求人広告などで、「寸志」という言葉を見かけたことはないでしょうか。たとえば、給与・賞与の欄に「寸志あり」または、「入社一年目は寸志程度」などと明記されている場合があります。この寸志には、どのような意味があるのでしょうか。何となく、賞与(ボーナス)よりは金額的に少ないという感じがしますよね。寸志はボーナスとどのような違いがあるのか? そして、寸志の金額はどの程度なのかについても解説していきます。

  • 寸志ってボーナスとは違うの? 意味と相場を解説

    寸志って何?

寸志ってどんな意味?

寸志とは、「心付け」とも言われるように、「ちょっとしたお礼、厚意」という意味です。心ばかりのものですと、へりくだった気持ちで渡す、金銭や品物のことを指します。たとえば、会社の懇親会や親睦会などで「宴会費用の足しにしてほしい」と、金銭を入れた封筒を上司から部下に渡など、ビジネスの場では一般的に、上の立場から下の立場の人へ渡すお金を寸志と言います。

こうしたお金をいただいた時には、宴会のはじめの挨拶で司会者から「部長の○○さんからお心遣いをいただきました」と、寸志をいただいたことを披露するのがマナーです。ちなみに、目下の人から目上の人にお礼を渡す際には、「寸志」では失礼に当たるため、「ご挨拶」「御礼」などと表現しましょう。ビジネス以外のシーンでも、何かを手伝ってもらったお礼をしたい時などに、寸志を渡すこともあります。

では、会社から支給されるボーナスと寸志はどう違うのでしょうか。ボーナスは、一般的には夏と冬の年2回、会社の規定に基づいて支給されます。一方の寸志は、「入社してからまだ日が浅くボーナスを満額渡すわけにはいかないけれど、よく業務をこなしてくれているし今後に期待したい」などという思いを込めて、ボーナスの代わりとして渡されるものです。会社によっては、新入社員や中途採用の社員には、はじめのボーナスの代わりに寸志が支給されることもあります。

ボーナスは昔からある「特別手当」のこと

では、ボーナスとはどのようなものなのでしょうか。ボーナスは、給与とは別に支払われる「特別な報酬、特別手当」という意味です。このボーナスの代わりに寸志が渡されることもあれば、会社の業績が良かったなどの理由で、夏と冬のボーナス以外にも、寸志という形で決算後に特別手当が支給されるケースもあります。

さて、ボーナスの由来について調べてみると、夏と冬という支給時期にも由来がありました。

・夏のボーナス
昔の商家で年季奉公をしている使用人たちは、住み込みで働いていました。しかし、お盆休みに帰省する際、主人から「おこづかい」が支給されたのです。これが夏のボーナスの起源と言われています。

・冬のボーナス
江戸時代の商家では、奉公している人たちにお正月に食べるお餅を買うお金が支給されていました。この餅代が「冬のボーナス」の始まりと言われています。奉公した年数に応じて、餅代も上がっていったそうです。ボーナスを支払うための人事考課は、江戸時代から存在したということですね。

また、「ボーナス」というのはラテン語が由来となり、古代ローマの神様「ボヌス Bonus」からきています。ボヌスは収穫や成功の神様で、ここから「良い」という意味のラテン語「Bonus」が生まれたのです。ボーナスというのは、成功の神様がくれたご褒美のようなものなのですね。そして、ボーナスと同じ意味で使われる「賞与」は、文字通り「賞を与える」ということです。経営者が、従業員の勤務態度や勤続年数、会社の業績を考慮して与えるものですので、業績が悪くなると「賞与カット」ということにもなりかねません。

ちなみに、ボーナス、寸志ともに労働法においては規定がありません。就業規則に、ボーナスや寸志を支給すると定めていたら、必ず支給する必要がありますが、定めていなければ、ボーナスにしても寸志にしても必ずしも支払う必要はなく、支払わなくても労働法違反にはならないのです。

寸志の相場はいくらぐらい?

寸志とは「ちょっとしたお礼」ということでしたが、それでは寸志の相場はいくらくらいなのでしょうか。寸志は、おおよそ「5,000円~50,000円」の範囲で渡すものとされています。しかし、これは「心付け・お礼」の要素が強い場合の相場と言えます。

会社でボーナスの代わりとして渡す場合の「寸志」ですと、その会社によって金額が全く違います。10,000円程度のこともあれば、100,000円くらい渡す場合もあります。これも法律の定めがありませんので、金額を明記することができません。ただ、心ばかりのねぎらいの気持ちが強いことを考慮すると、そこまで大きな金額は期待できないということです。常識的に考えて、10,000円から50,000円の間ということになるでしょうか。

今回は、寸志とボーナスの意味やその違い、寸志の相場などについて解説しました。「寸志」と聞くと「あまり金額的な期待はできないかな」と思ってしまうものですが、会社側も一生懸命資金繰りをして寸志を支払ってくれています。もし寸志をいただいた時は、「お心遣いありがとうございます。今後もがんばります」という気持ちを示してみてはいかがでしょうか。

武藤貴子

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント

会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中。