12月に竜王位を奪われ、27年9カ月ぶりに無冠となった羽生善治九段が1月11日、三浦弘行九段とのA級順位戦7回戦に臨んでいます。

羽生九段にとっては「九段」として初の対局であり、タイトルホルダーへ返り咲く「再起戦」でもあります。

羽生九段棋士人生2度目の再起戦! では1度目は?

  • 『週刊将棋』1990年12月19日号より。この1局を礎に羽生はすぐに無冠を返上

27年9カ月もの間、何かしらのタイトルを持っていたとはとてつもない記録ですが、では27年前、無冠になった時の「再起戦」はどのようなものだったのでしょう。(※以下、肩書当時)

調べてみますと、『週刊将棋』1990年12月19日号に対局の取材記事がありました。その対局は1990年11月26日に竜王位を失ってからおよそ2週間後、12月10日に行われた第16期棋王戦本戦勝者組決勝、対小林健二八段戦。

記事にはこうありました。

「竜王失冠のよる、羽生は明け方までゲームをやった。付き合ったのは小林健、先崎五段、杉本四段。周りは羽生に気を使っていないふうで、やっぱり使っていて、羽生の方もそういう周りに気が付かないふりをしていた。ばかをやってみんなで笑い合っていた。あの日から二週間、羽生の再起第一戦である。相手はあのときの一人、小林。」

無冠の羽生前竜王は、優しい先輩棋士と重要な対局で当たってしまったわけです。

しかし盤上と盤外は別。羽生前竜王はこの再起戦に勝利、さらに敗者戦を勝ち上がった小林八段を返り討ちにし、南芳一棋王への挑戦権を獲得するのです。

失冠の夜を共に過ごした小林八段は、竜王戦決着局を報じた週刊将棋1990年12月5日号にコメントを寄せていて、

「羽生さんにはこれで勝負がついたわけではない、と言ってやりたい。若いしチャンスはいくらでもある。」

と、敗れた後輩をいたわっています。どこまでも優しい先輩・・・しかしこれには続きがあり、

「そこで棋王挑戦権は私に譲って欲しい。」

ユーモアと本音が入り混じった(?)、絶妙なコメントです。

  • 『週刊将棋』1990年12月5日号より小林健二八段のコメント

挑戦権を獲得できなかった優しい先輩の無念を胸に戦った……かどうかはわかりませんが、羽生前竜王は南棋王との五番勝負を制して棋王位を獲得! わずか4カ月足らずで無冠を返上し、以降27年余の長きにわたってタイトルを持ち続けたのでした。

  • 羽生の棋王獲得、無冠返上を報じた『週刊将棋』1991年3月27日号