくる。
新型「スープラ」はオーストリアで生産
歴代で初めて2人乗りになった新型スープラのインテリアは、シートが低めであるのに対し、プロペラシャフト(エンジンの力を後輪に伝える棒状の部品)が通るセンターコンソールは高く、スポーツカーらしいタイトな空間となっている。展示車両はステアリングやセンターコンソールの一部が赤いレザーで覆われており、鮮烈な雰囲気を醸し出していた。
それとともに目につくのは、ATのセレクターレバーとエアコンやオーディオなどのスイッチがBMWと共通であることだ。さらに、右ハンドルでありながら、ウインカーのレバーは欧州車のように左側にある。
実は、新型スープラは日本ではなくオーストリアで生産される。BMWの新型Z4は、カナダに本拠を置くメガサプライヤー「マグナ・グループ」に属するマグナ・シュタイアがオーストリアの工場で生産するとのこと。トヨタはオーストリアに工場を持っていないから、生産施設も同一になるのだろう。欧米が主要マーケットであるなら、輸送などを考えても妥当な判断だ。
新型スープラを作るにあたり、トヨタは直列6気筒エンジンを積むFR(フロントエンジン・リアドライブ)という伝統を受け継ぐべく、BMWとの共同開発を選んだ。しかし、発表された資料によると、3L直列6気筒ターボエンジンのほかに、チューニングの異なる2種類の2L直列4気筒ターボも用意するとのことだ。
日本仕様のグレードは「SZ」「SZ-R」「RZ」の3タイプ。SZとSZ-Rが4気筒になる。SZは最高出力145kW、最大トルク320Nm、SZ-Rは190kW/400Nmで、6気筒のRZが250kW/500Nmだ。トランスミッションは全車8速ATで、旧型には存在したMT(マニュアル車)は現時点で用意していない。ちなみに、Z4にも2L直列4気筒ターボエンジン搭載車はある。
直列6気筒ならではの加速を試乗で体感
ここからは、実際に乗ってみた印象を報告したい。
乗り込んでみると、2人乗りなのでシート背後の空間はわずかであるが、身長170cmの筆者がドライビングポジションをとっても、薄いバッグを置けるぐらいのスペースはあった。テールゲートを介してアクセスする荷室との間には、ボディ剛性を確保するための隔壁が存在していた。急ブレーキのときに荷物がキャビンに飛び込んでくるのを防ぐ役目も果たしてくれそうだ。
サーキットで乗ったプロトタイプは6気筒で、当時は発表前ということもあり、「A90」という形式名が入ったカモフラージュを施してあった。エンジンスタートボタンを押すと、直後にウーッという低い唸りのアイドリングが始まる。予想以上に音を聞かせる設計になっていた。
ピットロードを出てコースへ。最初のコーナーを回ってアクセルペダルを踏み込む。長くてバランスの取れたクランクシャフトが生み出す、滑らかな吹け上がりと重厚なサウンドとともに、力強く息の長い加速が堪能できる。それでいて、1,600~4,500rpm(エンジンの回転数)という幅広い領域で最大トルクを発生するだけあって、どこから踏んでもドライバーが望むだけの力を味わえる。
一方で、コーナーへの進入では、長い直列6気筒エンジンを積んでいるとは思えないほど軽快に向きを変える。前後重量配分を50:50としてある上に、重心高は水平対向エンジンを積むトヨタ「86」より低くなっているなど、こだわりの設計がスープラらしからぬ動きとして伝わってきた。シートのホールド感がタイトであったならば、より一体感が得られたかもしれない。
コーナーの立ち上がりでは、雨の中での試乗ということもあって、アクセルペダルを踏みすぎると後輪がスッスッと唐突に滑りがちだった。トヨタのスポーツカーとしては辛口のチューニングだと思ったが、晴れた日に乗ったジャーナリストは安心して走ることができたと話しているし、市販型では改善される可能性もある。
ちなみに新型スープラは、TOYOTA GAZOO Racingが立ち上げたスポーツカーシリーズ「GR」で初となるグローバル展開モデルだ。
TOYOTA GAZOO Racingが昨年、ル・マン24時間レースで優勝し、世界ラリー選手権(WRC)のタイトルを獲得したことは記憶に新しい。以前の記事にも書いたように、スープラはル・マンとWRCの両方に出場した経験を持つスポーツカーだ。世界で活躍した経歴を持つからこそ、GR初のグローバルモデルという重責を担うことになったのだろう。
昨年のソフトバンクとの提携が象徴しているように、トヨタは今、100年に一度の大変革の時代に直面して、自らの殻を破りつつあると感じている。新型スープラからも、その意気を感じた。開発や生産のプロセスから実際の走りまで、これまでのトヨタのスポーツカーとはひと味違うクルマだ。
(森口将之)