e☆イヤホンが主催するポータブルオーディオの祭典「ポタフェス」には、正式発表前の技術や製品が展示されることも珍しくありません。ここでは、2018年12月15日、16日に行われたポタフェス2018 WINTERで初お披露目されたオーディオ関連製品のなかで、筆者・海上忍が気になったものを紹介します。

aptX Adaptiveを体験

Qualcomm(クアルコム)ブースには、9月に発表されたばかりのオーディオコーデック「aptX Adaptive(アプトエックス アダプティブ)」の体験コーナーが用意されていました。aptX Adaptiveを実装した製品はまだ存在しませんが、Qualcomm特製スマートフォンをトランスミッター(送信側)に、評価ボードとして用意されたaptX Adaptiveレシーバーが受信するという形で、オーディオ再生を実施していました。一般向けの体験型デモとしては、初の展示となるそうです。

  • aptX Adaptiveの評価ボード。スマートフォンとはBluetoothで接続されます

このデモ、淡々とオーディオ再生が進んでいきますが、注目すべきはスマートフォンの画面。スマートフォンを評価ボードから離したり、物理的に遮ったりすると、ビットレートが刻々と変わります。通信状態にあわせビットレートをリアルタイムに変動させる仕組みは、aptX Adaptiveならでは。音途切れやパケットロスの発生を回避します。ブース員によれば、aptX Adaptiveを実装した製品の登場は2019年後半になりそうとのことでした。

  • 通信状態によってビットレートが刻一刻と変動する様子がわかります

Qualcommブースには、クリプトンのBluetoothスピーカー「KS-55」も展示されていました。L/R独立型のBluetoothスピーカーとしては世界で初めてaptX HDに対応、最高48kHz/24bitのサウンドをワイヤレスで楽しめます。直販サイト限定の製品ですから、滅多にない試聴のチャンスでした。

  • L/R独立型のBluetoothスピーカーとしては世界で初めて、aptX HDに対応したクリプトンの「KS-55」。直販価格は92,500円(税別)です

DAC/ヘッドホンアンプ内蔵のUSB Type-Cリケーブル

パソコンやスマートフォンを中心に採用が進む「USB Type-C」ですが、オーディオ用途でも注目を集めています。端子内に収まるほど小型・高性能なDAC/ヘッドホンアンプが増えており、今後「スマホに挿すだけで」ハイレゾ再生できるヘッドホン/イヤホンの増加が予想されています。

伊藤屋国際ブースでは、中国KZ製のUSB Type-Cリケーブルが展示されていました。端子部分に192kHz/24bitのDAC/ヘッドホンアンプを内蔵し、0.75mm/2ピンのコネクタに接続されたBAドライバ×1、ダイナミックドライバ×1のハイブリッドイヤホン「KZ ZST」で聴くという仕組みです。

  • KZのUSB Type-Cリケーブル。0.75mm/2ピンのイヤホンを接続できます

USB Type-C端子採用のスマートフォン(Xperia/Android 8.0)で「ONKYO HF Player」アプリを使って試聴したところ、アプリのドライバの事情か、サンプリング周波数は最大96kHzのDACとして認識されていましたが、サウンドは鮮烈のひと言。3.5mm端子のケーブルでKZ ZSTを聴いたことがありますが、音の鮮度と左右の分離感は数段レベルアップしている印象です。カスタムIEMのリケーブルとして利用できることを考慮に入れると、6,980円(税別)という価格はかなりの割安感。2019年1月以降だという発売が楽しみです。

  • 「ONKYO HF Player」では、最大96kHzのUSBオーディオとして認識されていました

なお、伊藤屋国際ブースでは、SoundsGoodブランドの新製品として、線材に1芯10本の単晶純銀を採用した純銀リケーブル(製品名未定)と、SoundsGoodのWhiteSnakeシリーズで、4.4mmバランスプラグを採用したリケーブルを展示していました。前者の純銀リケーブルは2.5mmバランス/3.5mmステレオ/4.4mmバランスとも19,800円(税別)とのことですから、かなりのコストパフォーマンスです。

  • 1芯10本の単晶純銀を採用した純銀リケーブル。純銀/4.4mm端子でも2万円以下というプライシングは衝撃的

2台を左右分離で使える? Fenderの未発表Bluetoothスピーカー

Fenderブースには、これまで見たことがないBluetoothスピーカー「Indio」が参考出展されていました。ブース担当者に訊くと、国内での展示は初めてとのこと。ユニット構成はフルレンジ×2、ツイーター×2と、Bluetoothスピーカー「NEWPORT」(フルレンジ×2、ツイーター×1)の上位モデルという位置付けでしょうか。既存のNEWPORTやMONTEREYと並べてみると、きょう体サイズはちょうどその中間、ラインナップとしてはミドルクラスと位置づけられそうです。

  • 未発表のBluetoothスピーカー「Indio」

しかし、パネルを見ると「DUO」という既存モデルにはないスイッチが。ブース担当者に訊いてみたところ、2台のindioに左右チャンネルを割り振るための機構が用意されているのではとのことでしたが、メーカーからの情報がないため詳細は不明だそうです。FenderのBluetoothスピーカーは鳴りっぷりがよく、ギターアンプを彷彿とさせる外観も雰囲気バツグンですから、話のとおりステレオスピーカーとして利用できるのなら、製品としての魅力は増しそうです。

  • 上部には「DUO」という見慣れないボタンが用意されています

  • 写真中央がIndio。既存製品のNEWPORT(写真左)、MONTEREY(写真右)と並べたところ

ソニーの超弩級DAP「DMP-Z1」が真のポータブルに?

ソニーブースで異彩を放っていたのが、超弩級デジタルミュージックプレイヤー「DMP-Z1」。どう見てもコンポーネントオーディオのサイズですが、ウォークマン開発チームが参加するなどポータブル機器の延長線上で設計されており、彼らもその気が十二分にあるようです。レンガをひと回り大きくしたような筐体と、ソニー専用カスタム品の真鍮製ロータリーボリュームはいかにも重そうで、持ち運びは困難なように見えますが……。

だからというわけではなさそうですが、専用キャリングケースを用意しています。製造は多くのDAPにジャストフィットするキャリングケースで知られるVannuys(バンナイズ)。しっかりした作りで、持ち運ぶときも安心できそう。専用キャリングケースは受注生産になるとのことでしたが、あくまでポータブルにこだわるウォークマンチームが働きかけた成果でしょうか? ともあれ、これで開発陣の願いどおり、DMP-Z1を外へ連れ出せそうです。

  • ソニーの超弩級DAP「DMP-Z1」、希望小売価格は950,000円(税別)です。ソニーのヘッドホン「MDR-Z1R」との組み合わせで試聴できます

  • 初公開のDMP-Z1専用キャリングケース。受注生産になるとのことです