ソフトバンクが、ミリ波(28GHz帯)を使った実験を東京・品川区、渋谷区で開始しています。次世代通信規格の5Gでの利用が想定される28GHz帯は、その電波の特徴から広範なエリア構築には向きませんが、通信速度や同時接続数では有利とされています。この実験で、ソフトバンクはミリ波の特性などを把握したいとしています。
ソフトバンクでは、11月14日に5Gの実験免許を都内の3カ所で取得。今回はそのうち品川エリア、渋谷エリアでの実験となります。報道向けに公開されたのは品川エリアの実験環境で、高層ビルと低層ビルにアンテナを設置して、それぞれ付近の室内に設置した無線LANのアクセスポイント経由で環境を構築していました。
5Gの実験自体はこれまでも行われてきましたが、「特定の場所、業種、サービスに特化しない、より一般的な大容量通信を想定した初めての実験」(ソフトバンク テクノロジーユニット Chief Scientist室担当課長・菅谷徹氏)だということです。
ミリ波の特徴は、直進性が強い、回折しない、反射・散乱に強いというものです。要するに電波が真っ直ぐ飛び、障害物があるとそれに遮られ、ぶつかると回り込まずに反射する、というものです。
周波数が低いほど逆の性質を持つため、遠距離まで電波を飛ばして、屋内までエリア化する携帯電話には、低い周波数帯のほうが適しています。しかし、高い周波数は広い帯域が利用できるため、より高速・大容量の通信が可能に。加えて大量の端末を同時に接続できるため、5Gの用途には必要不可欠となっています。
ただ、今までと同じようなエリア構築は難しいため、携帯電話で利用するには工夫が必要。それを模索するための実証実験……というのが今回の取り組みです。実験によって「都市部でのノウハウ蓄積、エリア形成、ユースケースの確立」(菅谷氏)などを目指すとしています。
公開された実験は、高層ビルの上階の窓際に設置したアンテナと、直線距離で450m離れたビルに設置されたアンテナ同士で通信を行います。間に障害物がなく、見通せるエリアということで選ばれた実験環境で、360度カメラ(THETA V)の4K映像をライブで相互に配信し、タブレットやVRのHMDに無線LANで送信する、というデモが行われました。
ビルの高層階を選んだのは見通しが良く、どの程度の反射があるかといった点も測定できるからということです。通常、携帯電話の基地局は高層階には届きにくく、「20階がマクロセルの限界とされている」(菅谷氏)とのこと。それに対して、ミリ波を使うことで高層階のエリア化が行えるかどうかを検証するとしています。
5Gは、今回のようなミリ波と、「サブ6」と呼ばれる6GHz未満の周波数帯を使うことが想定されています。サブ6のほうはエリア化が可能で、基地局ベンダーなどは既存の4Gと同等のエリア化も可能としていますが、それにはさまざまな検証が必要となります。
特にミリ波になると、その特徴から「面のエリア」を作るには大量のアンテナが必要となります。菅谷氏は「それは避けたい」としており、効率の良い、用途に応じたエリア設計が必要になるとの認識です。
5Gの端末向けのモデムも発表しており、2019年には5Gに対応したスマートフォンの登場も計画されています。日本では、2019年にも試験サービスが開始され、2020年に本サービスが開始される予定です。当初は、「いつの間にか通信が高速になったと思ったら5Gのエリアに入っていた」というレベルになり、スマートフォンでいつでも5Gの恩恵にあずかれるのはまだ先になりそうです。
「東京五輪のスタジアム内のみが5Gのエリアになり、競技の高精細な映像が居ながらにしてリアルタイムで視聴できる」といったパターンもありえるでしょう。無線LAN(Wi-Fi)だと、大量の端末が同時に接続すると通信できなくなることもありますが、5Gならそうした多端末同時接続が考慮されているため、快適に通信できるようになりそうです。
とはいえ、現実的には「窓際のアンテナで5Gを受信し、屋内は無線LAN(または屋内局)で配信する」という利用になりそうです。それでも、ネットワークの高速化にはつながります。さらに進展することで、スマートフォン以外にもPCやゲーム機、カメラ、ヘッドマウントディスプレイなど、各種デバイスが5G化することで、よりリッチなエンターテインメント環境が実現できるでしょう。
未来を実現するための技術として、5Gへの期待度は高く、今後もソフトバンクの実験進展にも期待したいところです。