2018年も、さまざまな魅力を持つデジタル機器や白物家電が登場しました。低価格でも充実した機能を持つコストパフォーマンスの高い製品が人気を集める一方で、高価ながらオンリーワンの特徴を持つ製品も話題になりました。そこで、「値が張るので簡単には手を出せないけれど、奮発してでも買いたい“ちょい高アイテム”」を、デジタル&白物家電業界に造詣の深いライター諸氏にご紹介いただくことにしましょう。
今回は、各社のデジタルカメラや交換レンズに精通しているカメラマンの永山昌克さんにご登場いただきます。永山さんが太鼓判を押すワンランク上のアイテムは、キヤノンの超望遠レンズ「EF800mm F5.6L IS USM」。実売価格は、実に税込み146万円! 「数あるレンズ沼のなかでも底なし級の深さ」という超望遠レンズの魅力について解説していただきます。
“レンズ沼”にハマってしまいそうな超望遠レンズ
カメラや写真撮影が好きな人なら、“超望遠レンズ”に憧れを持つ人は多いはず。例えば、野鳥や動物など遠方にいて近づけない小さな被写体を大迫力のアップで捉えたり、スポーツや飛行機といった動きのあるものを画面いっぱいに切り取ったりする撮り方は、超望遠ならではの世界です。肉眼を超えたダイナミックな視覚が得られるレンズ、といってもいいでしょう。
私自身、カメラマンとして長年仕事をしていますが、ふだん使うのは広角や標準、中望遠レンズで、望遠はせいぜい300mm止まり。焦点距離300mmを超える超望遠レンズには、これまであまり縁がありませんでした。
その理由は、興味がなかったからではありません。仕事上、必要がなかったからでもありません。重くて大きい超望遠レンズを持ち歩く体力と財力がない、というのは少し当たっているかもしれません。しかし、それ以上に大きな理由は、いったん超望遠の世界に手を出すと、そこにある奥深い「超望遠レンズ沼」にハマってしまう身の危険を感じたからです。知り合いの航空機カメラマンによると、超望遠レンズ沼は数ある“レンズ沼”のなかでも底なし級の深さ、とのことです……。
そんな私に、夢のボーナスを使って「ワンランク上のアイテム」を買うという企画の原稿依頼をいだだきました。選んだ商品はもちろん、憧れの超望遠レンズです。なかでも、キヤノンが誇る最上クラスの逸品「EF800mm F5.6L IS USM」をセレクトしました。希望小売価格はなんと175万円(税別)。まさに、沼の最も深いところにあるモンスターレンズといえます。
800mmで子どもの表情を撮る醍醐味
というわけで、さっそくEF800mm F5.6L IS USMを持って撮影に出かけてきました。本来は、北海道の大自然やアマゾンのジャングルが似合うレンズですが、私が向かった先は近所にある小さな公園です。被写体は我が息子。
なーんだ子どもか、高級レンズがもったいない、と感じるかもしれませんが、カワセミやジェット機だけが被写体ではありません。車が買えるくらいの超高級な超望遠レンズを使って、子どもの表情をクローズアップで記録する――。これこそ、親馬鹿カメラマンとして一度はやってみたかった最高級のぜいたくなのです!
使用感は、スパスパとピントが合うAFが快適そのもの。小さな公園内ですばしっこく走り回る子どもを撮るのは、実は結構な難易度です。しかし、EF800mm+マウントアダプター+EOS Rの組み合わせだと、大きなストレスなく気持ちよく撮影できました。
圧倒的なのは描写性能の高さです。ピントを合わせた部分はシャープに解像し、被写体の微妙な質感までを鮮明に再現。一方でボケは滑らかで美しく、どんなシーンでも深みと奥行きを感じる立体的な写真に仕上がります。
子どもたちも興味津々!
住宅街にある小さな公園でこのモンスターレンズを取り出すとかなり目立ち、構えているだけで周辺の人からの注目を集めてしまいました。いくら被写体が息子とはいえ、巨大な白バズーカはここでははっきりいって場違いです。しかも、焦点距離が800mmもあるため、どうしても被写体(息子)までの距離を空けなくてはなりません。その距離約20m。傍目には、平日昼の住宅街にて、ひとり大砲のような超望遠レンズを覗いている不審者、と感じられたかもしれません……。
しかし、こんなときこそ堂々とすることが、プロカメラマンにとっては基本ともいえる振る舞いです。人目など特に気にせず撮影を続けていると、いつの間にか巨大レンズに興味を持った近所の子どもたちに取り囲まれていました。
撮って! 撮って! 見せて! 見せて! の大合唱。子どもたちのおかげで、不審者から一転。まるで人気者になったような気分が味わえました。
EF800mm F5.6L IS USMは、鳥や飛行機、スポーツ、天体などの撮影はもちろん、子どもの運動会で一目置かれたい人にもうってつけのレンズ、といえそうです。
EF800mm F5.6L IS USMを頑張ってでも買うべき人 |
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お金をかけてでも、最高クラスの描写を堪能したい人 |
ライバルに差をつけた一段上の超望遠写真を目指す人 |
子どもの運動会でとにかく目立ちたい人 |
高倍率ズームデジカメでも十分な人 |
超望遠の世界を気軽に体験したい人 |
手持ちで超望遠撮影を楽しみたい人 |
大きくて重い機材を持ち歩くのが苦手な人 |
著者プロフィール
永山昌克
早稲田大学教育学部卒業後、スタジオ撮影助手を経て、フリーランスのフォトグラファー。得意分野は老若男女のポートレート撮影。近ごろは、ビジネス用やSNS用のプロフィール写真撮影の注文が増えています。今年は約300人を撮影。来年は500人を目指します。趣味は中国語。カメラやRAW現像に関する著書多数。