羽生善治竜王に広瀬章人八段が挑戦する第31期竜王戦七番勝負第7局が12月20日午前9時から山口県下関市「春帆楼」で行われています。七番勝負のスコアはこれまで3勝3敗の五分。本局を制したほうが竜王位獲得となります。対局は2日制で行われ、21日夕には決着する見込みです。
※初出の開催場所に誤りがありましたので、修正をいたしました。
これまで3-3。運命の一戦、結果はいかに!?
羽生竜王が勝てば1989年(平成元)プロ入り後初のタイトル獲得以来、積み重ねてきた通算獲得タイトル数が100期の大台に乗ります。現在の記録99期はもちろん史上最多(2位は大山康晴の80期)です。逆に敗れると無冠、ひとつもタイトルを持っていない状態に27年ぶり(!)に戻ってしまいます。
広瀬八段は2005年(平成17)のプロ入り以来、コンスタントに高勝率を挙げる31歳。2010年(平成22)には初タイトルの「王位」を獲得しています。竜王戦、順位戦のランクはそれぞれ最高クラスの1組、A級に在籍する押しも押されもせぬトップ棋士です。今期はこの竜王戦で挑戦権を獲得したほか、棋王戦でも挑戦者決定戦で佐藤天彦名人を破り渡辺明棋王への挑戦権を獲得しています。
ここで、両者のこれまでの対戦成績をご覧いただきましょう。
出だしは広瀬五段が押し気味でしたが、羽生竜王が9連勝するなど白星を集めてスコアに差をつけました。ただし、ここ3年は再び広瀬八段が押し返しているという印象です。
観る将棋ファンの方にはあまりピンとこないかもしれませんが、表右端の「戦型」に目を移すと、2014年までは最後に「飛車」とついているものが多いことがわかります。
将棋の戦法は大別すると、飛車を元いた位置のままで戦いを進める「居飛車」と、飛車を角のいる側へ横移動させて戦う「振り飛車」に分かれます。最初の数手により大まかに「居飛車VS居飛車の将棋=相居飛車」「居飛車VS振り飛車の将棋=対抗形」「振り飛車VS振り飛車の将棋=相振り飛車」に分けられ、さらに数手進むと「矢倉」「四間飛車」など、細分された戦型が決まってきます。
羽生竜王が「居飛車」を得意としているのに対し、2014年ごろまでは広瀬章人八段が「振り飛車」を得意にしていて、振り飛車の種類である「四間飛車」や「中飛車」が大部分を占めているのです。
2015年頃、広瀬八段が「居飛車」主戦にモデルチェンジしてからは、「○○飛車」という文字は見られなくなりました。
さて、竜王戦七番勝負第7局、運命の一戦は「角換わり」という戦型に進んでいます。
現在、両者の得意戦法は互いに「居飛車」ですので「相居飛車」に進むことが多く、今期七番勝負では第1局から第4局までは第7局と同じ「角換わり」に進みました。
「角換わり」とは、序盤の早い段階で互いの角を交換し、持ち駒にして戦いを進めていく戦型です。
最初の数手でどちらかが変化すれば成立せず、互いの呼吸が合わないと成立しない戦法なのですが、現在プロ公式戦でもっとも出現率の高い戦型となっています。
相手の研究をはずす意味では、例えばどちらかが「振り飛車」を選択する余地も当然残されているのに、羽生、広瀬の両者が阿吽の呼吸でこの第7局、「角換わり」を選択した意図を探ると、重要な一番でありながら勝負とは別に、最高の舞台でもっとも流行している戦型を突き詰めたいと考えているのではないか、トッププロは勝負師としてだけでなく、探求者としての矜持も持ち合わせているのではないか……そんな気さえしてくるのです。
最高の舞台で最高の棋譜……
たとえ盤面で起きていることがあまりわからなくても、そんな両者の思いを少しでも感じ取れたなら、より興味深く観戦ができるかもしれませんね。