若いビジネスパーソンから「初対面の人とうまくコミュニケーションがとれない」「人見知りでうまく人と話せない」という悩みをよく聞きます。そこで、吉本興業の芸人として活動後、現在はヒューマンコメディックス代表取締役社長として個人参加型コミュニケーショントレーニング塾「笑伝塾」を開校し“笑いのコミュニケーション”普及に努める殿村政明氏に「コミュニケーションの極意」について話を聞きました。
SNSの普及により、幅広い人と簡単につながりを持ちやすくなった一方、顔を突き合わせて会話をしなくても、コミュニケーションが“とれた気になっている”人は多いのかもしれません。しかし、いざ社会に出て、ビジネスの現場に直面すると、イメージしていた以上に“話せない”と感じる人が多いようです。
話下手な人に共通する特徴 ”やっているつもり”
殿村氏は、企業や自治体、教育機関などさまざまな業種から、コミュニケーションにまつわる研修や講演などの依頼を受け、多くの人々に接する機会があるといいます。そんな中「人とうまく話せない」「人見知りなんです」という人には、ある共通点があると断言します。
「うちの塾では、会話中の自分の表情を動画に撮ります。『人見知りなんです』という人の多くは、話しているとき、顔に表情が出ていないんです。さらに声のトーンも低く、相手の話に対して反応が小さい。こうした特徴って、意外と本人は気づいていません。動画を見せると、ほとんどの人が自分の反応の薄さに気づくんです。話している相手だってリアクションが小さいと寂しいじゃないですか、というか喋る気がしないですよね。ノーリアクションだと壁に向かって喋ってるのと同じですから」
自分では“やっているつもり”でも、相手には思ったほど届いていない。殿村氏はこの“やっているつもり”が非常に危険で他人には通用しないと言います。
「そもそもリアクションは『あなたの話を聞いていますよ!』というシグナルです。あなた自身が無表情や無反応でシグナルを出してないのに『私に興味を持ってください』なんて言われても無理な話です。無表情・無反応は相手からのボールをスルーしているのと同じで、リアクションは相手を思いやるマナーぐらいに思ってもらった方がいいと思います。“リアクションは親切・ノーリアクションは不親切”です」
「話していて“つまらない人」とは?
殿村氏はさらに人と話をしないでいると、どんどん“つまらない人間”になってしまうと警鐘を鳴らします。“つまらない人間”には3つの特徴があると言います。
(1)感情が出ていない人
(2)自分の意見が言えない人
(3)思いやりのない人
「自分がどう思われるのかを必要以上に気にして、人と距離を置いていると、相手にこの3つの印象を与えてしまいます。つまらない人だと思われてしまうわけです。逆に人と会った際、この3つを出していけば、『この人といると楽しいな~』という印象に変わります」
また殿村氏は、「私の塾には『人見知りだから』『あまり人に興味がないから』という人がよく来ますが、卒業時には『人見知りという言葉で逃げていました』もしくは『甘えていました』と言ってくれます。人見知りと言って、自分の意見や感じたことを素直に伝えられないようでは、いつまで経っても自分を知ってもらうことはできません。ビジネスでも相手に人柄を分かってもらうことはとても有利なのです。そうやっていくと、人間関係の幅が広がっていくのが想像できるはずです」と、コミュニケーションの重要性を語ってくれた。
キャラクターのない人はいない
キャラクターは自分で作るのではなく、自分の感情表現をオープンにしていけば、勝手にその人のキャラクター性が出るものだと殿村氏は力説します。
「しっかりと自分の素を出すこと。それがキャラにつながる。キャラがない人なんていないのです。素を出すと嫌われるかもしれないと思う人はいるかもしれませんが、自分の素を出したら、自分の変なところだけ出るのか、と言ったら違います。良いところも一緒に出るわけです。一番良くないのは自分の変なところを出さないために、自分の良いところも閉まってしまう癖がつくことなんです。無理して『こんなキャラに憧れているんです』と言うよりは『10人中2人ぐらいの人に分かってもらえればいい』というぐらいのスタンスでいくと、逆に理解してくれる人は増えると思うんです」
とはいえ、これまで人と顔を突き合わせてコミュニケーションをとってこなかった人間にとって、初対面に近い人間に自分を出すというのはかなりハードルが高い作業だと思われます。どこかに「コミュニケーションは苦手なので」「僕は人見知りだから」と予防線を張って逃げてしまうものです。
「誰だって初めて話す人には腰が引けます。でも相手の懐に入ろうとする勇気を持ってほしいと思います。私が伝えたいのは“人見知りや緊張するのは自分だけではない、誰もが緊張しているのだ”ということです。会話の中でベクトル(意識の向き)が自分に向いていると相手の事が見えなくなり、自分ばかりが緊張していると思い込みがちです。しかし『こんな堅い感じでずっと喋っていたら、相手もしんどいだろうな、楽しくないだろうな』と相手にベクトルを向けると思いやりを持てるようになります。性格や環境のせいにするのではなく、“円滑なコミュニケーションには勇気と愛情が不可欠だ“と意識して行動していけば、あなたの周りに少しずつファンが増えてくるはずです」
まずは自分を知り、自分を出すこと。さらに、自分自身を相手にぶつける勇気を持つこと。そうすることによってコミュニケーション能力は格段に上がるというのです。
次回は、殿村流トーク術や練習法を具体的に聞いていきます。
監修者プロフィール: 殿村 政明(とのむら まさあき)
兵庫県生まれ。19歳でオール阪神巨人に弟子入りし、吉本総合芸能学院「NSC11期生」に入学。吉本興業の所属タレントとして活躍するも、相方の都合でコンビが解散。どん底の中、借金もでき、一旦ハウスメーカーに就職することになる。笑いを交えたトークを武器に3カ月間で全社営業トップに上り詰める。その後、10年の年月をかけて「笑い」のメカニズムを科学し、一般人が習得できる教育プログラムの開発に成功したことから コミュニケーションスキルアップを目的とする研修会社を設立。
「笑いのコミュニケ―ション研修」受講者数は2009年に1万人を突破し、自身が塾長を務める、個人参加型塾 「笑伝塾」も開校した。人との心の距離を近づけるのに一番早いのは“笑い”であり、講演では誰でも身に付けることができる「笑いのスキル」を伝えている。2018年12月現在、受講者数は10万人に達している。著書に「笑いの凄ワザ」(大和出版)、「10人中10人に好かれようとする人は嫌われる 人との距離が一瞬で縮まる45のメッセージ」(大和出版)、最新作「話が面白い人 オモロない人: 「笑い」は大人の上質な気遣い (三笠書房)など、コミュニケーションにまつわる本を多数発表している。