ソニーは、米ネバダ州ラスベガスで開催しているCES 2019において、「クリエイティブエンタテインメントカンパニー」という新たなメッセージを打ち出した。
CES 2019の会期前日となる2019年1月7日(現地時間)に行われたプレスカンファレンスで、ソニーの吉田憲一郎社長兼CEOは、「音楽、映画、テレビ番組、ゲームといった様々なエンターテインメント分野において、世界を魅了するコンテンツクリエイターと連携し、ソニーのハードウェアとテクノロジーによって、クリエイターの創造性を広げることに貢献する。また、クリエイターが生み出すコンテンツを高い品質でユーザーに届けることができるハードウェアを提供し、クリエイターとユーザーをつないでいく」などと述べた。
プレスカンファレンスでは、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント モーション・ピクチャーズ・グループのトム・ロスマン会長や、ソニー・ピクチャーズ アニメーションのクリスティン・ベルソン社長、ソニー・ミュージック エンタテインメントのロブ・ストリンガーCEOが登壇。ソニーが目指す姿を実現するには、最先端のテクノロジーに加えて、魅力的なコンテンツ制作と長期的なコンテンツIP戦略が重要であることを強調した。
だが、今年のCES 2019、ソニーのプレスカンファレンスは、異例だともいえた。
全世界の報道関係者を集めるCESのプレスカンファレンスでは、その年の目玉となるハードウェアを大々的に発表するのが一般的であり、ソニーもそれに習ってきた。だが、今年のソニーは、ハードウェアの新製品の発表は一切行わなかったのだ。
ソニーブースでは、同社初の8K液晶テレビとなる98/85V型「BRAVIA Z9G」を展示。決して目玉となる製品がないわけではなかった。では、なぜプレスカンファレンスで、ハードウェアの新製品に言及しなかったのだろうか。
ソニーの高木一郎専務は、「ソニーは、テクノロジーを軸にして、グループ経営をしている。かつては、エンターテインメントとエレクトロニクスが、なかなか融合できていない時期もあったが、ここ数年は、融合が図れている。それを象徴的に示したのが、今回のプレスカンファレンスの狙いであり、ソニー・ピクチャーズとソニー・ミュージック エンタテインメントのトップを登壇させ、エンターテインメントとエレクトロニクスの関わりについて言及した。いまのソニー、経営チームのあり方や雰囲気が伝わったのではないか」と説明する。
そして、「エンターテインメントの世界から見れば、4Kが中心のコンテンツが中心であり、いまのソニー・ピクチャーズには8Kのコンテンツがない。その点で、プレスカンファレンスで、“8Kテレビに言及する必要がなかった”のが新製品の説明をしなかった理由。むしろ、製品はブースで見てもらいたいという姿勢を示した」とも語る。
さらに、「ソニーブースのレイアウトもエンターテインメントとエレクトロニクスの融合の観点から行っており、『Community of Interest』の考え方を軸にした」とする。
プレスカンファレンスで言及されなかった8Kテレビの展示は、ブースの一番奥のエリアだ。例年ならば、ブース入り口付近にテレビが展示されているのに比べると、やはりこれも異例だといえる。そして、入り口付近を、オープンスペースとして展示物がない構成にしたのも、これまでにはないブースの作り方だ。
「これが、いまのソニーの経営姿勢を示したものである」と、高木専務は説明。続けて、「エンターテインメントは、テクノロジーがないと発展しない。ショーによっては、エレクトロニクス製品を説明したり、商品のコンセプトをしっかりと説明するブースレイアウトにすることもある。だが、CES 2019では、今回のやり方を採用した。これが伝わったかどうかは、みなさんに判断してもらいたい」とする。
ソニーのCES 2019、主役は?
エンターテインメントが前面に出たCES 2019のソニーのプレスカンァレンスであったが、エレクトロニクスという観点で主役をあげるとすれば、「8K液晶BRAVIA Z9Gシリーズ」と「360 Reality Audio」である。
高木専務は、「8Kについては、お客さまに対して、感動価値を感じていただけるような製品ができたらしっかりと提案すると話してきた。他社の8Kテレビのレベルでは、ソニーは製品を出せないし、感動価値を与えられないと考えていた。今回、8Kに関して、ソニーのBRAVIAとして発売できる水準まで到達した」と説明。
「8Kコンテンツがない現状をとらえれば、8Kの感動価値の実現には、アップスケールの技術が肝になる。アルゴリズムと、それを実現するデジタルプロセッシングが完成したことで、他社には実現できない感動価値を提供できる」とする。
BRAVIA Z9Gシリーズは、98型および85V型を用意。次世代高画質プロセッサ「X1 Ultimate」に、8K超解像アルゴリズム用の専用データベースを内蔵。あらゆるコンテンツを8K解像度にアップコンバートする「8K X-Reality PRO」を実現した。
独自のバックライト技術「Backlight Master」においては、8K用に最適化したバックライトLEDモジュールと制御アルゴリズムを新規に開発している。こうしたテクノロジーによって、ソニーならでの8K感動価値を実現しているというわけだ。ソニーでは、2019年の春に、販売地域や価格について発表するという。
一方で、360 Reality Audioは、全方位からの音に包まれる「音場」を作り出す新たな音楽体験を提供するものだ。
「2013年から取り組んでいるハイレゾリューションオーディオ(ハイレゾ)による高音質、ノイズキャンセリングに代表される高機能に加えて、3つめの軸として、音場による臨場感を提案。新しい音楽の楽しみ方を提案することになる」(高木氏)と胸を張る。
360 Reality Audioでは、ソニーのオブジェクトベースの空間音響技術を活用。ボーカル、コーラス、楽器などの音源に、距離や角度などの位置情報を付けて、立体音響を実現。ライブ演奏の会場に入り込んだかのような臨場感を持った再生を可能にする。
ソニーブースでは、13個のスピーカーで構成されるマルチスピーカーシステムや、ステレオヘッドホン「MDR-Z7M2」を通じてこれを実現。対応コンテンツは、今後、主要音楽レーベルと協力して制作し、音楽配信サービスを通じて提供するという。
「360 Reality Audioは体験してもらうことが大切。オーディオにも、まだ新たな体験価値を提供できることを知ってもらいたい。これによって、オーディオのマーケットを広げ ていくことができる」(高木氏)。
高木専務は、ソニーのブランドの軸は、「高音質」と「高画質」とする。そこにデザインと使い勝手を組み合わせ、ユーザーに価値を提案できると語り、「それがソニーの存在意義である」と語る。
今回のCES 2019では、「クリエイティブエンタテインメントカンパニー」と「Community of Interest」を切り口に、プレスカンファレンスを行い、ブース展示を行ったソニー。単なるエレクトロニクス企業ではないことを改めて強調した格好になる。これが、ソニーの新たな形になるのか。答えはこれからだ。