今年9月4日放送のTBS系バラエティ番組『有田哲平の夢なら醒めないで』を見て以降、田中道子のイメージが変わった。自虐を交えたエピソードトークでスタジオを盛り上げ、同番組MCのお笑いコンビ・くりぃむしちゅーの有田哲平をして「こんな人だったんだ?っていうくらい面白かった」と言わしめたのだ。
中でも最も印象に残っているのが、モデル時代に受けたオーディションの逸話。「私はミスワールド日本グランプリ・田中道子です」と自己紹介した田中に、面接官の某誌編集長は「その肩書きで勝負できると思ってる?」「それ何の意味があるの? 舐めないでくれる?」と言い放ち、口論の末に田中は涙を流してしまったという。
その言葉を今の彼女はどのように受け止めているのか。ミス・ワールド日本代表に選出された後、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系・16)で女優デビュー。その後も『貴族探偵』(フジ系・17)、NHK大河ドラマ『西郷どん』(18)など、経験を重ねてきた。現在放送中の日本テレビ系ドラマ『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』(毎週土曜22:00~)を含めて出演作を振り返りつつ、“あの日あの時の言葉”を直接本人に投げかけてみた。
『ドクターX』撮影前に不眠症
――日本テレビ系ドラマ『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』に、科捜研の霞沙織役で出演中ですね。
事件で発覚した泥棒の手口から、犯人を分析する役目です。でも、いつも惜しいところで犯人を取り逃してしまいます(笑)。中村倫也さん演じる捜査一課のエリート・皇子山隆俊に対して強く当たるドSな一面もあって、仕事に対して一生懸命なんですが、結果的にはオチがついてしまうちょっとだけ残念な女性です。
――公式サイトには「美脚研究員」と書かれています。
ミニスカートで足をめっちゃ組み替えてます(笑)。撮影初日だけで15回くらい組み替えました。
――現場の雰囲気はいかがですか?
すごく楽しいです。最初の顔合わせの時、中島健人さんが「今までで最高のドラマにしたい」とおっしゃって、すごく盛り上げてくださって。監督も「最後まで粘ります!」と意気込んでいて、雰囲気がすごくいいです。遠藤憲一さんとは『ドクターX』でご一緒させていただいたので、共演シーンが楽しみです。とても優しい方ですが、一瞬で切り替わるのが本当にすごくて。本読みでご一緒させていただいた時に、シリアスなシーンから急に冗談を言ってみたり。その切り替えの瞬発力を感じて、本読みだけでも勉強になりました。
『西郷どん』出演で“ファーストクラス”に
――2016年に『ドクターX』で女優デビューし、今年は大河ドラマ『西郷どん』にも出演。女優として作品に臨む上での変化はありますか?
最近はやっと慣れてきました。『ドクターX』に入る前……実は不眠症みたいになってしまって。西田敏行さんの秘書役だったんですが、泉ピン子さんを弾き飛ばす役でもありました。撮影まで2週間ぐらい寝付けなくて、ずっと胃痛で。実は、撮影初日の記憶がほとんどないんです。終わって現場を出た途端に、ホッとして大泣きしてしまいました。それぐらい追い込まれていたんだと思います。でも、ピン子さんは「思いっきり来ちゃいなさいよ!」とおっしゃってくださって、共演者の方々にかなり救われました。
――それだけの経験をすれば、何事にも動じなくなりそうですね(笑)。
そうですね(笑)。西田さんのアドリブにも鍛えられました。本番までに4回くらいリハをやるんですけど、同じ演技を一度もしないんですよ。すごく神経は使いましたが、そのアドリブに応えられた時の達成感は忘れられません。
それから、『ドクターX』に出させていただいて、街中で声をかけられることが一気に増えました。40~50代の男性が多かったんですが、反響を一番感じることができた作品でした。
――『西郷どん』の反響もすごかったのでは?
大河ドラマに出演させていただいてから、他のお仕事での宿泊するホテルがグレードアップしました(笑)。私としては全然狭い部屋でよくて、飛行機もエコノミーで全然いいんですけど、ファーストクラスを用意してくださったり。ありがたいですが、その分がんばらないと……そういうプレッシャーは感じます。
――共演者から吸収することもありそうですね。
23歳からスタートしたので、正直、常に焦っています。何事も無駄にしたくないというか。『絶対零度』では俳優のマギーさんとコンビを組む役だったんですが、待機中もずっとマギーさんと話していました。脚本も書く方なので、すごくいろんなことを教えてくださったんですよ。脇役の心得とか。『貴族探偵』では生瀬勝久さんとの共演シーンが多かったので、“ギョロ目の極意”を(笑)。共演者の方々には本当に恵まれています。
『ドクターX』の時に唯一後悔しているのが、大御所の方々に遠慮してしまって積極的に話しかけられなかったこと。新人が出しゃばったらダメという思いがあって、もっとみなさんとお話していればよかったと今振り返って思います。生瀬さんは『ドクターX』から続けての共演だったので、お話ししやすかったです。そうやって周囲から急いで吸収しないと、時間がない……。
オスカー恒例会見「女優宣言」の意味
――そこまで焦るということは、年齢ごとの目標みたいなものが決まっているから?
年齢は全く決めてないんですけど、アクション映画をやりたくて。若いうちにしかできないこともあると思いますので、「30代前半ぐらいまでに出たい」ぐらいのことは考えています。だから、急いでいます(笑)。
――その目標に向かって、今は順調に歩んでいる。
どうなんでしょう……。
――オスカープロモーションでは、毎年「女優宣言」の記者会見が実施されています。田中さんが登壇した際、米倉涼子さんは「恥ずかしがらずに分からないことは何でも聞く」とアドバイスされていましたね。田中さんはまさにそのことを実行されているように思います。
ありがとうございます。『ドクターX』の時に実行できなかった反省があります。以降の現場では、どんなに些細なことでも聞くように。米倉涼子さんの言葉は、今でも胸に残っています。私は「26歳の新人」からスタートしているので、逆に開き直れてよかったかもしれないです。
自分の中でも丸くなったというか。モデル時代は、弱みを見せないようにとか、すごく殻をかぶっていたんだと思います。「できない」と認めることが恥ずかしくて、完璧主義みたいなところはあったんですけど、女優のお仕事で「新人」として再スタートして、焦りもありますが、気持ちが楽になった部分もありました。