動画配信はどのテレビで見ても同じ……と思っていませんか?

いまや多くのテレビやスマートフォン、タブレットで視聴できる「Netflix」が、画質を追求した「Netflix画質モード」をソニーと共同開発したと聞き、機能の概要と画質をチェックしてきました。

  • 左から、映画監督・プロデューサーのクリス・コロンバス氏、ソニーの小倉敏之氏、Netflixのスコット・マイラー氏

急成長するインターネットの動画配信

動画配信サービスの利用者が増えています。一般社団法人 日本映像ソフト協会が2018年1月に実施した調査によれば、過去5年間でDVDやBlu-rayなどセルユーザーは横ばい、レンタルユーザーは22%減と市場が縮小傾向にあったのに対し、有料配信ユーザーは約4倍にも増えたそうです。レンタルビデオ店に足を運ぶ回数が減った……にうなずける方々、多いのではないでしょうか。

確かに、見たいときに見たいコンテンツを楽しめる「有料配信」サービスは躍進しています。各メーカーのテレビ新機種では、その多くがNetflixやHulu、dTVといったSVOD(定額見放題)サービスに対応し、リモコンからボタン1つで視聴可能になったことが背景にあります。あとは、どのサービスがどの映画や連続ドラマを配信しているか、要するに自分が見たいコンテンツを視聴できるかどうかで選ぶというわけです。

  • コンテンツ配信のヒストリー。ストリーミングでは、2015年に4K/HDRが登場しました

しかし、ひとつ忘れていることが……それは「画質」。現在の売れ筋は4Kテレビ、コンテンツが4Kか2K(フルHD)かで、映像の鮮明さが大きく変わることを体験している人は多いはずです。特に50インチを超えるような大型テレビでは、じっくり腰をすえて鑑賞するためか、解像度の違いやHDR対応の有無で満足度が大きく変わります。

SVOD各社は、4Kコンテンツの拡充や配信技術向上に余念がありませんが、最終的には受像機・ディスプレイであるテレビの性能とその設定にかかってきます。いくらテレビの性能が高くても、設定が適切でなければ制作者の意図どおりに映像を再現することはできません。

  • テレビの画質進化。画素数(平面解像度)だけでなく、階調解像度や輝度ダイナミックレンジも重要です

ソニー「BRAVIA」のNetflix画質モード

そこでNetflixとソニーがタッグを組んで実現したのが、「Netflix画質モード(Netflix Calibrated Mode)」。制作者側の視点と意図を正確に保ったまま家庭に届けたいという点で両社の目的が一致し、ソニーの映像品質・デバイスの専門家と、Netflixの色彩研究者によって共同開発された技術です。

このNetflix画質モードは、4KやHDRなどあらゆる種類のNetflixコンテンツに対応しており、ソニーの画像処理技術を活用することで、ポストプロダクション(撮影後の編集・映像調整工程)におけるモニターのキャリブレーションと同様の表示品質を実現します。多くの映像制作現場では、1台400万円以上するソニーの有機ELマスターモニター「BVM-X300」が利用されていますが、それと比べて遜色ないクオリティの映像を家庭へ届けようというわけです。

対応する製品は、11月発売の有機ELテレビ「A9Fシリーズ」と液晶テレビ「Z9Fシリーズ」。2018年秋冬の有機EL・液晶それぞれのフラッグシップ機で初搭載されたもので、約2年という期間をかけて開発したそうです。この2シリーズは、映像制作のプロフェッショナルに推奨しうる画質を実現した「BRAVIA Master Series」として展開中ですから、SVODにおいても高画質を追求するのは自然な流れといえます。

  • 4K有機EL BRAVIAの2018年モデル、55型「KJ-55A9F」

  • こちらはK液晶テレビのBRAVIA、65V型「KJ-65Z9F」

日本のNetflixユーザーは、「テレビで視聴する割合は50%、Netflix搭載スマートテレビにおける4K/HDR対応は3台に1台の割合」(Netflixのスコット・マイラー氏)とのこと。4K/HDR対応テレビが普及し始めた時期を考えると、大画面・画質重視のユーザーは多いといえそうです。Netflixの対応も、「HDRコンテンツは200時間以上、4K対応コンテンツは2,000時間以上」(マイラー氏)と、今後さらに充実することが予想されます。

テレビ側の設定は、最初にオプション画面でスイッチをONにするだけ。これでNetflixのコンテンツを、最適な画質で楽しめるようになります(他の映像を見たあとでも自動的に切り替わる)。

Netflix画質モードを実現するためにソニー側が行ったことは、「“秘伝のタレ”ともいえる映像パラメータをNetflixに開示した」(ソニービジュアルプロダクツ 小倉敏之氏)という言葉にも現れていたように、A9F/Z9Fで初めて搭載された高画質プロセッサー「X1 Ultimate」の核心ともいえる部分の情報開示です。

ただし、「X1 Ultimateは従来のX1 Extremeからパフォーマンスが倍増しているが、ビット単位まで映像データの扱いが変わっている」(小倉氏)とのこと。X1 Ultimate非搭載の従来モデルでサポートされることはないそうです。

説明会には、『ホーム・アローン』や『ハリー・ポッター』シリーズで監督を、Netflixオリジナル映画『クリスマス・クロニクル』ではプロデューサーを務めたクリス・コロンバス氏も参加、「この25年間で最大のシネマの革命、“見せたい画”をそのとおりに映してくれる」などと、Netflix画質モードについて大いに語ってくれました。

  • クリス・コロンバス氏は、現在配信中の『クリスマス・クロニクル』でプロデューサーを務めています

説明会終了後、実際に『クリスマス・クロニクル』のいくつかのシーンを視聴しましたが、HDRを利用した輝度表現が的確と感じました。シーンの詳しい説明はネタバレになるので自粛するとして、トナカイの毛並みは4K解像度の効果もさることながら、“いかにもCG”な雰囲気がありません。

たくさんの引き出しが映るシーンでは、その引き出しの木目が自然で、コロンバス氏が「撮影現場に戻ったかのよう」と評していたのもうなずけます。主演のカートラッセルが着ていた“赤い服”の質感もリアルで、これだけの効果が設定変更するだけで得られるのは、インパクトがあると感じました。

NetflixなどのSVOD大手は、オリジナルコンテンツの制作に積極的で、最終表示装置であるテレビでどう見えるかを強く意識しています。制作者の意図(ディレクターズ・インテント)を正確に伝えるためにも、Netflix画質モードは意義のある試みといえるのではないでしょうか。