美術館やアパレルショップなどが立ち並ぶ東京・南青山。ジャズ・クラブ「ブルーノート」の隣に、ブティックのような外観の自動車ショールームがオープンした。フランスの高級車ブランド「DS」のフラッグシップショップ「DSストア東京」だ。店舗前には駐車場もなく、ちょっと型破りな印象のショールームではあるが、その佇まいも、独自性の高いフランス車を扱っていると思えば違和感がなくなるのは不思議だ。

2018年11月、フランスの高級車ブランド「DS」のフラッグシップショップ「DSストア東京」が東京の南青山にオープンした

DSってどんなクルマ?

「そもそもDSって、どんなクルマ?」と思われた方も多いかもしれない。DSはシトロエンから派生した高級車ブランドで、「シトロエンDS」として2009年に誕生した。日本への導入開始は2013年。2014年には「DSオートモビルズ」としてシトロエンから独立し、呼び方もシンプルに「DS」となった。

これまで、DSはシトロエン時代に生み出したモデルのみを取り扱っていたのだが、2018年7月には第2世代モデルの第1弾となるフラッグシップSUV「DS7クロスバック」を日本で発売した。DSにとっては、独立後に初めて独自設計したクルマだ。

DS第2世代モデルの第1弾となるフラッグシップSUV「DS7クロスバック」。グレードは「So Chic」「Grand Chic PureTech」「Grand Chic BlueHDi」の3種類で税込み価格は469万円~562万円からだ。サイズは全長4,590mm、全幅1,895mm、全高1,635mm

日本でDSを取り扱っているのは、シトロエン販売店、シトロエン販売店に併設される「DSサロン」、そして、独立店舗である「DSストア」だ。今回は、都心で初のDSストアがオープンした。開店記念パーティーには、フランス本国からDSオートモビルズのデザイン部長を務めるティエリー・メトローズ氏が出席。その機会を捉え、DSの魅力や将来のビジョンなどについて話を聞いてきた。

DSのデザイン部長を務めるティエリー・メトローズ氏

先進技術と職人技が融合したクルマ

DSの日本におけるラインアップは、第1世代のモデルから受け継がれる3ドアコンパクトハッチバック「DS3」とDS7クロスバックの2モデルのみ。極端な選択に見えるが、これもDSがラインアップの再構築を図っているためだ。2019年7月には、「パリサロン」(2018年8月)で世界初公開した小型SUV「DS3クロスバック」を日本に導入する予定。DS自体としては、毎年1台ずつ新型車を投入してラインアップを拡大し、最終的にはDS7クロスバックを含む全6モデルの体制を整えるという。2025年には全てのクルマを電動化するとのことだが、これにはハイブリッドも含まれる。

メトローズ氏にDSとは何かを尋ねると、「アヴァンギャルディズム」「リファイン(洗練)」「テクノロジー」の3つの価値を凝縮したものとの答えが返ってきた。これを成しえていないモデルは、DSにあらず……というわけだ。その実現のために大切にしているのが、先進技術の積極的な採用とフランスの職人技「サヴォアフェール(Savoir-faire)」だ。

「DS7クロスバック」も3つの価値を兼ね備えるクルマだ

最新型DS7クロスバックも先進技術を積極的に採用する。例えば、夜間に赤外線カメラで歩行者や動物を検出し、表示警告を行う「DSナイトビジョン」、カメラで路面をスキャンして、路面の凹凸に合わせてダンパーの減衰力を自動調整し、フラットな乗り心地を実現する「DSアクティブスキャンサスペンション」、渋滞時追従支援機能付きアダクティブクルーズコントロールと車線内維持支援機能を組み合わせた自動運転レベル2相当の運転支援機能「DSコネクテッドパイロット」などだ。

インテリアには職人技が光る。ウォッチストライプのレザーシートは1枚の革から作ったもの。革張りのドアパネルやダッシュボードなどは、実際にハンドメイドで仕上げている。ボタンなどに使う「ギヨシェ彫り」は、フランスの高級時計メーカー「ブレゲ」とのパートナーシップで実現。同じく同国の高級時計メーカーである「B.R.M」(ベルナール・リシャール・マニュファクチュール)のアナログ時計を装着するなど、随所でフランス生まれを主張しているところも特徴的だ。

職人技が光る「DS7クロスバック」のインテリア
「B.R.M」のアナログ時計がこのクルマの出自を物語る

DSで最大の特徴となっているのは、何といってもアヴァンギャルドなデザインだろう。DS7クロスバックとDS3クロスバックの内外装を見れば、かなり前衛的だと誰もが感じるはずだ。

