DJI JAPANが発表した、新機軸の3軸ジンバル搭載カメラ「Osmo Pocket」。ポケットサイズのコンパクトなボディに高い撮影性能を凝縮したOsmo Pocketの発表会に合わせ、同社代表取締役の呉韜(ごとう)氏に話をうかがいました。Osmo Pocketの開発の狙いや意気込みだけでなく、ドローンを含めた同社のビジネス展開についても聞きました。
――Osmo PocketをはじめとするOsmoシリーズの市場規模はどれほどなのでしょうか。
呉氏:Osmoシリーズは日本でも毎月数千台の需要がありますが、Osmo PocketはこれまでのOsmoとは1つ上の次元に到達した製品だと思っています。スマートフォンは、雪山などではバッテリーやタッチパネルの問題で使えませんが、Osmo Pocketならばスマホを装着しなくても単体で撮影できます。防水ケースを使うことで水中でも使えますし、アクセサリーを使えばヘルメットにも装着でき、従来のOsmoシリーズよりも使えるシーンが大幅に増えています。
――日本市場での販売は期待できそうですか。
呉氏:日本では、ある程度価格が高くても面白くて完成度の高い商品であれば売れますので、Osmo Pocketも期待できると思っています。ドローンと違って、場所を選ばず誰でも使える点も大きいですね。
――Osmo Pocketのターゲットは。
呉氏:若者と女性です。これまでのDJI製品のユーザーはほとんどが男性だったのですが、Osmo Pocketはコンパクトなサイズで楽に使えるので、女性をターゲットの中心に据えました。
――アクションカムやスマートフォンの手ぶれ補正機構がどんどん強力になっていますが、ジンバル搭載カメラを使うメリットは。
呉氏:原理上、アクションカムなどの電子式手ぶれ補正機能は画質を犠牲にします。また、映像の特徴点を捉えて補正することから、基本的に暗い夜は使えなくなります。そういう意味では、どのような状況でも高画質な動画を撮るためには、ジンバルを使うしかないのです。
三脚に載せて撮ったような高画質な写真を得る際にも、ジンバルが有利になります。連写合成などを使った夜景モードに比べても、実際に長時間露光しているOsmo Pocketのほうが高画質になりますし、それが手持ちで撮れるわけですから。
――スマートフォンではカメラを複数搭載する製品が増えていますが、DJIの戦略は。
呉氏:スマートフォンは本体サイズに制約があり、薄いボディにカメラを収める必要があるため、多眼という選択肢しかありません。しかし、Osmo Pocketやドローンでは、このアプローチは必要ないのです。我々は、製品のサイズに合わせた最高性能のカメラを搭載できますので、(買収したカメラメーカーの)ハッセルブラッドの技術を使うなどしてもっと画質を追求したいと考えています。
――Osmo Pocketのカメラはハッセルブラッドではありませんでした。今後のハッセルブラッドとの連携は。
呉氏:ハッセルブラッドはブランド性があって、特に色とレンズに対してこだわりがあります。DJIはソフトウェアに強みがありますので、両社の強みを組み合わせて新しい商品を作りたいと思っています。
Osmo Pocketは1/2.3インチのセンサーなので、ハッセルブラッドの技術はあまり反映できません。ブランドの維持という面もあり、より高品質の製品を目指すときに採用したいと考えています。
――Osmo Pocketは業務用途、例えば放送業界での利用などが増えると思いますか?
呉氏:利用は増えると思います。今も、OsmoやOsmo Mobileを自撮り棒などにつけて高い場所から撮影する例もあります。今後は、より小さく軽いOsmo Pocketになっていくのではないかと思います。業務用途では動画が多いので、ブレにくいOsmo Pocketのほうがアクションカムよりもきれいに撮れるのではないでしょうか。
ドローンはライバル不在で「ちょっと寂しい」
――話は変わりますが、今年のドローン市場を振り返ってどうでしたか。
呉氏:業務用のドローン市場は、ドローンに関する制度の改訂が進み、特に農業分野が成長しました。グローバルに比べても制度が早めにでき、農業ドローンの運用ルールや測量に関するルールなど、細かくルールができてやりやすくなっています。グローバルだと、勝手にやってしまうとか、ルール作りがこれからといった状況も見受けられますから。
日本では、特に点検分野や測量分野に期待しています。防災の分野でも伸びています。ほかにも、例えばマンション建築において、上層階の窓からの眺望を建設前に確認する、といった使い方もあります。
――コンシューマー市場の状況はどうでしょうか。
呉氏:3年ぐらい前が一番厳しかったですね。最近は、個人の利用も比較的増えてきていると思います。飛行申請がオンラインでできるようになったりして申請制度が改良されましたし、ドローン自体の進化で格段に安全に飛ばせるようになったことも追い風といえるでしょう。もちろん、現状では都心部で飛ばしにくいなど不安を感じる点もありますが、制度も含めて少しずつ改善が進むことで、飛ばせる環境は広がっていくのではないでしょうか。
メーカーとしても、操縦のための教育をしたり、さまざまな連携をしてオープンにしていくしかないでしょう。時間はかかるので、中長期的なプロジェクトとして考えています。
――コンシューマー向けドローン市場では一人勝ちの状態が続いています。
呉氏:基本的には、ライバルが存在するほうが市場が成長すると思っています。業務用はライバルがいますので切磋琢磨していきますが、コンシューマー向けはライバルがあまりいないので、ちょっと寂しいというのが本音です。
――来年の市場はどのように予測していますか。
呉氏:我々は市場に対しての予想は持たず、自分たちが持っている技術で人々が楽しめるものを作り出すべく頑張るだけです。ドローンの時もそうで、それまで市場がなかったものを作り上げただけで、市場を予測したりはしていませんでした。皆さんにお伝えしたいのは、いまもエンジニアたちが楽しいものを作っています、ということです。
――ありがとうございました。