欧米では1970年代から普及している乳児用液体ミルク。日本では江崎グリコが開発・製品化に成功。2019年春に発売することになった。11月29日、報道関係者向けに行われた説明会の内容をお届けする。

  • 江崎グリコが開発・製品化に成功した国内初「乳児用液体ミルク」(サンプル)。125mlが紙パック容器に入っている

災害時だけでなく育児家庭を応援

  • フィンランド・スウェーデンで流通している乳児用液体ミルク

液体ミルクは、すでに各社から販売中の粉ミルクと同様の成分。生まれた日から新生児に与えることができる。調乳済みのミルクが液体になっており、お湯や水に溶かしたり薄めたりする必要がない。乳児用液体ミルクを消毒した哺乳瓶に注ぐだけ。5秒程度で準備が完了する。さらに、常温で約半年~1年保存ができるという利点がある。

  • 乳児用液体ミルクを消毒した哺乳瓶に注ぐだけで授乳の準備完了

日本では8月8日に法令改正され、製造・販売が可能に。東京都文京区は、赤ちゃんを災害から守る社会の実現のため、液体ミルクを備蓄することを他自治体に先駆けて発表済みだ。

2018年、西日本豪雨や北海道胆振東部地震など災害が相次いだことも、液体ミルクの認知が広がるきっかけとなった。紙パックを開けて哺乳瓶に注ぎ乳首をつけるだけで使える液体ミルクは、災害時の救世主的存在といえる。

そのほか、粉ミルク育児を行う家庭では、普段の外出時でもお湯を持ち歩いたり、出先で調乳したりする手間がなくなり、メリットは大きい。さらにいうと、数時間おきの授乳が必要となる新生児にも液体ミルクなら深夜でもそのまま与えられるため、保護者の負担が軽減されるだろう。

同社マーケティング本部乳業マーケティング部の水越由利子氏は、「災害が起こったときだけでなく、育児中の心の支えになってくれる存在として液体ミルクの需要を感じます」と話す。

同社マーケティング本部商品開発研究所乳業グループリーダーの永富宏氏は、「災害弱者である赤ちゃんを生命の危機から守るために、我々にも何かできるのではないかという使命を感じました。社内で『国内製造だったらさらに安心だし、災害時以外でも活用してもらえそう』という話にもなりました」と語った。

粉ミルクと同様の成分

母乳の代わりとなる乳児用液体ミルクをめぐり、消費者庁は11月15日、「特別用途食品」として許可する基準を新たに設けることを決めた。特別用途食品は、乳児の発育や病気の人の健康回復などに適していると表示できる食品。

このほど江崎グリコが開発・製品化に成功した液体ミルクは、販売中の「アイクレオのバランスミルク」(粉ミルク)と同様に、特別用途食品の規格基準に則った母乳に含まれるタウリン、パルミチン酸、ビタミンK、イノシトールなどの栄養成分を含有し、母乳と同等の消化・吸収のよさを目指している。

さらに使用する紙パックは、中身を保護する用途別に6層の構造となっており、高いバリア性が特徴。安全面にも力を入れている。

説明会で講演を行った大正大学心理社会学部人間科学科准教授の田中俊之氏は、「発達心理学の観点から、赤ちゃんにとって育児に関わらない人間は他人とみなされます。男性も主体的に授乳を。乳児用液体ミルクの活用が期待されます」と話した。