田舎でのスローライフにあこがれる人は少なくないでしょう。「定年になったら、のんびりと田舎で」というリタイア組だけでなく、若い世代にも「緑あふれる環境で子供を育てたい」「シンプルにのんびり暮らしたい」「農業をやりたい」と考える人もいるでしょう。
しかし生活の基盤のない地域に移住したり、2地域居住したりするには、金銭的リスクや負担が少なくないでしょう。田舎暮らしを始めるには、どのような費用が掛かるのか考えてみましょう。
田舎暮らしのいろいろ
一口に「田舎暮らし」と言っても、その程度は様々で大きな違いがあります。「山奥の一軒家」をテーマにしたテレビ番組が人気のようですが、そのような「田舎」から「地方都市」と言われる地域での生活まで、実に千差万別です。
地方都市での暮らし_……地方の主だった市の交通手段が確保されている住宅地での暮らしは、費用的には都会と大差はないでしょう。ただし、ある意味での都会でない地方らしい居心地の良さはあります。
若い頃に1年ほど大阪に長期出張で暮らしたことがあります。大阪というと東京に次ぐ大都市と思われるかもしれませんが、印象は大きな地方都市でした。東京ではどこまで行っても知り合いの輪はなかなかつながりませんが、大阪では友人の友人の友人は自分というように簡単に人のつながりの輪ができ、いくらかゆったりした時間が流れているような良さがありました。
農漁村地帯での暮らし……田舎暮らしに対するイメージの中心は農村地帯での暮らしだと思います。私は「田舎」にも仕事場があり、原稿の執筆は田舎で行うことが多くあります。もとは喘息の緩和のために期限を限って、住まい兼仕事場を借りているのですが、コンビニさえも隣の駅にしかありません。東京では徒歩5分圏内にいくつコンビニがあるか数えられないほどです。住所は「市」ですが、バス便等の交通手段が整っているのは、JRの主なターミナル駅などの周辺のみです。ローカル線の駅からは徒歩圏内でなければ、マイカーに頼るしかありません。周囲の家を見渡すと、ほとんど複数台の車を所有しています。
本格的的な過疎地などへの移住……このケースはその土地の置かれた状況で大きく変わります。このような地域を目指す方は特殊な目的があるはずですので、目的によっても費用は異なるでしょう。
特殊な気候(寒冷地・沖縄など)……このあとにも言及しますが、気候の違いは費用に大きく影響します。
「定住奨励金」制度や「子育て世帯の転入・転居支援金」制度を探そう
田舎暮らしには、何はともあれ、住まいを確保しなければなりません。希望する地域の支援制度は要チェックです。過疎の市町村のほとんどといってよいほど支援制度があります。それだけでなく埼玉、千葉、茨城といった東京近郊地域にも支援金制度がある市町村があります。東京都の奥多摩町も「若者定住応援補助金」を設けていて、45歳以下の夫婦が対象となります。
住まいに関する費用は、自分たちに見合った制度をいかに利用できるかで大きく異なります。また制度がなくても田舎には空き家が多くあります。気に入った地域の役場などに問い合わせるなど、安価に住まいが手に入る方法をいろいろ試してみましょう。
都会と田舎ではどう違う?
田舎暮らしに必要な費用はその地域や家族構成その他で大きく違いますので、具体的な数値を提示することは難しいですが、どのようなことを考えなければならないかをいくつかとりあげてみましょう。
移動手段……交通網が発達していない田舎ではマイカーは複数台必要なケースもあります。通学にも自転車というケースもあるでしょう。起伏が多かったり、山のすそ野だったりすると、電動アシスト自転車も欲しくなるでしょう。
暖冷房……寒冷地などでは暖房の考え方も異なります。都会では石油ストーブはあまり使われなくなりましたが、安価で強い温め効果のある石油ストーブなどが必需という地域もあるでしょう。沖縄では1年に7か月もエアコンが欠かせないそうですが、すべての部屋にエアコンが欲しくなるはずです。その地域に必要な暖冷房システムと機器については、費用も大きく注意が必要です。
ガス機器……都市ガスとプロパンでは対応機器が原則異なります。手持ちのガス機器が移住先でも使えるかラベルなどで確認して、対応できなければ買い替える必要があります。
衣類……寒い地域や暑い地域では衣類も異なります。田舎で農作業というのであれば、帽子から手袋、長靴、作業着など都会と違った衣類が必要です。虫なども多いので、蚊対策用のネット付き帽子も必要となるなど、衣類だけでもいろいろ違います。私は同じ家に住んでいても、通勤しなくなったとたん必要とする衣類が大きく異なるのに驚いた経験があります。リタイアと同時に移住するのであれば、その点も考えておく必要があります。
寒冷地……衣類・靴などだけでなく、雪かきの道具や車のタイヤやチェーンなども考えなければなりません。
農機具等……都会の小さな庭でも高齢になると草刈りが大変というのはよく聞きます。まして田舎では土地が広い分、草の量も半端ではありません。また木の上になる柿を取るにも大きな高枝はさみが必要です。はしごや草刈り機、家庭菜園程度でも鍬やスコップも必要となります。本格的な農漁業であれば初期投資はかなり大掛かりでしょう。
大工道具……スローライフで何でも自分でこなすとなると、家や庭の手入れに必要な大工道具もいろいろ欲しくなるでしょう。
大型冷蔵庫……車が必要な地域であれば、買い物は車となるでしょうが、それでも多少買いだめのための大型冷蔵庫が必要な場所もありそうです。
その他……人が多い都会と違って、祭りや自治活動のための町内会費用的なものは意外に高いように思います。都会と違って、支払い義務も高いはずです。
お金では買えない田舎での子育てのメリット
田舎での子育てのメリット・デメリットに関しては、移住を検討されているご夫婦はすでにいろいろ考えていると思います。夫婦の子育ての考え方によってもメリット・デメリットは異なるでしょう。
田舎で過ごしてみて感じるのは、五感が研ぎ澄まされることです。朝早くから鳥の鳴き声がし、木々の枝や葉の風音も心地よく響きます。出かければ、そこかしこのせせらぎの水音や、四季で刻々と変化する様々な色とりどりの花々、畑の作物や水田の稲の生長など、自律神経が整えられ、活力を生むといわれる「1/fのゆらぎ」に満ち溢れています。
最近私も今まで使ったことのない農機具を手にすることがありますが、農機具などは周辺の農家に使われなくなったものが少なからずあるはずです。地域に溶け込み、いろいろ借りたりもらったりしてもよいのではと思います。費用は工夫次第、働きかけ次第で低く抑えられるのではないでしょうか。
問題は移住してほしい地域と移住したい人とのマッチングが必ずしもうまくいっていないことです。しかし役所仕事に不満を言っても始まりません。良い条件で田舎暮らしをスタートするには、積極的にアタックするのみです。移住したい地域が見つかったら、押しの一手で働きかけてみてください。それが費用を抑えるのに有効な方法だと思います。
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■著者プロフィール: 佐藤章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。