昨年12月3日、「ネット流行語大賞 2018」が発表された。2018年にインターネット上で流行した言葉を投票によって決定するという同企画において、栄えあるグランプリに輝いたのは「VTuber」だという。

「VTuber」という言葉自体は聞いたことがあるものの、あまり流行っている実感がない、詳しいことはわからないと感じている人も多いのではないだろうか。しかし、そんな人でも知っているであろう有名企業がVTuberを活用するという事例も登場してきているのだ。

本稿では、それらの事例を紹介するとともに、企業側の狙いや今後の展望についてなどを掘り下げていく。

副業を認められたロート製薬のYouTuber社員

目薬でお馴染みのロート製薬は、スキンケアや食、再生医療など幅広い事業を手掛けている。そんな同社に、大学時代からYouTuberとして活動している「根羽清ココロ(ねばせいこころ)」が入社した。彼女は入社後もYouTuberとして活動していたところ、ロート製薬の公式YouTuberにならないかと誘われ、2018年6月10日(ロートの日)に正式にデビューを果たしたという。

  • ロート製薬がプロデュースする公式VTuber「根羽清ココロ」25歳

    ロート製薬がプロデュースする公式VTuber「根羽清ココロ」25歳

担当者いわく、「弊社は副業を認めており、もともとYouTuberとして活動していた弊社社員の『根羽清ココロ』がおりました。そこで、まだロート製薬を深く知らないという方々にもアプローチしたいと考え、彼女を起用しました」とのこと。

  • 名刺には「スキンケア製品開発部」兼「広報・CSV推進部」との記載が。ちなみに「根羽清(ねばせい)」という名字は、ロート製薬のコーポレート・アイデンティティである「NEVER SAY NEVER(不可能は絶対にない)」から来ているという説も

    名刺には「スキンケア製品開発部」兼「広報・CSV推進部」との記載が。ちなみに「根羽清(ねばせい)」という名字は、ロート製薬のコーポレート・アイデンティティである「NEVER SAY NEVER(不可能は絶対にない)」から来ているという説も

彼女は普段、ロート製薬でスキンケアの研究に従事するかたわら、広報活動も行っている。その結果、TwitterやYouTubeのコメントなどには「以前から使っていた商品が実はロートのものだったことに気付いた」「ロートが『食』に関する事業をやっていることは今まで知らなかった」という声も届いており、確実に同社の事業認知につながっている様子が見て取れる。

「公式YouTuberを起用するのは初めてのことだったので、どのような準備をすればいいか模索しながらのスタートでした」と担当者は語るが、ロート製薬の男性用商品を姉からもらって愛用しているという弟の存在など、抜かりのない設定はさすがのひと言。根羽清ココロ自身が「ドライアイ」と「乾燥肌」に悩んでいるというのも妙にリアルでグッと来るものがある。

  • 青と白を基調としたロート製薬カラーな衣装も絶妙だ

    青と白を基調としたロート製薬カラーの衣装も絶妙だ

今後の予定については「根羽清本人としては、いろいろな方と一緒に活動したり、画面の外に出たりしてみたいという思いもあるようです。それ以外の活動に関しては、みなさんからのコメントなどを拝見しながら決めていきたいです」としている。

実在する人物がモデルになっているのではないかと思ってしまうほど現実味を帯びたプロフィールの根羽清ココロ。画面の外に飛び出してくる日もそう遠くないかもしれない。

冷蔵庫からこんにちは! サントリーの「燦鳥ノム」

飲料メーカーのサントリーは、世界のどこかにあるという水の国からやって来たVTuber「燦鳥ノム(さんとりのむ)」を起用。彼女は、同社製品のレビューに加え、「歌ってみた動画」や「ゲーム実況」など幅広い活動を行っている。

  • 飲み物が大好きだという「燦鳥ノム」

    飲み物が大好きだという「燦鳥ノム」

すっきりした性格で、ほんのりと天然な一面も併せ持つ好奇心旺盛なお嬢様・燦鳥ノム。好きなものは飲み物、苦手なものは直射日光で、1899年生まれの119歳とのこと。

サントリーが彼女を起用したのは、「企業主体」ではなく「キャラクター(コンテンツ)主体」の自社メディア開発に可能性を感じていたからだという。

  • キャラクターデザインは、『夜桜四重奏』や『デュラララ!!』なども手掛けたイラストレーター・ヤスダスズヒト氏によるもの

    キャラクターデザインは、『夜桜四重奏』や『デュラララ!!』なども手掛けたイラストレーター・ヤスダスズヒト氏によるもの

自社サイトやメルマガ、メーカー公式YouTubeチャンネル、Facebook、そしてTwitterと、同社は彼女を起用する以前から、すでにさまざまなメディアを持っていた。その一方で、YouTuberやインスタグラマーなど、「影響力を持つユーザーのメディア化」が進行していることも認識しており、顧客との新しいコミュニケーションについて考えた結果、VTuberというキャラクター主体の自社メディアを開発するに至ったのだそう。

  • トレードマークは、鳥と花の飾り付きの帽子

    トレードマークは、鳥と花の飾り付きの帽子

「開発当初はVTuberという存在そのものを社内に分かりやすく伝えていくのに苦労しました」と担当者は話すが、燦鳥ノムは2018年8月にデビューして以降、TV番組をはじめとしたメディアでも多数紹介されており、大きな反響を呼んでいる。12月下旬の時点でチャンネル登録者数は5万人以上、総動画再生回数は300万回を突破しているというから驚きだ。

彼女は今後も、持ち前の好奇心旺盛さでYouTube以外の場所にも登場し、新たな一面を見せ続けてくれることだろう。

前編】【中編】そして今回の【後編】と、計5社のVTuber導入事例を紹介したが、このほかにもVTuberを起用した企業活動の事例は次々に登場してきている。

やはり、VTuberの「柔軟性」や「汎用性」といった部分に魅力を感じている企業は多いのだろう。もはや無視できない勢いを見せているVTuberの波は、今後もさらなる広がりを見せてくれるに違いない。