一方で、前衛的であるがゆえに、陳腐化しないだけの鮮度を保てるのかどうかも気になるところ。その点についてメトローズ氏は、DSのデザインは単に奇抜さや目新しさを追ったものではないと語る。例えばボディのフォルムは、とてもシンプルな構成で、飽きのこないデザインにしてある。メトローズ氏いわく、「余計な凹凸はなく、シックなデザイン」に仕上げたとのことだ。

DS7クロスバックのアヴァンギャルディズムを強く印象づけるのは、ライトの意匠だ。回転式のフロントLEDヘッドライトやレーザーカット加工のテールランプなどが、デザイン上のアクセントとなっている。これがフランス流の「ウィンク」、つまり遊び心だとメトローズ氏は説明する。こういったデザイン上の強弱をバランス良く組み合わせることで、個性的でありながら古びないデザインを実現しているということなのだろう。

DSが"アクティブLEDビジョン"と呼ぶ先鋭的なヘッドライトユニットは、左右に3個ずつのLEDモジュールを内臓。リモコンキーで解錠した瞬間、180度回転しながら紫の光を放ってオーナーを迎える
レーザーカット加工のテールランプ

気になる今後のラインアップは?

SUV展開を進めるDSだが、今後のモデルラインアップなど、将来のビジョンにも興味がある。高級車ブランドの王道は象徴的なスポーツカーやクーペなどだが、メトローズ氏が必要と考えているのは意外にも「セダン」だった。具体的には、メルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」なども属する、「Dセグメント」と呼ばれる大きすぎないサイズのものだという。

ただしメトローズ氏は、これを願望というよりも必然だとする。SUVブームに押されてはいるものの、常に一定のニーズが存在することが、セダンを作るべきと考える理由だ。さらに高級車ともなれば、快適性が重視され、運転手付きで後席の利用がメインとなるケースも多い。そのため、後席の乗り心地に優れるセダンは、DSとしてマストな商品だというのだ。

今後のDSに必要な車種は意外にも「セダン」だと語ったメトローズ氏

また同氏は、セダンのニーズは今後、高まっていくだろうとも指摘する。その理由としては、ますます強まる環境規制と将来的に登場する完全自動運転車の存在を挙げた。

車体が高く、重量も重くなりがちなSUVは、空気抵抗が大きく、エネルギー効率では不利となる。そのため、いかに空気抵抗を減らし、効率よく快適なクルマ(自動運転車を含む)を作るかという視点でいけば、セダンの存在が重要になってくる。顧客のニーズに応じるためだけでなく、自動車メーカーが直面する環境問題に対しても、セダンが解決策のひとつとなりうるのだ。現在は確かにSUVブームだが、メトローズ氏は「流行には変化がある」と気にかけない。

ドイツ車が強い日本、DSの優位性とは

DSと日本のマッチングについてメトローズ氏は、日本には洗練されたものと先進技術を好む人が多いとの考えを示した上で、それらをクルマで融合させているDSと日本は相性がよく、必ず支持されるだろうと自信をのぞかせた。日本では今後、認知と販売ネットワークの強化に力を入れていくとのことだ。

新しいブランドであるDSは現在、世界中で販売ネットワークの強化を進めている。日本ではDSストアとDSサロンを含めて8店舗を展開しているが、2019年中には新たに4店舗をオープンする予定だ。さらに、近いタイミングで5~6店舗を追加することを目標に動いているという。

2019年に日本で4店舗を追加するというDS

出店ペースはかなりスローに感じるかもしれないが、日本ではフランス車がニッチな存在であることを考えると、このくらいが着実な動きと捉えることもできる。クルマとしてみると、DSのラインアップは日本でも扱いやすいサイズであり、価格も高級車としては現実的な設定となっている。

あらゆる輸入車が手に入る日本でも、やはり主力はドイツ車だ。いいクルマが多いのは間違いないが、都市部などではドイツ車が国産車同様にあふれていて、人とは異なる選択という輸入車の楽しみは薄れている。その点、ブランド自体が新しく、ラインアップも第2世代へと突入したばかりのDSは、全ての面でフレッシュなところが魅力といえるだろう。

生活に変化をもたらしたいと考える人には、DSに注目してみて欲しいと思う。アヴァンギャルドなDSは、いいエッセンスとなるはずだ。

(大音安弘)