東京オリンピックまで、ついにあと一年。1月6日、そのことをひしひしと感じさせてくれるであろう、大河ドラマ『いだてん』(毎週日曜・BS4K 9:00~ BSプレミアム18:00~ NHK総合20:00~)がいよいよスタートする。
日本が初めて参加した1912年のストックホルムオリンピック、幻の開催となった1940年の東京オリンピック、そして1945年の終戦。さらに、戦後の復興と1964年の東京オリンピックが実現されるまでの悲喜こもごもが描かれるという。
大河ドラマは戦国時代や幕末の作品がほとんどであり、近代・現代を舞台にした作品は珍しい。しかし、『いだてん』は決して奇をてらったものではなく、「従来の“大河ファン”だけでなく、老若男女を楽しませよう」とした意欲作だ。
2人のヒーローがたすきをつなぐ
主人公は、「日本で初めてオリンピックに参加した男・金栗四三(中村勘九郎)と、「日本にオリンピックを招致した男・田畑政治(阿部サダヲ)。言わば、「2人のヒーローがたすきをつなぐ」という異例の構成なのだが、金栗と田畑は「初めてのことにまっすぐ挑む」「困難に負けない不屈の精神」という共通点を持っている。
ネタバレになるので詳細は書かないが、金栗は惨敗や不運にめげず走り続けたマラソン選手、田畑は敗戦で沈む日本人に「スポーツで立ち上がろう。スポーツで平和を喜ぼう」と呼びかけた人物。ともにオリンピックに賭けた知られざる日本人の物語であり、“オリンピック外伝”のような位置づけの作品となる。
予告映像を見ると、「無謀じゃないと、時代は、前に進めない」「あなたを少し、無謀にさせるかもしれない」「いつの時代も無謀に思われた挑戦が未来を作ってきた」と、“無謀”というフレーズを連呼。さらに、「わかってもらえなくても、壁にはねかえされても、ときにがむしゃらに、ときにやけくそに、その道をかけつづけていく。少し前の日本にもそんな人たちがいました」というナレーションもあった。わずか30秒の映像でも熱さが伝わってくるのが、『いだてん』の魅力なのかもしれない。
もともと日本人には、サッカー、野球、バレーボールなどスポーツの日本代表戦が盛り上がるという気質があり、近年ではテレビでも日本礼賛番組が人気を集めるという傾向も見られる。『いだてん』は、そんな日本人にナショナリズムを実感させる作品になりそうだ。
『あまちゃん』黄金スタッフが再集結
物語と同様に期待感をあおっているのは、スタッフとキャストの顔ぶれ。脚本・宮藤官九郎、チーフ演出・井上剛、チーフプロデューサー・訓覇圭、音楽・大友良英らのスタッフは、2013年の朝ドラ『あまちゃん』(NHK)と同じであり、それだけで「見てみようかな」と思わせる魅力がある。
事実、予告や初回の映像を見ると、躍動感あふれる映像と音楽、泣き笑いを織り交ぜたストーリーは、さすがとしか言いようのない仕上がりだった。これを1年間続けられたら、何ともぜいたくな作品となる。
大河ドラマで戦国時代や幕末が人気なのは、「人間味あふれる多彩なキャラクターがひしめき合っているから」と言われているが、その意味では『いだてん』も引けを取らない。
金栗と田畑に加え、「柔道の父」嘉納治五郎(役所広司)、「落語の神様」5代目古今亭志ん生(ビートたけし)、金栗とともにオリンピックに出場する「運動会の覇王」三島弥彦(生田斗真)、「日本SFの祖」と称される押川春浪(武井壮)、NHK解説委員で五輪招致の最終スピーチをした平沢和重(星野源)、インフラ整備で「オリンピック知事」と言われた東京都知事の東龍太郎(松重豊)など、人間味あふれるキャラクターがそろっている。
それを演じる俳優も、例年の大河ドラマ以上に豪華。中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、中村獅童、勝地涼、大竹しのぶ、竹野内豊、シャーロット・ケイト・フォックス、永山絢斗、生田斗真、杉咲花、小澤征悦、森山未來、橋本愛、松尾スズキ、神木隆之介、小泉今日子、役所広司、星野源、松坂桃李、松重豊、ビートたけし……宮藤官九郎の脚本作品に出演してきた俳優が多く、生き生きと演じる姿が想像できるのではないか。
2020年をより楽しむための大河ドラマ
注目は、金栗の出身地である熊本県玉名郡や、五輪が行われたストックホルムのスタジアムなどで大掛かりなロケを行っていること。大河ドラマらしい人・時間・お金をしっかりかけたロケは、民放にはマネできないスケールの大きさがある。
また、セットや小道具のディテールも、大河ドラマ初の4K放送に対応すべく、これまでの作品を上回るこだわりを施したという。ロケ地やセットの持つ空気感が俳優たちのテンションを高め、躍動感ある演技につながるはずだ。
近代・現代は、社会科の授業で「時間切れで終了」という軽い扱いを受けがちな時代だけに、大河ドラマの舞台にほとんど選ばれなかったのも仕方がないのかもしれない。ただ、宮藤が「書いていて、日本人はこんなにも純粋な気持ちでオリンピックと向き合っていたんだと気づかされる」と語っているように、我々が共感できるものが詰まっているのではないか。
『いだてん』は明治から昭和にかけての群像劇を描き、「そして2度目の東京オリンピックへ」という余韻を残す結末が予想されている。同作を通して日本人とオリンピックの歴史を知ることで、2020年への期待感が高まるだろう……つまり、来年の東京五輪をより楽しむためにも、今年の大河ドラマは見ておいて損のない作品と言える。
『あまちゃん』が国民的朝ドラとなったのと同じように、『いだてん』が国民的大河ドラマになる可能性は高い。間違いなく今年最大の注目作だ。
■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月20本程度のコラムを提供し、年間約1億PVを稼ぐほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組に出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。