インターブランドジャパンが、ブランドの価値ではなく「ブランディング活動」にスポットを当てた「Japan Branding Awards 2018」の結果発表を行った。
これまで同社は「財務力」「ブランドが購買意思決定に与える影響力」「ブランドによる将来収益の確かさ」を指標化し、ブランドの価値を金額に換算。それを「Best Global Brands」と銘打ってランキング形式で発表してきた。ちなみに2018年10月に発表されたランキング上位5は、1位:Apple(214,480 US $ million)、2位:Google(155,506)、3位:Amazon(100,764)、4位:Microsoft(92,725)、5位:Coca-Cola(66,341)だった。気になる日本企業のトップは7位:Toyota(53,404)で、全世界のクルマメーカーでトップの座を死守した(資料が掲示されている2010年からクルマメーカーのトップ)。
では、Japan Branding Awardsの評価基準はどこにあるのか。それは「ブランド力を育てる手法」にある。前述の金額換算によるランキングでは“グローバルに展開する”“資本力が強い”“多くの消費者に認知されている”といったことがランキングに直結し、AppleやGoogle、Amazonといった超大企業が常に上位を独占してきた。
だが、そうした大企業ではなくても、優れたブランドを有する企業はあまたある。そこで、企業のブランディング手法に焦点を当て、アワードというカタチで評価しようというのがJapan Branding Awardsで、日本では初の試みとなる。
このアワードの難しいところは、指標化されたデータをもとに単にランキングを作成するのではなく、企業がどういう姿勢でブランディングを行っているのか見極めなければならないこと。このアワードの受賞対象を決めるにあたり、インターブランドは各企業が有する技術力、サービス、商品力はもちろんのこと、ブランドの価値をいかに構築するかの手法に注視したそうだ。
では、第1回となるJapan Branding Awards 2018の受賞企業をチェックしてみよう。ちなみにこのアワードは、賞の内容に理解を示した応募企業から選出される。Japan Branding Awardsは、特徴的な活動で成果を出した取り組みに贈られる「Rizing Stars」、応募企業の中で優れた取り組みに贈られる「Winners」、受賞企業の中で特に優れた取り組みに贈られる「Best of the Best」からなる。
まずはRizing Stars受賞企業について。受賞は2社で「B.LEAGUE」(公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボール」と「一風堂」(力の源ホールディングス)だった。B.LEAGUEは、2リーグ分裂、国際バスケットボール連盟からの国際資格停止処分という難局を乗り越え、ブランディング活動に注力したことが評価された。一風堂は、ラーメン店にありがちな創業者気質から離れ、グローバル化を目的としたブランディングが着目された。
Winnersは「BANDAI NAMCO Enterteinment」(バンダイナムコエンターテインメント)、「Daiwa House Groupe」(大和ハウス工業)、「Yamaha Moter」(ヤマハ発動機)、「YOKOGAWA」(横河電機)の4社が受賞。バンダイナムコはバンダイとナムコの統合以降、企業理念が希薄だった。それを解消するためと認知向上のため、ブランディングに取り組んだ。大和ハウスは、グループ企業という強みを生かせず個々の事業にバラバラ感があった。それをひとつにし、強い経営体制を築くためにブランディングを加速させた。ヤマハ発動機は、2012年から取り組んでいる「Global Executive Committee」で、ブランドを主要テーマとした。その価値が向上しているかどうか、測定・定量化して、それを各事業にフィードバックしている。YOKOGAWAは、2015年に創立100周年を迎えたのを機に、事業を取り巻く環境の変化に対応するべく、ブランド再構築プロジェクトを開始した。
そしてBest of the Bestに選ばれたのが「茅乃舎」(久原本家)、「matsukiyo」(マツモトキヨシホールディングス)、「Panasonic」(パナソニック)、「Suntory」(サントリーホールディングス)の4社。茅乃舎は、グローバル展開に向けて社員が急増。社員増による自社のアイデンティティを失わないためにブランディングを強化した。マツモトキヨシは、2005年からスタートしたオリジナルブランドの認知度向上のため、ブランディングに注力してきた。Panasonicは、2013年から“BtoC”から“BtoB”領域に舵を切ったが、BtoB領域での認知向上を早めるためにブランディングに邁進した。Suntoryは、海外に広がるグループ企業に対しプレゼンスを強化することが課題になり、ブランディングを活用した。
このなかから、受賞者の弁を紹介しよう。茅乃舎がなぜブランディングに注力したか。久原本家グループ本社 代表取締役 河邉 哲司氏は、「弊社は125年続く老舗ではあるが、本業である醤油製造だけでは、大きな成長どころか今後の継続も危惧される。そこで着目したのがブランドの育成。醤油以外の製品開発にも力を入れて、総合食品メーカーとしての認知を得た。福岡県の田舎の企業がブランドで活力を得る事例があれば、ほかの地方企業にもよい影響があるのではないかと思う」と話した。
また、審査にあたった一橋大学ビジネススクール 国際企業戦略専攻教授 阿久津聡氏は、「ブランド価値そのものは、一瞬で崩壊することがある。だが、ブランドを形づくるブランディング能力は社内で継承され、再活用が可能だ」と、ブランディングの重要性について語った。
最後に、このアワードの主催者であるインターブランドジャパン 代表取締役社長兼CEOの並木将仁氏は、「クリエイティブそのものを評価するのは簡単だが、企業のなかでブランディングがどのように進められているのか、見極めが難しい。だが、今回のアワードをとおして『チャレンジして失敗を恐れるよりも、何もしないことを恐れろ』という言葉が思い浮かんだ」と、本田宗一郎氏の言を借りて授賞式を締めくくった。
(並木秀一)