肌寒くなる秋から冬の時期はノロウイルスなど感染力の高い病気が流行し始めます。子どもが突然嘔吐を始めてしまうなど、症状が急に現れると慌ててしまいますよね。そこで備えておきたいのが「ノロウイルス看病セット」。小児科医の竹中美恵子先生に必要なものを教えてもらいました。

  • ノロウイルス嘔吐処理グッズ

    お医者さんはノロウイルスの看病に何を使っている?

ノロウイルス看病セットの作り方

Q.看病セットとして、病院では何を用意されていますか?

私たちの病院で用意しているのは、感染拡大を防ぐ消毒液(3種類)とビニル袋付きのバケツ、医療機関向けの嘔吐物処理セット、マスク、手袋、すぐに捨てられるボロ布、ペットのトイレ用の吸水シートなどです。

3つの消毒液は、全て次亜塩素酸ナトリウムを含んだものですが、ナトリウム濃度の高い医療用、次亜塩素酸ナトリウムを水で薄めた手作りのもの、食器にも使えるものといったように、使い分けをしています。

Q.消毒液はどのようなものを準備し、どのように使い分けたら良いでしょうか?

医療用の消毒液を用意するのは難しいかもしれませんが、家庭にあるもので代用が可能です。次亜塩素酸ナトリウムを含んだ家庭用の漂白剤を薄めて消毒液を作っておきましょう。

感染者が直接触れた場所や物には、漂白剤を0.02%に薄めたもの(目安: 漂白剤10mlに対して水2.5リットル)、嘔吐物や便が付着した場所や物には、漂白剤を0.1%に薄めたもの(目安: 漂白剤10mlに対して水0.5リットル)が有効です。それぞれをスプレーボトルに入れておけば、用途に合わせて手軽に使えるので便利だと思います。

  • 消毒液、漂白剤、清掃グッズ

    市販の消毒液や漂白剤、清掃グッズなどを活用しよう

それから、食器やトイレの除菌・消毒液の中には、もともとの商品自体に次亜塩素酸ナトリウムが含まれているものもあります。表示を確認し、上手に活用しましょう。

Q.「医療機関向けの嘔吐物処理セット」というのが気になったのですが、何が入っているのですか? 家庭ではどんなもので代用できますか?

嘔吐物処理セットにはまず、処理をする人が感染しないためのサージカルマスク、プラスチックガウン、プラスチックグローブが入っています。また、嘔吐物を処理する時に使うペーパータオル、嘔吐物が出された場所を消毒するための次亜塩素酸ナトリウム(液パック)、嘔吐物を入れるトレー、密閉するための袋もセットになっています。

  • ハクゾウおうと物処理セット

    嘔吐物処理セットも家庭で代用品が作れそう!

家庭でも同様の処理グッズを用意しておくと便利でしょう。使い捨ての手袋、エプロン、マスク、嘔吐物を入れるトレーや袋、それに嘔吐物がかかった場所や物を消毒するための消毒液、ペーパータオルやボロ布があれば十分です。

Q.ペットのトイレ用の吸水シートは、一体どんな目的で使うのですか?

子どもが寝ているシーツの上に敷いて使います。寝ている間に繰り返し嘔吐をした場合、汚れたシーツを夜中に何度も洗うのは大変ですよね。赤ちゃん用の防水シートや大型のゴミ袋でも構わないのですが、シーツの上に敷いておくと、シートを取り替えるだけで済むので処理の手間が省けますよ。

ノロウイルスの看病、どんなことに気をつけたらいい?

Q.ノロウイルスの流行は、いつ頃から始まりますか?

まれに夏に発症する人もいますが、流行のシーズンは毎年10月から1月頃です。ウィルスの感染力が高く、また感染経路も多岐にわたるため、流行が拡大しやすいのが特徴です。症状としては嘔吐を繰り返すことが多く、下痢や発熱を伴うこともあります。特効薬がなく対症療法しかできないため、症状が長引き家庭内で感染し合うことも多くあります。

Q.家族間で感染しないためには、どのようなことに注意したらいいですか?

便や嘔吐物を処理するときに、手についたウィルスや、不適切な処理で残ったウィルスが原因でノロウイルスに感染してしまうことが多くあります。そのため、処理には細心の注意を払う必要があります。うかつに嘔吐物を素手で触ったり、消毒を怠ったりすると、あっという間に家族間で感染してしまいます。

ですから、普段から実際に看病する時に必要なものをひとまとめにしておくと安心です。病院でも患者さんが嘔吐したときのために、今回ご紹介したような内容の処理グッズを用意しています。

Q.嘔吐物を処理する時の手順を教えてください

まず処理をする人は、必ず手袋とマスク、そしてエプロンをしてください。

最初に嘔吐した本人の口や体をキッチンペーパーや使い捨ての布で拭きつつ、状態を確認してあげましょう。繰り返し嘔吐することがあるので、一旦吐ききったかどうか注意してください。落ち着いてきたらビニル袋をかぶせたバケツを渡して、次に嘔吐した時に備えましょう。

Q.消毒はどのようにしたらいいですか?

嘔吐物が床に落ちた場合には、飛び散らないように静かに拭き取り、消毒液で消毒してください。衣服や寝具が汚れた場合には、取り外して嘔吐物を拭き取り、次亜塩素酸ナトリウムを薄めた液に浸け置きしましょう。汚れがひどい場合はできれば捨ててしまうのが望ましいのですが、難しい場合は85度以上の熱湯での消毒でも効果が期待できます。

処理が終わったら、汚れたものは全て袋に入れて処分してください。嘔吐した本人と処理をした人は、シャワーを浴びて汚れを落とすと安心です。

Q.先生ご自身も1児の母ですが、ノロウイルスの看病をされたことはありますか? ご経験をもとに看病にあたる際の心構えについて教えてください

私の娘も去年ノロウイルスにかかり、夜の間に18回も嘔吐を繰り返しました。その時、汚れた寝具や衣服をうっかり素手で洗ってしまったら、自分も感染してしまったのです。娘もつらい、自分もつらい……本当にしんどい思いをしました。

その経験からも、看病する人には注意しすぎるくらい注意して、嘔吐物や排泄物の処理を行ってもらいたいです。ノロウイルスの看病は長期戦になる可能性が高いので、看病する家族の健康が大切です。これからの流行に備えて、ぜひお家でも看病セット作りを試してみてください。備えあれば憂いなしです。

竹中美恵子先生

小児科医、小児慢性特定疾患指定医、難病指定医。
アナウンサーになりたいと将来の夢を描いていた矢先に、小児科医であった最愛の祖父を亡くし、医師を志す。2009年、金沢医科大学医学部医学科を卒業。広島市立広島市民病院小児科などで勤務した後、自らの子育て経験を生かし、「女医によるファミリークリニック」(広島市南区)を開業。産後の女医のみの、タイムシェアワーキングで運営する先進的な取り組みで注目を集める。
日本小児科学会、日本周産期新生児医学会、日本小児神経学会、日本小児リウマチ学会所属。日本周産期新生児医学会認定 新生児蘇生法専門コース認定取得
メディア出演多数。2014年日本助産師学会中国四国支部で特別講演の座長を務める。150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加する「En女医会」に所属。ボランティア活動を通じて、女性として医師としての社会貢献を行っている。