ソフトバンクとヤフーが展開するスマホ決済サービス「PayPay」は、12月4日より、決済額の20%を還元する「100億円あげちゃう」キャンぺーンを実施する。スマホ決済としては後発で“地味”な存在であったPayPayは、今回の派手なキャンペーンで大きな話題を巻き起こすことになった。

これまで「キャッシュレス化が遅れている」とされてきた日本であるが、昨今は政府による追い風も相まって各社が攻勢をかけている。11月に行われたPayPayおよびLINE Payの発表会の様子から、各社の戦略を紐解いていこう。

「100億円ばらまき」でユーザー獲得へ

「100億円あげちゃう」キャンペーンは、買い物をする際にPayPayで支払うことで、月額5万円を上限に20%の還元を受けられるほか、40回に1回の確率で全額が戻ってくるというサービス。100億円を「ばらまく」ことでPayPayを一気に普及させる狙いだ。

PayPay「100億円あげちゃうキャンペーン」の概要。合計100億円の還元策により、他の決済サービスを猛追する。ソフトバンク・ヤフーのユーザーは、抽選確率が上がる特典もある

なお、これを機にPayPayを使える店舗も急拡大する。飲食店だけでなくH.I.S.やビックカメラなどがPayPayに対応することで、旅行商品や家電といった金額の大きい買い物でも20%還元を受けられるようになっている。

旅行商品や家電にも使える

さらに全国1万7000店舗のファミリーマートと組み、そのうち2000店舗では店頭キャラバンも展開するという。かつてYahoo! BBがADSLモデムを無料配布することでブロードバンドを急速に普及させたように、PayPayにはキャッシュレスで再び社会現象を起こそうという勢いが感じられる。

ファミリーマートでは店頭キャラバンも展開

一方で、課題になっているのが中小企業や小規模店舗への展開だ。キャッシュレスが普及しない理由として、決済手数料の高さや入金サイクルの長さが指摘されている。PayPayはこれらを一つひとつ解決しながら、ソフトバンクの営業部隊が全国の店舗に訪問営業をかけるという。

加盟店向けに「手数料無料」や「翌日入金」を提供

また、普及の鍵を握るのが「QRコード決済」だ。おサイフケータイの「FeliCa」に比べれば手間はかかるものの、導入コストは低い。消費者にとっても、旧型のiPhoneを含むほとんどのスマホが対応しているメリットは大きい。

LINE 出澤社長「現金こそライバル」

大型キャンペーンで注目を集めるPayPayに対し、キャッシュレスで先行するのがLINE Payだ。8月より他社に先駆けて店舗用アプリで「決済手数料0%」を実施しており、中小企業の獲得を図っている。LINEによれば同サービスはすでに大手企業への提案がほぼ終わっており、今後は中小企業に注力していくことから、PayPayとの獲得競争は激化しそうだ。

LINE PayのQRコード決済では、スマホでQRコードをスキャンする方式以外に、専用の端末も提供。さらに11月21日には非接触決済の「QUICPay」と連携することで、全国81万か所で使えるようになった。一方のPayPayは非接触に対応する予定はないとのこと。

LINE PayはQRコードだけでなくQUICPayにも対応した

キャッシュレスの大きな需要が見込めるインバウンド市場を見てみると、PayPayが中国アリババの「Alipay」と提携したのに対し、LINE Payは中国テンセントの「WeChatPay」と提携。タイや台湾に展開するLINE Pay、韓国Naver Payを含めたアライアンスを形成し、アジアからの訪日観光客を取り込む構えだ。

LINE PayはWeChatPayとの戦略的提携

競合との差別化策を着々と打ち出すLINE Payだが、LINEの出澤剛社長は「日本では現金の信用度が高く、キャッシュレスの普及は容易ではない。現金こそライバルだ」と指摘する。国内の事業者でパイを奪い合う段階ではなく、まずは一緒になってキャッシュレスを盛り上げる必要があるというわけだ。

ライバルは「現金」と指摘するLINEの出澤社長

PayPayの100億円キャンペーンが2019年3月末で終了後、4月にはKDDIの「au PAY」が楽天ペイと組んで全国に展開することが予定されている。場合によっては、せっかくキャンペーンで獲得したユーザーが別の事業者に乗り換える可能性もあるために、どのようにしてユーザーをつなぎとめるかが課題になりそうだ。

(山口健太)