若いビジネスパーソンから「初対面の人とうまくコミュニケーションがとれない」「人見知りでうまく人と話せない」という悩みをよく聞きます。そこで、吉本興業の芸人として活動後、現在はヒューマンコメディックス代表取締役社長として個人参加型コミュニケーショントレーニング塾「笑伝塾」を開校し“笑いのコミュニケーション”普及に努める殿村政明氏に「コミュニケーションの極意」について話を聞きました。

  • ヒューマンコメディックス代表取締役社長・殿村政明氏

    ヒューマンコメディックス代表取締役社長・殿村政明氏

前回は「話下手」とコミュニケーションに消極的な若者の特徴について伺いましたが、今回は実際に殿村氏がトップセールスマンとして活躍していたときに使っていたトーク術や、初対面の人に好印象を与える方法など、具体的にトーク力を磨き、好印象を与える技術を伝授していただきます。

好感度No.1は「礼儀正しく、くずす場面でくずせる人」

芸人を辞めたあと、殿村氏はハウスメーカーの営業マンとして、笑いを交えたトークを武器に、全社のなかでトップセールスマンになったという実績があります。

「人との距離を縮めるなら、まず一番はじめにやることは、感情・愛情のこもった挨拶をすることです。無表情で声のトーンも低い挨拶をしていると、相手も出だしの会話意欲を無くします。堅い挨拶ではなく、丁寧だけれども感情・愛情が出ている挨拶をすることが、相手の心の扉を開けるキッカケになるんです。要するに“挨拶は人間関係のツカミ”だということです」

「受講生からよく『初対面の時に気の利いた話ができないんです』とか『人を笑わせることが苦手なんです』という話を聞きますが、そもそも笑える雰囲気作りができていません。心を開いていない相手に何か言われても笑えないと思うんですよ」

「“好感度”という意味では、基本的に “礼儀正しい”で間違いないのですが、そこからどこまでくずせるかです。丁寧一辺倒だと、相手にいらない気遣いをさせてしまいます。失礼があってはいけないという気持ちは大事ですが、丁寧だけでは、深い人間関係を築くことはできない。“礼儀正しく、くずす場面でくずせる人が好感度No.1”ということを理解する必要があるんです」と、殿村氏は話します。

人見知りや緊張は性格ではない!コミュニケーション筋力は鍛えられる

前回「コミュニケーションは愛情と勇気」という話をしていた殿村氏は「誰でも初対面は緊張するもの。しかし『恥をかく勇気』を持つことで、対人関係は大きく前進できる」と断言します。

「実は芸人さんって、人見知りや緊張する人が多いです。舞台前は僕も含めてメチャクチャ緊張してました。みなさんがテレビで知っているお馴染みの芸人さんも、ほとんどの方が緊張と戦っています。それでも、そんな素振りは見せないんです。自分が緊張しているところを見せたら周りに伝染する。根性論的に聞こえるかもしれませんが、そうやって場数を踏んでいけば、人は慣れてくるんです。とにかく頭で考えるより体感すること」

殿村氏は、コミュニケーション筋力を鍛える際に重要な心構えは「人に好かれようとするのではなく、相手を好きになる努力」だと言います。

「例えばプライベートでも、苦手なタイプの人にも話しかけてみる。そうやって負荷をかけることで、コミュニケーション筋肉というのは付いてきます。喋りやすい人だけと喋っていると、おのずとコミュニケーション筋肉は衰えていきます。ぜひ、緊張する人や苦手な人と、どんどん接していってください。苦手な人が少なくなってくるのを感じるはずです」

本題より雑談を重視 ハウスメーカーの営業マン時代

  • 自分のプライベートな話を入れて話すことが重要だと話す殿村氏

    自分のプライベートな話を入れて話すことが重要だと話す殿村氏

「吉本辞めて営業マンを始めたとき、やっぱりビジネスだからきっちり丁寧にやったほうがいいと思っていたんです。でも営業成績が伸びなかった。ある日、トップセールスマンの人に半日同行させてもらったんです。その人は、最初まったく商品を売り込むことをせずに、雑談をしっかりするんです。その際、『今日朝から嫁さんと喧嘩して、フライパンで頭どつかれましてん!』という風に自分のプライベートな話を入れていく。爆笑ではありませんが、クスクスと小さい笑いを積み重ねながら、距離を縮めていくんです」

「そのうち、お客さんから『何歳なんですか?』『どこに住まれているんですか?』など個人的な質問も出てくる。商品を売り込むよりも人間関係作りをしていたんですね。そのやり方は巧みで、いかに雑談が大事なのかを学びました。そのために年代別のネタ帳なんかも持っていました。それに人間関係作りをしておいたほうが、何かあったときのトラブルも最小限に収められるんです」

  • 「笑いは大人の上質な気配り」殿村氏の事務所に飾られているお皿

    「笑いは大人の上質な気配り」の文字が書かれた殿村氏の事務所に飾られているお皿

忘年会シーズン くずしやすい場で“自分の取扱い説明書”を見せる

「キャラのない人はいない」と断言していた殿村氏。自分をしっかり出すことで、相手も本音で付き合ってくれる。そこから円滑なコミュニケーションが始まるというのです。

「忘年会とかみんなが集まる場所は、自分を出すにはいい場ですよね。自分の本音やキャラクターを相手に見せることは、“自分の取扱い説明書”を見せることと同じです。自分のぶっちゃけトークをして、『あーお前こんな奴だったんだな』と思ってもらえれば、相手との距離はグッと縮まります。そうすると報連相もしやすくなって、仕事も円滑に進みます」

「本当の自分を出すことは勇気のいることですが、“10人中10人”に好かれようとしていたら、本当に相性のいい人まで逃してしまうことになります。“人と距離を取るのがマナー”だと勘違いしている人は、その[常識=概念]をぶっ潰していってください」

忘年会、年が明ければ新年会と行事ごとが増える年末年始。自分にないキャラクターを背伸びして演じるよりは、まず自分に正直になり、どんな人間であるかを相手に伝えることから始めれば、自分の[人間関係=人生]は大きく変わると殿村氏は、迷える若者にアドバイスしてくれました。

  • 殿村氏はコミュニケーション関連の著書を多数執筆している

    殿村氏はコミュニケーション関連の著書を多数執筆している

監修者プロフィール: 殿村 政明(とのむら まさあき)

兵庫県生まれ。19歳でオール阪神巨人に弟子入りし、吉本総合芸能学院「NSC11期生」に入学。吉本興業の所属タレントとして活躍するも、相方の都合でコンビが解散。どん底の中、借金もでき、一旦ハウスメーカーに就職することになる。笑いを交えたトークを武器に3カ月間で全社営業トップに上り詰める。その後、10年の年月をかけて「笑い」のメカニズムを科学し、一般人が習得できる教育プログラムの開発に成功したことから コミュニケーションスキルアップを目的とする研修会社を設立。

「笑いのコミュニケ―ション研修」受講者数は2009年に1万人を突破し、自身が塾長を務める、個人参加型塾 「笑伝塾」も開校した。人との心の距離を近づけるのに一番早いのは“笑い”であり、講演では誰でも身に付けることができる「笑いのスキル」を伝えている。2018年12月現在、受講者数は10万人に達している。著書に「笑いの凄ワザ」(大和出版)、「10人中10人に好かれようとする人は嫌われる 人との距離が一瞬で縮まる45のメッセージ」(大和出版)、最新作「話が面白い人 オモロない人: 「笑い」は大人の上質な気遣い (三笠書房)など、コミュニケーションにまつわる本を多数発表している。