声優・アーティスト安野希世乃の1stライブツアー「安野希世乃 1st LIVEツアー2018『きっと、ふわふわとしてる。』」が2018年12月22日、千葉・舞浜アンフィシアターにて開催された。アーティストデビューから約1年半で初めて開催したツアーのファイナルを飾る公演は、ツアータイトル通り彼女らしい温かさやアットホームさが大事にされたものとなった。
▼この“距離感”が、安野希世乃のファンとの関係性の象徴
開演時間を迎え、エレクトリックピアノが中心の温かなinterludeが鳴り響くと、そして「ふわふわとしてる」の頭サビの歌声が。しかしステージには、この日の主役は不在。果たしてどこに……と探していると、スポットライトの照らした客席通路に安野の姿が! 笑顔を振りまきつつ、歌いながら通路をゆっくりと歩いて会場中をめぐっていく。その立ち居振る舞いや歌声はもちろん、サビでの左脚で滑らかにサークルを描くような振付や細かい手フリも含めて、“キュート”というひと言が実に似合うパフォーマンスを見せてくれた。
続く「ぼくのヴィーナス」ではイントロで「楽しんで行きましょう!」と笑顔でクラップを先導すると、メリハリのついた振付も交えつつ、とにかく笑顔で楽しそうにステージを展開。曲の雰囲気を活かしつつも、スムーズなステージングを見せる巧みさも発揮していた。
2曲歌っての改めての挨拶では、「ふわふわー♪」の挨拶の定着具合に喜ぶと、さらに続けて安野家(=安野ファンの総称)へ「舞浜におかえりなさいませ♪」と挨拶。そしてこの会場は彼女にとってもソロデビュー曲「ちいさなひとつぶ」を初めて披露した“ただいま”な会場であると語ると、「隣の夢の国に負けないぐらい、アットホームで、笑顔になれる一夜をお届けしたいです!」と宣言し、続いてのナンバー「戸惑いトレイン」へ。
頭サビ後、またもクラップを煽りながら今度は円形ステージのへりへと飛び出すと、歌声の温かさと清らかさはそのままに、2-Aメロではしゃがんで最前のファンと視線を交わしたりとコミュニケーションも。また、「I remember」もメインステージから正面を見据えて、サビはまっすぐにメロはふわっと温かく歌うなど、ボーカルの特徴が活きるスタイルで歌唱。彼女のパブリックイメージらしいライブを見せる一方で、Dメロではリズムに合わせて拳を振ったりとにわかに強さのにじむ場面も。
そんななか歌われた情熱的なナンバー「さよならソレイユ」では、歌声はもちろんのことBメロのサイドステップなど、パフォーマンスにもにわかに強さが増す。さらにサビ頭では天に拳を突き上げたりと、カッコよさまでもはらんだパフォーマンスと歌声とが、この曲と実によくマッチしていた。
▼ファンのコーラスと一緒に作り上げたバラード「涙。」
歌い終わったところで、今度は自身のラジオ番組『ふわふわな話をしようかな、どうしよっかな。』へ寄せられたメールを取り出し紹介。その中の「(ライブ当日の)冬至には“家族団らんで過ごす”という風習がある」という一節を用いて「偶然ですけど、冬至にこの会場で、安野家のみなさんと素敵なライブをお送りできてとっても幸せです!」と会場を和ませると、その空気のなかライブはアコースティックコーナーに突入。
メインステージ中央の椅子に座ると、まずは「かすかなかなしみ」を披露。これまでの楽曲以上に、自然体でスーッと出てきた清涼感ある歌声が場内へとふわーっと広がり、包み込んでいくような空間が出来上がる。ちょっぴり切ない楽曲なのだが、いたずらに力を入れずに過不足なく表現していく点も印象的だった。
歌唱後には、ともにステージを務める“ごちゃごちゃBAND”のメンバーへひとりずつ話を振っていく安野。一ノ瀬“一Q”久(Dr.)がそれを利用して即興で拍手のウェーブを起こすと、それに対応したファンに「結構ハードル高いことやったよ!」と驚きつつも、安野自身も「やりたいやりたい!」とウェーブを堪能する場面も。
そんなどこかゆるっとほんわかした雰囲気のなか、続いては「ちいさなひとつぶ」へ。この曲もしっとりとしたバラードで元々アコースティックのよく似合うナンバーなのだが、ベースがアップライトベースだったり、サビでは割とキーボードの音色がぐーっと前へせり出してきたりと、ただしっとりさせるだけでは終わっていない。加えて安野のサビのたおやかな歌声や、間奏のコーラスでの透き通るようなロングトーンも実に印象深いものだった。
さらにそのまま歌われた「ねぇ、話をしよう」は、冒頭はキーボードと視線を合わせて呼吸を揃えて、客席へは優しく語りかけるように歌っていく。青く輝くペンライトの海に響くウインドベルも瞬く星のような効果を出し、会場が一体となっておやすみ前のひとときを連想させる空間を舞浜に誕生させていた。
アコースティックコーナー3曲が終わると、「笑顔。」から再びフルバンドでの披露がスタート。「ねぇ、話をしよう」に続いて今度は朝を感じさせる導入のナンバーが続くという流れの良好さも感じさせる。心地よいコーラスから入るボサノヴァ調のナンバーを、彼女ならではの透き通る温かさを持つボーカルで歌われると、そこには癒やししかなかった。
さらにゆったりムードのバラード「涙。」をたっぷりと、それでも前向きに歌っていく安野。ここでも彼女の歌声はただひたすらに優しく、微笑みながらステージを歩みながらの歌唱。そしてラストのコーラス部分、マイクを向けて「みんなも歌ってー!」と呼びかけると、客席からは大きな合唱が。それがあまりにうれしかったのか、ステージヘリまで駆けていった安野はマイクを向けたままそこを一巡。最後はそこに自らも加わって一緒に楽曲を締めくくると、星空のような照明演出を背負いながらの「嘆きの空」へ。スモークに包まれながらの歌唱というのも手伝って、その姿はどこか神々しさも感じるものに。また、歌声に乗るほのかな切なさも、押し付けがましくならない絶妙なレベルであり、加えてファルセット混じりの高音も非常に美しかった。