グローバルから見た日本市場については、クライアントカンファレンスにおける情報交換会のため、開発責任者として2度目の来日を果たしたkyriba Senior Vice President Product Thierry Truche氏に、今後の方向性とあわせて語ってもらった。

日本市場はグローバルから見てどのようなものでしょうか

Thierry Truche氏:日本市場は大きな成長を見込んでいます。1つ目の理由は、洗練されたトレジャリーマネジメントをできるような要望や要件を持っている企業があるので、大きな飛躍が起こりつつあると考えているからです。もうひとつ理由として挙げられるのは、日本経済のグローバル化です。海外のいくつかの銀行に口座を持ち現金を管理していくという状況になっています。したがって、銀行ごとにWebポータルにいちいちアクセスすることを強いられてしまうわけですが、それを一元管理できるようにしているのがわれわれのポイントです。

  • kyriba Senior Vice President Product Thierry Truche氏

kyribaの最も大きな価値は、その一元的な管理ができるようにするということです。利用していただければ、国内外のどこに銀行を持っていても一元的な管理と可視化、送金が可能になります。

  • kyribaの価値

日本の特徴的な顧客ニーズや制度はありますか

Thierry Truche氏:全銀システムのフォーマットに合わせるのが日本のお客様の要件です。また、どのように海外に持つエクスポージャーについてヘッジができるかというのも、日本特有の要件だと認識しています。

日本企業にとって外貨でのキャッシュをどのように管理するか、先行き不透明な為替の変動に備えて対応することが大変大事になっています。海外企業と多数の取引を持つようになっているので、なおさらです。

CFOにとっては外貨で持っている預金の変動をヘッジできるような、外貨建てのエクスポージャーに対するヘッジもできるという非常にセキュアなシステムであるということが助けになると考えています。

各国の個別の要件に対応するのは大変だと思いますが、その社内的な仕組みはどうなっていますか

アメリカ、ヨーロッパ・アフリカ・中東、アジアという3つの地域にグローバルで展開していますが、日本のチームと密に連携を取ることでヨーロッパの私のチームでも日本のお客様の要件を満たす開発をしたいと考えています。またアジャイルな手法を用いて対応しています。

法改正にも対応しています。私のチームでも全銀システムの要件変更には支払い面で対応できるようしていますし、2つ目のチームではコンプライアンスを見ています。銀行同様、お客様の支払いを管理するシステムなので銀行と同じく高いセキュリティを持っていなければいけないと思っています。コンプライアンスのチームは、例えばGDPRへの対応についても先駆けて行いました。世界的に展開するプレイヤーとして、事業法人の要望に応じるだけでなく、銀行の非常に大きな規模での要件に充たさなければなりません。従ってわれわれは規制対応でも常に先取りして対応しています。

今後の開発ロードマップはどうなっていますか

Thierry Truche氏:短期、中期、長期のものがあります。短期的なものとしてはお客様に周知し、すでにコミットしてあります。トレジャリーのやり方を大きく変えるメガトレンドとしては、AI、マシンラーニングや諸々のブロックチェーンがありますが、中・長期的にはお客様が2-3年先に何を期待できるのかについて先行投資するのが最も大事だと考えています。

ユーザーニーズを取り入れる方法は何がありますか

Thierry Truche氏:Webサイトにkyriba socialというものがあり、お客様が要件や仕様についての希望を掲載できるようになっており、それを全てのお客様と共有しています。それに票を投じていただいたり、どうして大事なのかを発言いただくことが可能です。われわれとしても意見交換し、何をロードマップに加えるべきか判断するのに役立つツールとなっています。

もう1つ有用なツールとして、カスタマーアドバイザリーボードもあります。お客様が何を最も求めているのかを収集し、合意形成をはかる場にもなっています。

AIはいつ頃から導入し、どういう用途に使うのでしょうか

Thierry Truche氏:すでにAIやマシンラーニングのための専任チームを立ち上げています。全てのタスクに人がどれだけ介在しているかを確認し、その自動化をAIで行おうと考えています。AI化すべきタスクはすでに確定しています。

6つの分野をAIが利活用できる分野として特定していますが、そのうちの2つを紹介しましょう。1つはcash forecastと言われる、どれだけ支払い資金や現金を口座に用意しなければいかないかを予測する機能があります。いつどの口座から引き落とされるのかを把握し、お客様が支払い口座に現金をどれだけ用意するかを助けます。これはマシンラーニングのアルゴリズムで、短期的な1-5週間の期間なら予測精度を高められることがわかっています。それ以上の期間でも予測を高めるべくテストを現在行っています。通常、現金の流れがリアルタイムには財務部門にわかっていないため余剰現金を持つ必要がありますが、必要額の予測ができれば余剰を圧縮可能になり、銀行からの調達を減らす、金利を減らすといったことが可能になります。

2つ目は、口座から引き落とされた現金を会計上反映させる突合作業での活用です。AIを用いることで、現在人にしか処理できないものを自動化しています。

AIは自社開発ですか

Thierry Truche氏:当初はパートナーと開始しましたが、そのパートナーはトレジャリーの専門家ではありませんでした。そこで現在はオープンソースのアルゴリズムも増えているため、われわれ自身がトレジャリーを熟知している立場から開発を行うようになって2年がたちました。 サードパーティの活用もしながら、マシンラーニングを開発することで、何が支払い上の異常かを検知することを始めています。トレジャリーという特定分野においてモジュールをどのように最適化して合わせるのか。お客様はプラグ&プレイでAIが使えることを求めているので、AIの機能を盛り込みモジュール化することに努めています。

SAPユーザーが多いということですが、他のERPとの連携は考えていますか

Thierry Truche氏:もちろんです。戦略的にグローバルで見た場合、われわれはトレジャリーマネジメントシステムを提供するプロバイダというだけでなく、それを超えて対象にしたいと考えています。お客様にトレジャリーマネジメントシステムのみならず、他のERPと接続をできるシステムを目指していますし、トレーディングシステムとも統合することでトレーディングも自在に連結されることを目指しています。

また、ブラックロックとパートナーシップを持っています。MMFでの運用をブラックロックがしているのですが、完全にプラットフォームを統合しているので、余剰資金があるならブラックロックのファンドにkyribaのシステムから運用できるようになっています。

開発担当者から見たkyribaの強みは何だと考えますか

Thierry Truche氏:最も大きなものは、グローバルプレイヤーであるため、銀行口座が世界のどこにあっても完全に一元化された状態で可視化でき、どの口座からも支払いができるという点です。

2つ目として、グローバルプレイヤーであるため、たとえばアメリカではフィンテックで何が起こっているのかをつぶさにフォローし、どういう動向なのか実情について把握できます。フィンテックの一翼をプレイヤーとして担いたいと考えています。

したがって、最新の技術への多額の投資をしていますし、最終的にはお客様がクラウドアプリにURLのリンクを通じて接続し、世界中のオペレーションとトレジャリーをできるようにすることを目指しています。SaaSとして提供し、お客様がいちいち銀行と接続しているのか、セキュリティが十分担保されているのかといったことに気を揉むことなく利用できるサービスをソフトウェアとして提供したいと思っています。