その言葉の持つ意味を知り、正しい使い方をすることはとても重要です。ビジネスでよく使われる略語の一つ「OEM」は、自社ブランドではない相手先(委託者)のブランド名で販売される製品を製造することを意味します。
今回は「OEM」と混同しやすい「ODM」や「PB」との比較を交えながら理解を深めていきましょう。
「OEM」は自社ブランドの商品を相手のブランド名で発売すること
「OEM(オーイーエム)」は、"Original Equipment Manufacturing(Manufacturer)"(オリジナル・エクイップメント・マニュファクチャリング、またはマニュファクチャー)の略語で、直訳では「オリジナル機器の製造(者)」。依頼を受けて受託者となり、「自社ブランドではない相手先(委託者)のブランド名で販売される製品を製造すること」、または「その製造をするメーカー」を指します。
OEMには、大規模メーカーの生産を中小メーカーが下請け的に受託する垂直的分業や、自動車業界によく見られる同水準のメーカー同士で行う水平型分業、異なる製品によって委託と受託を相互に乗り入れるパターンなど、いくつかの形態があります。
典型的なOEMでは、OEM委託者が製品の仕様を決定し、メーカーに対して発注します。委託者は、詳細な設計図や仕様書などを受託者へ支給し、場合によっては技術指導も行います。受託メーカーはそれらに基づき製造を行い、出来上がった製品を委託者に納入します。
「OEM」の実例
ここで具体的な「OEM」の例を見てみましょう。
マツダのクロスオーバーSUVタイプの軽自動車『フレアクロスオーバー』はOEMであり、マツダはスズキからの供給を受けて同車を販売しています。『スズキ・ハスラー』は兄弟モデルに当たり、フロントやテール、ホイールなどのエンブレムがそれぞれのメーカーのものになっているのと、ボディカラーやラインナップのヴァリエーションが異なる点以外ではほとんど違いがありません。このOEMの結果、マツダ・ユーザーはメーカー間の乗り換えをせずに、スズキの人気車種に乗れる、ということになります。
「OEM」のメリット・デメリット
OEMは、委託者・受託者共に利点がある手法として広く普及していますが、ここでOEMのメリット・デメリットを、委託者・受託者それぞれの立場から整理してみましょう。
■委託者側のメリット
・生産設備を持たなくても、自社ブランドを市場に投入できる
・製品開発や製造に関するコストを削減できる
・需要の増減に柔軟に対応でき、在庫リスクを軽減できる
・生産を委託することで、経営資源を製品開発に集中できる
■委託者側のデメリット
・生産による利益を得られず、収益率が低下する
・生産を委託することで、自社の生産技術や開発能力が停滞する恐れがある
・受託者に技術指導をすることで、技術やノウハウの流出の危険性がある
■受託者側のメリット
・余剰な工場設備や技術を有効活用できる
・受託生産することで利益を得られる
・生産を継続することで、技術力の向上が期待できる
■受託者側のデメリット
・自社ブランドの市場への認知が図れない
・委託者側に技術やノウハウが流出する危険性がある
・委託者から生産コスト削減の圧力を受けやすい
・委託者からのオーダーの増減により、生産量が左右されやすい
委託・受託の各メーカーはいずれも、上記のようなメリット・デメリットを考慮し、バランスを取りながらOEMを推進していくことになります。
「ODM」は相手ブランド命で発売される商品の設計・開発すること
「OEM」と似た言葉で、「ODM」があります。「ODM」は"Original Design Manufacturing(Manufacturer)"(オリジナル・デザイン・マニュファクチャリング、またはマニュファクチャー)の略語で、「自社ブランドではない相手先(委託者)のブランド名で販売される製品を設計・生産すること」、または「その設計・生産をするメーカー」を指します。
OEMの場合は、製品の企画・開発や設計は委託者が主導権を持って行いますが、ODMでは受託者がそれらを手掛け、委託者に製品を供給します。また、受託者がマーケティング・物流・販売を含めた製品提供全般を一貫して担当するケースもあります。
「ODM」の事例
一例として、スマートフォンのODM製品を見てみましょう。富士通コネクテッドテクノロジーズのミドルレンジモデル「arrows Be3 F-02L」は2019年6月にNTTドコモ向けに発売され、その後、そのODM製品となるソフトバンク向けの「arrows U」を発売しました。以降も、「arrows RX」(楽天モバイル)、「arrows J」(ジャパネットたかた/Y!mobile)、「arrows M05」(家電量販店やMVNO事業者など)など続々と、ODM製品の展開を続けています。
これらはベースモデルが共通しており、デザインやスペックもほぼ同一です。ただしセキュリティ強化など、各キャリアのニーズに応じてのカスタマイズも行っています。このように、受託者が企画・設計・製造を行い委託者に製品を供給するODMは、OEMの進化形とも言えるでしょう。
「PB」は流通業者が企画して相手ブランドで販売すること
「メーカーが他社ブランドの製品を製造すること」という意味では、「PB」も同様の概念となります。「PB」は"Private Brand"(プライベートブランド)の略語で、対義語は「NB(ナショナルブランド)」です。PBは別名「ストアブランド」とも呼ばれ、日本語では「自主企画商品」と訳されることもあります。
OEMは家電製品や食品、日用品、自動車メーカーなどさまざまな業種で利用されていますが、小売店・卸売などの流通業者が企画し、独自のブランドとして販売する際は、多くの場合「PB」と呼ばれます。OEMとPBは、実質的には同じものと考えていいでしょう。
「PB」の事例
最近よく目にするPBの例としては、やはりコンビニのPB商品でしょうか。例えば、セブンイレブンのPB「セブンプレミアム」はその先駆であり、代表例となります。「セブンプレミアム」は、セブンイレブンを傘下に持つセブン&アイホールディングスが2007年から始めたPBです。現在では年間売り上げが1兆5,000億円に及ぶなど、同社の主力商品となっています。
「セブンプレミアム」ではPBのメリットを活かし、商品流通のコストや広告宣伝費などを抑制。委託者であるセブン&アイホールディングスは、受託の各メーカーと緻密に連携して共同開発を行い、消費者ニーズにマッチした的確な商品開発を行います。
その結果、おいしく、高い品質と安全性とを兼ね備えた「セブンプレミアム」は、それまでのPBにあった"NBの廉価版"といったイメージを覆し、広くユーザーに受け入れられています。
さて、ここまで「OEM」を中心に、「ODM」や「PB」も含めて、それぞれの意味や違いをご紹介してきました。現在、広く普及している製造手法である「OEM」について、少しでも理解が深まれば嬉しく思います。